第9話 救世主
「あ?」
扉の開かれる音に、自然と2人は視線を動かす。
2人の視線の先には、最低で最悪でド変態で、ティアナが最も嫌う人物。
「んだてめぇ」
「どう、して……」
ハル・レンフィードがそこにいた。
ブレアとティアナは驚きを隠せず、ハルを凝視する。
ティアナの姿に、何をしていたのか想像のついたハルは、扉を閉め、部屋の中へ、2人のそばへ歩み寄る。
「警報がうるさすぎて昼寝もできねぇから、どっか良いとこ探してたんだが……」
「とっとと失せろや、クソガキ」
頭を掻きながら、信用性に欠ける理由を口にしたハルは、ブレアの言葉をものともせず、ちらり、とティアナに目をやった後。
「いやぁ~、あの美貌、才能、成績の全てにおいて学園ナンバー1のティアナ・アインフォード様は、やはり学園内でのプレイがお好きでしたか!」
とぼけた調子で語りだした。
そんなハルに、ティアナは恐怖は薄れ、代わりに怒りが芽生える。
「な、何言ってんのよ! 今の状況がわかってるんでしょう!? 無理やりされているに決まっているじゃない!」
「おやぁ~? 無理やりでしたか! 強姦モノがお好き、と」
「違う!!!」
ティアナの怒りを真正面から受け止め、ハルはそれを更にふざけた調子で返す。
まともに取り合おうとしないハルにティアナは体の震えが止まり、冷静さを取り戻しつつあった。
「何2人で盛り上がってんだよ」
「ひっ」
そんな2人に、存在を無視されていたブレアが声を上げ、ティアナの髪を強引に引っ張った。
痛みと恐怖で悲鳴を上げるティアナはハルに懇願の目を向ける。
「女の子に怖い思いさせちゃダメだろ? もっと優しくしてあげなきゃ」
「あ?」
ティアナの視線を受け、ハルはゆっくりと行動に移る。
ハルは2人のそばへ行き、ティアナの肩を抱き寄せた。
そして、ブレアを真っ直ぐに見つめ、先程とは異なり、しっかりと芯の通った声で告げた。
「やっぱり、どっちの了承もないのにやるのは、気持ちよくないからさ。……コイツのパンツで、手ぇ打ってくんね?」
「……は?」
まともな内容は期待していなかった。
が、的外れすぎる言葉に、ティアナは本日2回目の置いてきぼりを食らった。
「そんなんで上玉逃すかよ!」
「まぁ、落ち着けって。欲しがりだなぁ。なら、脱ぎたてパンツに加えて、今つけてるブラもやろう!」
「はぁぁああぁ!?」
自分の下着を、勝手に交渉の材料にされていることにより、ティアナに新たな羞恥心が沸き起こる。
(な、何? なんなのコイツ? いや、今日の出来事でクズだってことは分かっているわ。でも、なんで私の、パ、パ、パ、パンツなんて……。というか、そんな内容で上手く行く筈が……)
「お嬢ちゃんの脱ぎたてワンセット……」
「なんで揺れてるの!?」
バカ2人の会話に、驚愕の上に動揺が重なる。
次から次へと辱めを与えてくる2人に、ティアナの怒りは限界に達しそうになっていた。
「……いや、だめだ! やっぱり実物を味わわねぇなんてありえねぇだろ!」
「ちぃっ!」
だが。
当然の如く交渉は失敗に終わった。
ティアナを取り戻そうとブレアは手を伸ばす。
空気が変わったブレアに対し恐怖を思い出したティアナは目をつぶった。
ブレアの手がティアナを捉えようとしたその時。
「おらぁっ!」
ティアナの肩を抱いていたハルの腕に力が入り、更にもう片腕もティアナの腰へ回す。
ハルはティアナを両腕で抱き、そのまま後ろへ転がった。
「いってぇ!」
「くっ、やっぱ無茶はするもんじゃねぇな……」
ティアナを抱えて無理に後ろへ飛んだことにより、ハルは右手首を捻り、左足を強く打った。
ついでに、ブレアの顎に蹴りを入れることにも成功していた。
「……っテメェ、ぶっ殺してやる!!」
ブレアは怒りにまかせ、右手を前に突き出し、魔術発動を唱える。
ティアナは手を縛られていることで標的をブレアにすることができず、下手をすれば自爆してしまう為迎撃することができない。
残る1人は、ただ立っていた。
「ティアナさま~、なんとかしてぇ?」
「なっ、無茶なこと言わないで!」
「俺、まともに戦えるかな~?」
首を捻って考えるハルを見て、ティアナは思い出した。
今日の魔術試験の時、彼が魔術を使用しなかったということを。
さっ、と顔を青くするティアナはハルに掴みかかる。
「ど、どうすんのよ!?」
「しゃあねーなぁ……」
頭を掻き、面倒くさそうにつぶやいたハルは、一瞬で表情を変えた。
今までのふざけた雰囲気は一切消え失せ、その瞳は、真っ直ぐにブレアを射ぬいていた。
そして、ハルは右腕を前に突出し、そのまま力強く振り下ろした。
「喰らえ!」
「蔦ァ!!!!!!!!」
ハルは南棟がどこなのか、そもそも今いるのが何棟なのか把握できてません。
編入生だからね!