第103話 実体
本日三話目の投稿です
イフリートは自分の身体の前で右手を左から右へ振り払う。
その動作に合わせ発生した炎の波は、迫りくるハルへ向けて斬撃の様な形を取る。
「蔦ァアァ!!」
足元に発生させた蔦を踏み台にし、ハルは炎の斬撃を躱しながら空中へ飛ぶ。
イフリートは空中にいるハルに向け、追い打ちをかけるように炎玉を打ち出し、そのまま自分の拳に力を込め実体化させた。
(あぁ、単純だ。イフリートの攻撃は単純すぎる!)
ハルは、踏み台にした蔦を炎玉へ突き刺し、四散させる。
衝撃で飛び散る炎から腕で顔を庇いながら、ハルはイフリートを睨みつけた。
『……!』
「本当に、単純なんだよ!」
(炎は囮、本命は、お前の方だろイフリート!!)
地面に足を付けたまま構えるイフリートは、空中で身動きの取れないハルに向けて拳を繰り出す。
(イフリートが物理で攻撃してくるときは、実体化している! なら! 俺はお前を踏み台にしてやるよ!!)
全てを見透かすように嗤い、ハルは避けることなくイフリートの拳へ蹴り入れた。
イフリートが実体化していることが仇となった。
ハルはイフリートの拳を踏み台とし、精霊の後方へと跳ぶ。
『……!?』
「なっ!?」
予想外のハルの動きに、イフリートは動きを止め、シークは眼を見開く。
着地と同時に走り出すハルに、シークは顔を引き攣らせた。
「コイツ……! 気付きやがった!」
「それを、寄越せぇぇえ!!」
手を伸ばし、叫ぶハルに、シークはその場で構える。
避けることなく迎え撃つシークにハルは飛び掛かり、右の拳を振り下ろした。
「あめぇんだよ!!」
「!?」
だが、シークは嗤いとともにハルを迎える。
シークはランタンを空中へ高く投げ上げた。
そのまま、驚き、動きが鈍ったハルの右腕を掴み、鳩尾へ手を添え、可能な限り遠くへ投げ飛ばす。
「クッ…!」
今度はしっかりと受け身を取ったハルは、落ちてくるランタンを難なく受け止めるシークを睨みつける。
「隙ありすぎだろ」
口角を上げ、この状況を楽しんでいるかのように笑うシークが使ったのは、ティアナと同じ学園で叩き込まれる基礎格闘術であり、鳩尾を火傷しているハルには二重の意味で効果があった。
「終わりにしようか」
顔から笑みを消し、自分を見下ろすシークに、しかし、絶望するべき状況であるにもかかわらず、ハルはシークに見えないよう俯いて嗤う。
「……あぁ、終わりだ」
「? そうだな」
この時、シークは気付いていなかった。
自分の後ろに、まるで焼け焦げて動かなくなった蔦があることを。
俯いていたハルは、勢いよく顔を上げ、その不気味に嗤う顔をシークに見せつけながら叫んだ。
「!?」
「蔦ァァア!!!」




