第11話 妹
「お兄様、お怪我はございませんか?」
続けて問う少女にゆっくりと歩み寄るハルは、肩を竦めて答えた。
「あぁ、特に何も?」
その仕草を見て、少女はハルの右手首を睨み、続けて左足を見る。
少女の方もまたハルに歩み寄り、怒気を含んだ声で迫った。
「嘘をおっしゃらないでください。怪我をしているではないですか。ちゃんと見せてください」
そう言って少女は、ハルの右手を両手を使って丁寧に包み込み、自分の胸元に寄せる。
一方、まるで存在しないかのように扱われているティアナは、目の前で繰り広げられている会話に理解が追いつかなかった。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
なんとか両手を拘束していた縄を自力でほどき、体を隠しながら2人に問う。
同時に向けられた4つの瞳に、びくりと肩を震わせながら、問いを重ねた。
「お兄様、って……」
「あぁ、コイツ、俺の妹。レイだ」
少女について尋ねるティアナに、当然のようにハルは自らの傍らに佇む妹を紹介する。
確かに、レイと言われた少女はどの角度から見ても端正な顔立ちであることは間違いがなく、自らが纏う妖美な空気はどことなくハルに似ていた。
説明されて尚理解に苦しむティアナは、2人を交互に見比べる。
そんなティアナを顔、胸、足、顔の順番でじっくりと観察したレイは、先程ハルにかけていた可愛らしい声ではなく、背筋が凍りそうなほど冷たい声でティアナに告げた。
「そのような貧相な体でお兄様を誘惑しようなどと、500億年早いんですよ」
「……へ?」
鼻で笑うレイに、今一度自分の置かれた状況を思い出したティアナは、顔をマグマのように赤くし慌てる。
「こ、これはアイツが!」
ティアナは、今は部屋の中で気絶しているであろうブレアのいる教室を指さし弁解を試みるが、レイには通用しない。
「他人を使って、ですか」
「ちがーう!!!」
あれこれと言い合う2人を見て、溜め息を吐くハルは、1つ提案をした。
「とりあえず、服着たら?」
まじまじとティアナの体を見るハルに、なお一層ティアナは顔を赤くし、すかさずレイはハルへ目潰しを繰り出す。
「ぐあぁあああ!!!」
突然の妹からの攻撃に、なすすべもなく目を抑え転げまわるハルを見下ろし、レイは静かに告げた。
「このような拙い体を映すなど、お兄様の眼が腐ってしまいます」
「だからって目潰しする必要があんのか!?」
激痛に対し抗議するハルを適当にあしらいながら、レイはティアナに背を向ける。
その行動に、ティアナはレイを見直した。
(……あ、一応気を遣ってくれるんだ)
レイの意図に気付いたティアナは、他に人がいないか周りを確認した後、魔術を発動した。
「死と再生の女神、キュベレー」
ティアナが静かに魔術を発動した瞬間、バラバラに散っていたティアナの制服は、ふわりと舞い上がり元の形を取り戻し、ティアナと体に纏われる。
「言霊ですか……!」
ティアナの魔術を横目で見ていたレイは、驚いた表情で言葉を漏らす。
ようやく視界が回復したハルは、制服についた汚れを払い、面白そうに妹を見る。
「やっぱ驚くよな」
笑いかける兄に、レイはバツが悪そうに視線を逸らす。
2人の反応に新鮮さを感じるティアナは首を傾げ、兄妹を見つめた。
銀髪紫眼の美少女っていいですよね