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第107話 勝者

本日三話目の投稿です


「勝者、ハル選手!! 絶望的な局面からの大逆転劇を繰り広げました!!!!」


 司会の声と共に会場が大いに湧き上がる。

 怒涛の歓声に包まれながら、2人はゆっくりとフィールドを後にした。


「ハル!!」

「お兄様!」


 足を引きずりながらゲートへと戻ってきたハルに、ティアナとレイが駆け寄る。

 2人の顔を見て力が抜けたハルは、傷だらけのその身体をティアナに受け止められた。


「……お疲れさま、ハル」

「うるせぇ……」


 優しく声をかけるティアナに、ハルは普段通り悪態をつく。

 しかし、その表情は満ち足りていて、なんとも言えぬ温かさがあった。


「控え室に行きましょう。歩けますか?」


 寄り添うように立つレイに、ハルは力なく笑い、自分の足で歩き出す。

 ハルを支えるように両脇に立つティアナとレイは急かすことなく3人で控え室へと向かった。


    ***


「はぁー……」


 控え室にて、席に着いたハルは大きく息を吐き出す。

 机に突っ伏し、痛む体を意識しないよう会話を試みて、失敗する。


「それにしても、激戦だったわね」

「決勝かと思った……」


 ハルは自分の頭を撫でるティアナの手を払う気力もなく、放置しながら同意する。

 脱力モードに入ったハルを介抱しようとティアナとレイが動き出した時、扉が開いた。


「おつかれー」

「あー、ドレット……」


 間の抜けた声に、ハルは扉へと視線を投げ眼を見開いた。

 ドレットに続きフィーネとその執事が控室に入ってきたことにより、3人の間に緊張が走る。

 ハルは痛みも関係なく、勢い良く立ち上がり、レイもそれに倣う。


「ふむ、ご苦労であった」

「ありがとうございます」


 フィーネからの労いの言葉に、ハルは軋む体に無理を言わせて頭を下げた。


「しかし、なんとも見苦しい戦い方であったな」

「……申し訳ございません」


 フィーネとの会話を続けながら悲鳴を上げぬ様歯を食いしばりながら頭を下げ続けるハルの制服を、唐突に小さい手が引っ張った。


「……?」

「怪我人、は、安静に」


 聞きなれない声に、3人は視線を声のした方へ向ける。

 するとそこには、チーム戦3回戦で戦った三つ子が立っていた。


「なっ!?」

「貴女達!」


 いつ入ってきたのかも悟らせなかった3人の1年生は救護班である証として配られる腕章をつけており、手には救急箱を持っていた。


「あぁ、そいつ等、お前の担当だから連れてきた」

「勝手に、いなくならないで」


 小さな可愛らしい声で告げる三つ子に、ハルは盛大に顔を顰める。

 

(今母親と話してんだけど!? 割って入るか普通!? これ、俺の首飛ぶんじゃね?)


 恐る恐るフィーネの顔色を窺うハルの眼に映ったのは、哀色を滲ませた眼を細めるフィーネの顔でありった。

 その表情からは予想に反し、怒気は一切感じられなかった。


「……お母様?」

「無様をさらしておいて、いい度胸であるな」


 しかし、すぐにハルの知る当主の顔に戻ったフィーネに、ハルは急いで頭を下げ直す。


「申し訳ございません」


 フィーネから漏れ出す冷気に、控え室にいる生徒6人は震えだす。

 口元は扇子で隠しているため表情をはっきりと視認できないが、相手に恐怖を与えるには十分であった。


「当主様、そろそろ……」


 見かねた執事が間に入り、フィーネを止めにかかる。

 冷気も恐怖も和らぐ事はなかったが、フィーネは踵を返し、控え室を後にする。


「精々、これ以上見苦しい真似をしないことだな」

「……承知いたしました」


 フィーネの去った控え室には、冷気と静寂だけが残っていた。




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