第12話 対立
「そんなに珍しいの?」
純粋に問うティアナに、一瞬呆気にとられたレイは、しかしすぐに我を取り戻す。
「そんなこともわからないんですか。やはり胸がない方が知識もないんですね」
「なっ、胸とは関係ないでしょう!?」
自分の胸を抑えながらティアナはレイへ抗議する。
比べて腕を使ってわざと強調されたレイの胸部は、テレサほどではなくとも、確かにティアナよりは大きさがあった。
「私より大きくなってから言ってほしいものですね」
「なんですって!?」
強調した胸を見せつけられ、鼻で笑われたティアナの怒りは降り積もる。
(この子、やっぱりハルの妹だわ……! この私に、初対面から罵声を浴びせるこの感じ、ハルと全く同じだもの……!)
「私、貴女みたいな人、嫌いよ!」
「私もお兄様を誘惑する人は大嫌いです」
互いに威嚇し、2人は距離を詰めていく。
睨み合う2人は、徐々に集中力を高めていき、臨戦態勢に入った。
「やるの?」
「やりますか?」
2人で意思を確かめ合い、間合いを取る。
ティアナは右手を前に静かに伸ばし、神経を集中させた。
レイは持っている刀を左手で静かに握りしめ、柄に右手を伸ばす。
相手を観察し、狙いを定め、機会を窺う。
静かな時間が流れ、そして唐突に、2人は同時に魔術を発動した。
「風の女神! ゼピュ…」
「やぶさ…」
「蔦ァ!!!!」
2人同時に発動させた魔術は、しかし打ち出すよりも早くハルの魔術によって遮られた。
突如として2人の足元に現れた蔦は、体に絡みつき、身動きを封じる。
1つ息を吐いた後、ハルは両手を自分の前に出し、勢いよく合わせる。
パァンッ、と軽快な音が響くと、蔦は2人を持ち上げ、そのまま一緒くたに絡みついた。
「「キャァッ!!」」
悲鳴とともに絡まる蔦は、緩むことなく2人の華奢な体を締め上げる。
蔦によって、2人の体は強制的に触れ合うこととなった。
「そのまま仲良くしてろ~」
2人を捕獲に成功したハルは満足そうに頷いた。
踵を返し、ひらひらと手を振って歩くハルに、2人は猛反発する。
「お兄様!? これ外してください!」
「何すんのよ変態! サイテー!」
「な、お兄様は変態でも最低でもありません!」
「はぁ!?」
そのまま言い争いを始める2人をよそに、食堂へ向かって歩き始めたハルは、両手を頭の後ろに組み、微かに笑う。
「いやぁ、俺ってば超親切!」
二人の悲鳴は、ハルに届かぬまま。
夕焼けに溶け込んだ。