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狂ったメリーゴーランド

作者: 高月 夜一

「真夜中にメリーゴーランドが動いている」


閉園した裏野ドリームランドでささやかれているこの噂を確かめに四人の男女が深夜の閉園したこの遊園地に集まった。


時刻は深夜0時、俺達を乗せた車が廃遊園地・裏野ドリームランドの駐車場に到着した。当たり前だが自分達が乗ってきた車以外に車は止まっていない。真夜中の駐車場は不気味なほどの静寂に包まれていた。

俺も正直こんなところに来たくはなかったが、サークルの中で一人だけ仲間外れにされるのも嫌なので撮影役として来ることになった。


「いいか、俺達の目的は二つ。ひとつはメリーゴーランドの噂の真相を明らかにすること、ふたつめは遊園地内部の写真をできるだけ多く撮ることだ。」

リーダー格の男である裕太が地図を手に言った。

「要はさっさと写真撮ってくればいいんでしょ?」

グループの中のムードメーカ的な存在である洋一がいつものごとくふざけた様子で答えた。

「こんなとこ嫌だから早く行こうよ~」と、唯一の女性である直子が少し怯えた様子で言う。

「よし、出発だ。おい、ちゃんとカメラは持ったか?」裕太が俺に聞いてきた。「充電も容量もバッチリだ。」と心の底で怖がっていると悟られないように振る舞った。視線を洋一に向けると彼はもう歩き出していた。


後々考えればここが引き返す最後のチャンスだったのかもしれない。



入場ゲートをくぐり、真夜中の廃遊園地の中を地図と懐中電灯の明かりだけを頼りにメリーゴーランド目指して進んでゆく。園内にはミラーハウス、ジェットコースター、観覧車などが所々塗装が剥げ落ちていたりしているがほぼ当時のままの状態で残っている。管理会社が倒産してそのまま放置されたのだと直子が教えてくれた。俺はそれらのアトラクションや建物を写真に納めていく。

裕太が先頭になり、辺りを懐中電灯で照らしながら進む。

相変わらず洋一は「やベー!」とか「すげー」とか言いながらはしゃいでいる。最初は怖がっていた直子も途中から乗り気になったらしくスマホで辺りのものを撮影しだした。


「この遊園地って営業していた時に何人か入園者が行方不明になってるらしいぜ」

「やだー、怖いから変なこと言わないでよー」

「どうも本当らしいぞ、当時は結構大きなニュースになってそのせいで客が減って閉園したそうだ」


入園者が行方不明になるという噂は俺もどこかで聞いたことがあった。わざわざこんな場所で話すことはないだろと思いながら内心かなり怖がっている自分がいる。そんな気持ちを少しでも紛らわせようと俺はただ黙々と写真を撮り続ける。



真夜中の廃遊園地を歩き続けること約10分、ようやく噂のメリーゴーランドが見えてきた。


「あれが噂のメリーゴーランド?なんだよ全然動いてねーじゃん」さっきまではしゃいでいた洋一がつまらなそうに言った。俺も心のなかで少し残念に思いながらメリーゴーランドを見る。メリーゴーランドは営業していた当時とほぼ変わらない姿でそこにあった。木馬や馬車も所々錆びていたり塗装が剥げ落ちている箇所がある以外は当時のままだ。

俺達はそのままメリーゴーランドの周りを一周した。

「結局メリーゴーランドの噂はただの噂にすぎなかったってこと?」直子が裕太に尋ねた。

「そういうことだな」裕太が答える。

「なんだよつまんねーの。早く帰ろうぜ」

不満そうに洋一が言う。

「じゃあ最後にここまで来た証拠写真を撮ろう」

裕太の言葉に二人とも賛成した。

一枚目はメリーゴーランドを背にして三人並んだ写真を撮ったが、洋一が「せっかく写真撮るんだったら馬に乗ろうぜ」と提案したので三人とも柵を乗り越えてメリーゴーランドの内側に入り、裕太と洋一は木馬に乗り、直子は馬車に座った。

「いいぞ、撮ってくれー」裕太が俺に手を振って合図する。

待ってましたと俺はカメラを構える。そして俺がシャッターを切ろうとしたその瞬間



突如として今まで真っ暗だったメリーゴーランドに明かりが灯ったのだ。同時に軽快な音楽も流れだしガタガタと大きな音を立て木馬や馬車が動き始めた。



いったい何が起こっているのか自分でもよく理解できない。少なくとも俺を含めた四人は特になにもしてない。それなのにメリーゴーランドは動いている。俺は信じられない光景を前にただ立ち尽くすしかできなかった。


乗っている三人も状況が飲み込めず呆然としている。

「やベー!本当に動いている!」洋一が声をあげた。

「きゃぁぁぁ!降ろしてぇぇ!」直子が叫ぶ。叫び声で我に返った俺はとっさにカメラを構えて写真を撮る。しかし、写真を撮っているうちにあることに気づいた。



どんどんメリーゴーランドの回転速度が速度が速くなっているのだ。最初は約20秒ほどで一回りしていたのがだんだんと速くなり、今では一周約10秒ほどの速さになっている。時間を増すごとに木馬達は速度を上げていく。


三人も異常に気づいたのか次第に顔が青ざめてい。「おい!降りるから止めてくれ!」と裕太が大声で叫んだ。俺は咄嗟に何か方法は無いかと考える。そうだ!操作パネルの非常停止ボタンを押せば良いんだ、とっさに考えが浮かび辺りを見回すと、メリーゴーランドのすぐ隣に人一人入れるくらいの小屋を見つけた。小屋に急ぎ向かうと、思った通りそこには錆びついたメリーゴーランドの操作パネルがあった。

パネルの中で赤に白文字で「非常停止」と書いてある一際目立つボタンが目についた。「これだ!」思わず声を上げた。頼むから止まってくれ!と、その一心でボタンを押した。



しかし、非情にも予想に反してメリーゴーランドは止まることはなかった。それどころか先程よりも更に速度を増して回転し続ける。

「頼むから早く止めてくれぇぇ!!」「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!止めてぇぇぇ!!」 小屋の外から三人のけたたましい絶叫が聞こえる。

「止まれ!止まれ!止まれ!止まれ!」必死になってボタンを連打する。が、何度やってもメリーゴーランドは止まらない。まばゆい電飾の灯りと軽快な音楽が流れる中、木馬や馬車は三人を乗せたまま加速しながら永遠と回り続ける。

「くそ!なんだ止まらないだよ!!」怒りに任せて操作パネルを蹴りつける。すると蹴った衝撃によってパネルの下の方にある回路のメンテナンス用の小さな扉が開くのが見えた。それを見た瞬間俺はひらめいた。

「この中の電気回路を何とかすれば止まるはずだ!」俺はその場にしゃがみこみ、中を調べようとする。



中を見て絶句した。

なぜなら本来は中にあるはずである基盤や配線の類いはすべて取り外されてあり、中はただの空洞となっていた。つまり、このメリーゴーランドには電気が通ってないのである。



それに気づいた俺は、自分の顔から血の気が引いてくるのがわかった。なぜ今メリーゴーランドが動いているのか、疑問で頭の中が真っ白になり、外に出たとたんその場にへたり込む。


「降ろしてくれぇぇぇ!!!降ろしてくれぇぇぇ!!!」


依然としてメリーゴーランドに乗っている三人の絶叫が聞こえてくる。もう誰が何を言っているのかわからなくなっている。

そんな三人の悲痛な叫びを嘲笑うかのごとくメリーゴーランドは狂ったように回り続ける。


「降ろせぇぇ!!降ろせぇぇ!!降ろせぇぇぇぇぇ!!!」


三人のうちの誰かがこの世のものとは思えない叫び声を上げたのを最後にメリーゴーランドからは聞こえなくなった。



そして、叫び声だけではなく三人の姿まで消えてしまったのだ。



すると、乗客を失った木馬達は徐々にスピードを落とし始め、ついには完全に停止した。



俺はただ呆然として電飾の灯りがきらめくメリーゴーランドを見つめることしかできなかった。


『君も早く乗りなよ。みんなが待ってるよ』

『ちょっと乗ってみない?』

『早く早く!』


突然耳元で何人もの子どもの声が響く。


その声を最後に俺の記憶は途切れた。






気が付くと俺は大学の寮の布団の上にいた。どうやら俺達からの連絡がないことを心配してわざわざやって来た友人達がメリーゴーランドの前で放心状態になっている俺を発見して車に担ぎ込み、寮に戻ってそのまま布団に寝かせたらしい。

友人曰く他の三人は遊園地の中をいくら探しても見つからず、警察に捜索願を提出したそうだ。

その後新聞に小さく『遊園地の廃墟で大学生三人が行方不明』の記事が掲載された。


その日から俺はある夢を見るようになった。目の前に一台の馬車がやって来る。馬に乗った裕太と洋一と馬車に座っている直子が笑顔で笑いかけてくる。そして、子どもの笑い声が辺りに響き渡るといった内容だ。この夢を見るようになってから俺はノイローゼ気味になり、大学を辞め実家に帰った。


あの日メリーゴーランドを撮ったカメラは今も手元にあるが、写真を見てみる勇気は無い。あの写真には見てはいけないものが写っているに違いないと思っている。もしあれを見てしまったら、俺もあの馬車に乗せられてしまいそうな気がしてならないのだ。


あの日からもうすぐ一年になるが今でもたまにあの夢を見る。


そして、三人はいまだに見つかってない。

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