第120話 母娘
先日は合計二話投稿しました
本日一話目の投稿です
レイの身体に緊張が走り、その場に固まる。
恐怖だけは表情に出さぬ様こらえながら、レイはフィーネを真っ直ぐ見据えた。
「お母様、」
「ご苦労であった」
絶対零度に近い温度で告げられた言葉に、レイは条件反射で頭を下げた。
「ありがとうございます」
頭を下げている間、レイはフィーネの顔から視線を外すことになる。
レイはこの間、自分の母親が何を考えているのか分からなかった。
「しかし、無様よな」
「……ッ」
続けて紡がれた言葉に、レイは僅かに肩を震わせ唇を噛む。
フィーネは扇子を閉じ、片手で弄びながら言葉を発す。
「申し訳ございません」
「あれほど失態をさらしておいて、たかが『勝てた』というだけで喜んではおるまいな?」
眼を細め、フィーネはレイの心の奥底を見透かすように瞳の色を濃くする。
顔を上げず、悔しさと恐怖を混ぜた表情を隠しながらレイは謝罪する。
「ハルから魔術回廊を譲り受けておりながら、この程度とは笑わせる」
「申し訳、ございません」
自分の拳に力を込め、唇を噛みちぎれるほどに噛み続ける。
フィーネは、揺れるレイの銀髪に眼をやり、一蹴した。
「貴様は身体を内側から食い破られながらでないと戦えぬ身」
魔力切れについて言及するフィーネは、再度扇子を開き、口元に寄せレイに鋭く尖った言葉を浴びせた。
「やはり、銀髪に魔術など到底扱えぬ代物だという事だ」
「そのような、ことは……!」
己の魔術の否定が何につながるか、アルフに教えられたレイはフィーネの言葉を受け、咄嗟に反論しようと口を開き、だがすぐに後悔した。
「なんだ?」
「いえ、何でも、……ございません」
鋭く光るフィーネの瞳に、レイは再度頭を下げ口を閉ざす。
凍りつくほど冷たい母親の空気に、雰囲気に、瞳に震え上がり、レイはフィーネの言葉を体に刻まれていく。
「身の程を知れよ。貴様をここへ送り込んだのは我が血統から引きはがすため。捨て駒に過ぎぬということをしかとその胸に刻み込め」
「……承知いたしました」
震える肩を銀髪で隠しながらレイはフィーネの言葉を飲み込む。
フィーネは踵を返し立ち去ろうとしたが、数歩進んだところで足を止め、視線だけをレイに向けた。
「しかして、貴様、身体に何を混ぜている?」
「……どういう、意味でしょうか?」
顔を上げ、レイは母親へと視線を送る。
言葉の意図を理解できない娘に、フィーネは何も言わず歩みを進め始めた。
「いや、忘れよ」
「お母様!」
引き留める様に叫ぶレイに、フィーネは冷気を更に濃くし、レイを睨みつけた。
「私は、貴様の母親などではない!」
「……ッ!」
眼を開き、顔を歪めるレイを置いてフィーネは歩み続ける。
呆然と立ちすくむレイは、フィーネの姿が見えなくなった後、その場に座り込んだ。
「お母様……」
レイの瞳から、凍てついた氷の涙が一粒流れ落ちた。
第119話の内容を大きく変更いたしました。
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