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第130話 再生の欠点

130話、到達です!

今、決着の幕が上がる。


「食らいなさい!!!!」

「おっらああああああああああ!!!!」


 ハルは握った聖槍を力の限り投げ飛ばした。

 ティアナの放った氷塊は真っ直ぐにハルへと向かう。

 腕を軋ませながら飛び出た聖槍は、氷塊と相対した。


「「ぶっ飛べ!!!!!!!」」


 2つの鉾は、鋭い悲鳴を上げる。

 凄槍と氷塊が触れ合った途端、眼を潰す様な光がフィールドを満たした。

 凄まじい速度で亀裂が走り、双方同時に暴風と共に砕け散った。


「……っ」

「は、」


 場外へ吹き飛ばされそうになる程の勢いを持つ暴風に、2人は一生懸命フィールドにしがみ付く。

 光と共に消えた風に眼を開けた2人は、まっさらなフィールドを、真っ直ぐに立つ相手を、見つめていた。


「な、なんという事でしょう!? ティアナ選手の渾身の攻撃を、ハル選手、単身で防ぎ切った!!!」


 司会と共に湧き上がる観客。

 2人は、ただ黙って互いを見合う。

 司会の言葉に納得のできない一部の人間は、首を捻ってハルを見つめた。


「……単身、な」

「ハッハッハ! 確かに、視界席からだと、お嬢さんの氷塊で陰になって見えねぇわな。そりゃ、ハルが文字通りの魔法を使ったとしか思えねぇよ」


 観客席で、ブレアが手を叩く。


「あの槍は、恐らく持ち主にしか使用できない類の神器でしょうね」

「あぁ、間違いなく。槍に付与されていた加護も失われるのだからティアナが使用する時以下の能力しか発動できない。それを承知でアイツは振り回したんだろ」

「確かに『単身』であったに違いねぇ」


 ドレットは静かに、アルフは言葉を噛み締めながら手を叩く。


「……褒めておいた方が、いいわね」

「お前の方こそ、だろうが」


 ハルとティアナは、互いを称賛する様に、

 手を叩いた。


「ん蔦ああああ!!!」

「炎の女神、ヘスティアああああ!!」


 フィールドを覆うほど大量の蔦と、フィールドを焼き尽くすほど大火力の炎が同時に発生した。

 燃え盛る蔦は崩れ落ちながらティアナへと向かう。

 蔦によって押し殺される炎は熱気を発しハルの皮膚を焼く。

 自滅上等。


「蔦、蔦、蔦ああああああ!!!」

「炎の女神!!」


 蔦を率いて、炎を纏って、踊り狂う。

 制服は焦げ、皮膚は切り傷と共に火傷を負う。

 『無傷』故の『無敗』など、もはやどこにもない。


「ヘスティア!!!!」

「蔦っ、あああああ!!!」


 ハルは、ティアナの立ち位置の真下から、蔦を突き上げながら、逃げ場を無くすように、同じように地中からランダムな位置へ蔦を発生させた。


「っ、甘い!!」


 ティアナは天高く飛び上がりながら、蔦を燃やしていく。

 炎の海となったフィールドで、2人は屍を踏み越える。


「「はあああああ!!」」


 灰と化す蔦を易々と飛び越え、2人は対峙する。

 不規則な位置から定期的に発生する蔦に、ティアナは徐々に慣れていく。


(あんな大魔術使っといて、まだふらつきもしねぇ!! あぁもう、正真正銘のバケモンだよ、お前は!!)


 歯噛みするハルは、自身の魔力切れを勘付きながら魔術を展開する。


「あーあー、可哀想にな。お嬢さんの相手なんて」

「……ブレア、」

「クソガキに勝ち目はなかったよ」

「最初から、お兄様には分が悪い試合です。勝ち目がないのは、お兄様自身が痛感していたでしょうから」

「レイ?」


 観客席から、東ゲートから、2人の瞳が1人を捉える。

 息も絶え絶えになりながら走る1人を。


「今だって、ついて行くので精一杯で。勝つビジョンなんて、一切見えていないのでしょう」

「魔術じゃ負ける。格闘技じゃ負ける。戦術じゃ負ける。経験値じゃ負ける。どうしたって、爪をかけるので精一杯だ。実際、傷つけただけ褒められたもんだからな」

「これ以上爪痕を残すには、更にもう一歩を強要されます。魔力に限界のあるお兄様では、もう踏み出すことは不可能でしょう」


 共に在るからこそ分かる、限界。

 それを知っていようといまいと、観客は舞い踊る2人に胸を躍らせる。

 それでも、それでも、と。

 無敵を壊す不可能を、望まずにはいられない。

 1人を見つめる2つの双眸は、確信に満ちていた。


「それでも俺の弟子は、」

「お兄様なら、」


「「爪だけでは、きっと済まない」」


「おらあああああ!!!」


 ハルが咆えると同時、一束の蔦が発生する。

 右腕を横に振るハルに合わせ、蔦の束はティアナへと襲い掛かった。

 己の炎で囲まれたティアナに、逃げ場はない。

 ハルが勝利を確信した、その時。

 ティアナの口角が大きく上がった。


「死と再生の神が一柱、キュベレー!!」

「なっ!?」


 途端、ティアナを中心に光が発生し、時が巻き戻り始める。

 ティアナへと向かっていた蔦の束は徐々に地中へと戻り、逆再生の様に2人の体は動く。

 宙へ飛び上がるティアナを、後ずさりながらハルは見上げる。

 勝利を確信するティアナは、だが。

 今度は、ハルが大きく口角を上げることになる。


「……?」


 ハルの表情に疑問に思うティアナは顔を顰める。

 その真意に気付くまで、彼女は巻き戻る時間を使った。


「……時間が巻き戻る間、俺達は自分の意思で動くことはできないのか?」


 ティアナがこの魔術をハルに見せるのは、これで1度目。

 一度目は、制服を直すために。

 その時、ハルとレイは、はたして、動けなかったのか?

 投げられた疑問に、ティアナは静かに答えにたどり着く。

 自分へと伸びる影に、ティアナは後ろを振り返った。


「キュベレーは、正確には時間を司っているわけではなく、あくまで生を再生させているに過ぎないんだろ? ならそこに、自由意思が入り込む余地はある!!」

「まさかっ!?」

「その、まさかだぜ!!!」


 眼を見開くティアナに、嗤うハルは右腕を振った。

 それに合わせ、地中より発生した一束の蔦がティアナの体目掛けて折れ曲がった。

 数束ある蔦の中から、一番彼女の近くにあった蔦。

 不規則に、定期的に発生していた蔦の束。

 ティアナが慣れてしまっていたそれは、ティアナの体を受け止め、吹き飛ばした。


「くっ、ああああ!!!」


 再生されていくということは、蔦がハルの命令を再度聞けるようになるということ。

 道を開けるように、蔦はティアナを避ける。

 掴むものもなく、成す術もないまま、ティアナの体は東ゲートへと放たれた。


「ティアナさん!」


 飛ばされたティアナの体をレイが受け止め、レイの体をドレットが支える。

 身体が軋むのを感じながら、ティアナはフィールドを見る。

 フィールドに、ただ1人立つ、彼の姿を。


「……私の、負けね」


 男は、まだ炎の残るフィールドで、蔦を従えそこに立つ。

 ティアナが微笑むのを見つめ、そして。

 ゆっくりと掲げた右腕に力を込め、右手を強く握りしめた。


「っしゃああああああああああああ!!!!!!!」





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