第101話 火の精霊
100話突破いたしました!
(魔力でできた蔦が燃えた! なら、生身の俺が触れば簡単に焼け死ぬんだろうなぁ!)
「無理ゲーだろうが!!」
触れず、捕らえられず、十八番は通用しない。
ハルはイフリートへ走り寄りながら、一束にまとめた蔦を発現させる。
(俺自身の魔力量は少ない。なら、持久戦に持ち込まれる前に、)
「蔦ァァ!!」
(アイツを、消し去るしかない!!)
走りながらハルは、イフリートの胸めがけて蔦を飛ばす。
幾重にも重なった蔦の束は、イフリートに触れた瞬間、表面から焼け始めた。
燃えていく蔦の束は、しかし全焼を免れ細い束としてイフリートの胸を貫通した。
「……!」
(束にすれば、内側は焼けずに済む……? アイツは見た目ほど熱量がない!?)
胸に穴が開いたイフリートは、その傷口に手を当て、損傷部分を自分の炎で塞いだ。
平然と自分を見下ろすその怪物に、冷や汗をかきながらハルは嗤う。
「そりゃあ、効かねぇよな!!」
(あぁ、クソ。あいつの炎全部消せるくらいの何かがなけりゃ、アイツは死なねぇよなぁ! 物理攻撃じゃ貫通するだけだ。なら、どうする……!)
ハルは足を止め、イフリートから距離を取りながら思考を巡らせる。
しかし、そんなハルを待つことはなく、シークは使い魔へ命じた。
「イフリート!」
『……!』
言われるがまま、イフリートは右手を前に突き出し、その掌から炎で作られた球状の物体を打ち出す。
自分へ向かって飛んでくるそれに眼を見開いたハルは反応が遅れ、間一髪のところで横へ飛ぶ。
「……っ!?」
先程まで自分が立っていた場所へ眼をやると、イフリートの攻撃により地面は抉られ、周辺がひび割れていた。
(嘘だろ、おい……! こんなん、もし避けずに当たってたら生きてねぇよ!!)
ハルは起き上がりながら余裕の笑みを浮かべるシークに対し、吠えかかる。
「テメェ!! 生身の人間に大して撃つもんじゃねぇだろ!!」
「いいじゃねぇか! 個人戦はエキシビションが目的なんだから、少しぐらい派手にやらねぇとなあ!」
片手に持ったランタンを鳴らしながらシークは後輩の言葉を受け流す。
シークは現状を楽しむように嗤い、ハルへ追い打ちをかけた。
「やってやれ!」
『……!!』
今度は先ほどよりも小さい炎玉を3つ出現させたイフリートは、迷うことなくハルへ撃ちだした。
(全然話聞いてねぇなアイツ……! あぁもう!!)
「蔦ァア!!」
発現した蔦は、ハルの後ろから術者に続いてイフリートへと伸び続ける。
同じ速度で走るハルと蔦に1つ目の火の玉が迫ると、蔦は壁の役割を果たし、ハルは真っ直ぐに走り続ける。
2つ目の火の玉には蔦の束を突き刺し四散させる。
「いいねぇ、後輩!!」
「うるせぇ!!」
3つ目の火の玉がハルへ迫った時。
術者の足元へ蔦が出現し、ハルを空中へ飛ばすための踏み台となる。
「っ蔦ぁあ!!」
地面に衝突した火の玉による爆発音を聞きながら、ハルは新たに出現させた蔦を自分の右腕に巻き付けた。
イフリートへ向かい飛ぶ自分の身体を制御しながら、ハルは炎の精霊の頭めがけて拳を振り下ろす。
「うらあぁああ!!」
『……!』
イフリートは避けることなくその拳を食らい、頭を四散させる。
ハルは自分の身体がイフリートに触れそうになった時、自分の後ろに生えている蔦に体を飛ばさせた。
もう一度宙へ浮いた体を一回転させ、イフリートの背後へ着地し、シークへと向き直る。
「はっ!!」
「見せてくれるな後輩!!」
勝ち誇る様に笑うハルに、シークはまだ余裕を見せる。
不審に思ったハルは、自分の背後で揺れるイフリートへ眼を向けた。
「なっ!?」
『……!!』
顔を再生させないままで、イフリートはハルに殴り掛かる。
咄嗟に、ハルは蔦を召喚し自分を護った。
「蔦ァ!!」
問答無用で拳を振り下ろすイフリートに、ハルは鳩尾を殴られる。
反応が遅れたために蔦の壁は薄く、容易く燃やし尽くされ、ハルの着ている制服もまた燃えていく。
「カハッ!?」
イフリートにより飛ばされたハルの体は、彼が試合開始前に立っていたまで飛ばされ、受け身も取れずに地面へ叩き付けられる。
「……ッ!!」
制服の一部焼け焦げ、ハルは腹部に火傷を負っていた。
だが、ハルは口角を上げた。
(ハッ……! 火傷で済むとか、やっぱり見かけ倒しじゃねぇか……!)
息を吐き出しながら、ハルは歯を食いしばり、ふらつく身体に力を込める。
頭部を再生させたイフリートは真っ直ぐと立っている。
最強の精霊は未だ健在であった。




