第111話 活路
本日二話目の更新です
魔術刀を具現化させたレイは動かない。
代わりに、アルフが何の魔術も使わずにレイへと迫る。
「うらああぁあ!!」
(……っ、やはり、こちらでしたか!!)
レイが最後に考えた、勝機が最も薄い最悪な一手。
アルフが最初に魔術を使わないということは、逆にどこで使われるか分からないという事。
王手をひっくり返される一手。
たとえレイがアルフの喉元に刀を突きつけようとも、魔力を温存しているアルフに魔術を発動されれば立場は逆転してしまう。
(簡単に勝てる相手ではないことくらい、分かってはいましたが……! やはり貴方は、)
「それなりに、策士ですね!」
レイは迫りくるアルフへ向け、魔術を以て迎え撃つ。
(アルフは、凄まじい身体能力に加え、瞬発力も素晴らしい。どれを撃っても避けられる可能性が高いのなら、一手目は私の十八番で行きます!)
「我が導に従い、その力を示せ! 流鏑馬!!」
魔術刀から放たれた斬撃を、アルフは難なく避けきって見せる。
止まることなく加速するアルフに、レイもまた跳びだした。
(剣士にとって、相手の先を読むという行為は何より大切なこと。それを、アルフ相手に……)
「いいえ、読み切って見せる!」
腹を括る様に顔を上げたレイに、アルフは容赦なく拳を振り下ろす。
刃で拳を受け止め、跳ね返そうとするレイに、押し切ろうとするアルフ。
圧倒的な力の差を前に、レイは歯を食いしばる。
(強い……! その上重すぎる!! このままでは、腕がやられてしまう!)
「!?」
その時、魔術刀の刃にヒビが入り、音を立てて崩れ始めた。
レイは魔術刀を魔力へ変換することでアルフの拳を地面へと促し、後ろに大きく跳んだ。
(脆い……! 特訓で、ブレアさんを戦った時もそうだった。どうして、こんなに脆く……!?)
魔術刀を再度具現化させながら、レイは内心戸惑い続ける。
チーム戦ではあり得なかった事態に、魔術刀へ眼を落としながらレイは考える。
(この強度では、アルフを相手に立ち回れない! 何が原因? 一体、どうして……)
「……魔力が、濁っている?」
以前よりも鈍い光を放つ魔術刀に、レイは顔を顰める。
本来、魔力に対して使うことの無い言葉を当て嵌め、だが納得の行くことに混乱しながらレイはアルフへ向き直る。
(私の中にある魔術回廊はお兄様から頂いたもの。だとしたら、お兄様か私のどちらかの体に異変が……? あぁ、フィールドに上がってからこんな大事なことに気付くだなんて!!)
唇を噛み顔を歪めるレイに、アルフは何かを察しながら、それでも手を止めることなくレイへ殴り掛かる。
「ボサッとすんな!」
「!?」
振り下ろされた拳を横へ躱しながら、レイは頭を回し続ける。
しかしそれが仇となり、アルフの蹴りをまともに食らうことになった。
「!?」
(脚!? しまった、今まで使っているところを見ていなかったから、完全に油断していた!!)
背中に入れられた蹴りに、レイは仰け反りながら飛ばされる。
受け身を取ることさえ叶わず、レイの華奢な身体は地面に叩き付けられた。
(痛い……。重い、強い、硬い……!! 今の魔術刀ではチーム戦の時のような戦い方はできない。どうする……!? 私の魔力量と空気中の魔力濃度だと、恐らく同時に出せて二振り! 二振りとも具現化し続ければそれだけ魔力の減りも早い。どうする!?)
「こっちだ!!」
「!?」
背後へ近寄っていたアルフが、合わせた両の拳をレイへ向け振り下ろす。
咄嗟に魔術刀で拳を受け止めたレイは、目の前で刃が折れるところを目撃することとなった。
「……!!」
(そんな……!! 折れる、なんてこと今まで一度も……!!)
迫りくるアルフの拳がレイの瞳一杯に映る。
その光景に、レイは反射的に折れた魔術刀を投げ捨て、空いた手にもう一振りの魔術等を具現化させた。
「何ッ!?」
「……え?」
鞘に収まったままの魔術刀は、鞘無しのときよりも強度が上がり、折れることなくアルフの拳を受け止める。
「ッ、はあ!!」
力任せにアルフの拳を弾いたレイはすぐさま後ろへ跳び、自分が投げ捨てた魔術刀へ眼をやる。
魔力へ変換されている最中であった魔術刀に、レイは大きく眼を見開く。
(……そうだ、そうすればよかったんだ!!)
辿り着いた答えに、レイは無意識に嗤う
(魔術刀を、一度に何振りも出す必要はない。折れたら出せばいい!! 魔術刀は一度攻撃したら使い捨てる!! 折れていても、折れていなくても。そうすれば空気中の魔力濃度に変化はなく、永遠に戦える……!!)
その表情が、アルフにそっくりなことも気づかずに。
対戦相手の表情の変化に顔を顰めるアルフは、再度雰囲気の変わったレイに警戒心を強める。
「……活路は、開けました」




