第128話 氷柱
(想像はしてた、何度も、あぁ何度も! 予想ハズレなんてもんじゃねぇ。ゴーレムとやりあった時と同じか、それ以上だ! 単純な魔力量の差が、ここまで勝負に影響するとは……!!)
制服に着いた砂を払い、ティアナは真っ直ぐにハルを見つめ、指をさした。
「もう1つ、褒めてあげる。この私に単騎で傷をつけられたのは、貴方が初めてよ!」
「ハル選手、なんという事でしょう! 無傷故に無敗を誇っていたティアナ選手に、攻撃を入れて見せました!! これは、1回戦同様、簡単に勝敗を付けることはできないか!!?」
司会の言葉に、会場は大いに盛り上がる。
ティアナはこの2年、魔術戦に置いては無敗であった。
その上に盛られた『無傷』という言葉に、ハルは不覚ながらも納得する。
(あぁ、そうだろうよ! あんな短期決戦な戦法取られちゃ、こっちが動く前に勝負が決まる!)
強気に笑って見せるティアナに、ハルは口角を上げる。
痛みが走る腕の動作を確認する様に、ハルは両の手を強く握った。
「その腕、辛そうね。治してあげようか?」
「ハッ、余裕ぶってんじゃねぇよ。今から負けるの怖がってんのか?」
互いに手を抜いたりしない、下に見ない、実力から、眼を逸らさない。
普段通りに悪態をつきあう2人は、眼を見開いた。
「蔦ァアア!!」
「風の女神、ゼピュロス!!」
(俺が魔術を使える回数を、ティアナは大体把握している。無駄撃ちを誘うこっちが先に残機つきそうだ!)
「冬の女神、」
直進する突風を、蔦が真っ二つに斬る。
蔦の後ろからティアナへと突き進むハルに、彼女は更なる攻撃をしかけた。
「スカディ!!」
荒れる風が徐々に温度を失っていく。
雪を、氷を纏った風は吹雪の様に形を変えハルを襲った。
「ティアナぁ!!!」
「やれるもんなら、やってみなさい!」
速度を落としながらも向ってくるハルに、ティアナは長く鋭い氷柱を発射した。
「蔦ァア!」
ハルは、蔦を使い氷柱を弾き、ティアナへと投げ返す。
ティアナは返された氷柱を、吹雪を使い弾き、器用に砕く。
「同じ手が通用するとは、思わない事ね!」
「んなこた分かってるんだよ!」
止まず発射される氷柱を、ハルは捌きながらティアナに噛み付く。
その中に1本、ハルの心臓へ向けて飛んでくるものがあった。
「!?」
「お兄様!!」
東ゲートから、青ざめたレイが悲鳴を上げる。
蔦の隙間をくぐった氷柱に、ハルは、口角を上げて見せた。
「おっ、らあああ!!」
飛んでくる氷柱に対し、ハルは徐に手を伸ばし、その氷を掴む。
しかし、滑る氷は両の手だけでは止められず、氷柱は、ハルの身体に突き刺さった。
「!?」
会場がどよめく。
ティアナもまた眼を剥き、ハルを見つめた。
「クッ、お、あああああ!!」
ハルは苦しそうに歯噛みしながら、体から氷柱を引き抜く。
彼の表情から、咄嗟に、ティアナは魔術を発動した。
「癒しの女神、」
「野暮なこと、してんじゃねぇぞ!!」
「なっ、!?」
動きを止めないハルは、氷柱を手にティアナへと突進した。
驚愕と混乱の中にありながら、ティアナは足元に転がる氷柱を手に取る。
ハルは、ティアナへ氷柱で斬りかかった。
「はあああ!!」
「ッ! あんたね、え……?」
氷柱を氷柱で受け止めたティアナは、ハルを叱責しようとし、その胸元に眼を留めた。
穴が空いた制服から覗くそれに、ティアナは眼を丸める。
そこからは、血が一滴も流れていなかった。
「お前に突っ込むのに、俺が何も対策してないとは思ってないだろ!」
「……えぇ、思ってたわ!」
ハルの体に巻かれた蔦に、ティアナは大きく口角を上げる。
斬りかかるハルを、ティアナは受け止め、躱し、薙いで行く。
「格闘の次は剣術?」
「妹がやってるのをずっとそばで見てきたんでね!」
「ほんっと、規格外なんだから!」
氷柱を交える2人の表情は、とても楽しそうだった。
「こっちの方が、俺らしいんでね!」
「えぇ、そうでなくちゃ!」




