第一章の9!
9
夢であってほしかった。次に目が覚めたら普通の日常で学校があってまだ夏休みに入ってなくて、これから夏休みで友達とかと夏休みどこ行くかとか話し合って、それで夏休みになったら皆でバカやって、はしゃいで怪談話やエロい話とかで盛り上がってそんな日常なら良かったのに、向こうから話しかけてきて、こっちは勝手に浮かれて勝手に好きになって北風の言うことならなんでも聞いてあげたくて叶えてあげたくて必死で頑張っても、手に入ったものは『明日、私を殺して・・・・』という最悪の結末を意味する言葉だけで残ったのは好きって気持ちとこんな世界を滅ぼしてしまいたいという行き場を失ったモノたち。
そして最後の日は僕にとてもあっさりと訪れた。
最後の日の天気は雨だった。
最悪という言葉に最も合った天気だと僕は思う。
それはそうと僕は今日出来る限りのことをするつもりだ。
朝食を済ませたとき既に時計は十時を指していた。
「少し出遅れた。」僕はそう小さく呟くと急いで二階の自分の部屋へ行き準備をし始めた。
そこで来客を知らせるチャイムが鳴る。
それを無視して作業を続けようとするがチャイムがうるさくて少しペースダウン。
すると親が出たのかチャイムが鳴り止んだがすぐ二階へと上がってくる足音がする。
そして僕が良いよ、と言っていないのに足跡の主は勝手に僕の部屋に入ってきた。
「桜、何か用?」僕が邪魔そうに言うと水谷は僕の嫌いなタイプの口調で
「何か用?じゃないわよ!昨日どこ行ってたの?言ったよね?明日は勉強やろうって」そう言った。それに対して僕は水谷の方を見て
「用はそれだけ?なら帰って、僕は忙しいから」と言ってすぐに作業に戻る。
「やだ!帰らない!今日は教えるんだ・・・ちょっと待って!」水谷は準備が終わり出かけられるようになった僕を見て慌ててそう言うと、僕の部屋の扉の前でとうせんぼをした。
「退いて」僕がそう強い口調で言っても水谷は「やだっ!」と言い退こうとしない。
「退いて」「やだっ!」「退いて」「やっ!」「退けよっ!」僕が最後に放った言葉で水谷はあっさりと両手を下ろすと扉の前から少し横にずれて僕に聞いてきた。
「純也は・・・北風が好きなの?」
僕はこの時は正直まだ迷っていたんだと思う、でも、僕は北風が好きだから答えた。
「好きだよ、僕は北風が大好きなんだ・・・だから僕は行かなきゃいけない、そして伝えるんだ。はっきりと好きってことを」そう答えた。
それが水谷を傷つける答えだったとしても何のためらいも無く答えられた。
その答えを聞いた水谷は一瞬だけ驚いた顔を見せてからすぐにその目から涙が溢れ出た。
僕は泣いている水谷を措いて僕が今、やらなくちゃいけないことをやりに家の外へと飛び出した。
僕の心が巣立ちをむかえた瞬間だった。
と、格好良く飛び出してきたものの行く場所はまだ逆神社しか決めていなかった。
とにかく決まっている場所から回って、回っている間に次に行く場所を決めれば良いと思ったので僕は逆神社へと走り出した。
逆神社に着くと両替機の横にある小さなお賽銭箱に僕は今、持っている半分のお金(五千円ほど)をジャラジャラと流し込んだ。
全て流し込むと両手を合わせて願いを籠めた。
『北風が引っ越してしまいますように』と心の中で囁く、これでおしまい。
ここでやれることはやったから次の所に向かうことにする。
向かう場所は駅前のアクセサリーショップだ。
駅前のアクセサリーショップには一度だけ来たことがあった。
そのときは北風も一緒に、というか僕が北風に連れられて来たのだけど・・・
そのアクセサリーショップの商品は全部、店長の手作りでビーズで作った指輪や銀粘土と呼ばれる粘土で作られたシルバーアクセサリーなどがあった。
そして北風はここに来たときすごく欲しそうに一つのネックレスを見ていたのだ。
僕は店に入るなり北風が欲しがっていたネックレスが置いてある棚に向かい、それを見つけると迷わず手に取りレジに持っていった。
「五千四百円です。」僕は耳を疑った。
なんてことだ。僕の財布には五千二百円しか残っていなかった。
さっきお賽銭箱に入れすぎた!と思っても今更遅い。
「すみません、足りないのでまた・・・」財布から出して数えていたお金を戻そうと手を伸ばしながら途中まで言ったところで
「何円足りないの?」後ろから女の人の声がした。
僕が振り向くとそこには綺麗な女性が居た。
僕が見とれていると女の人はまた「何円足りないの?」と聞いてきた。
慌てて僕は答えた。
「あっ!えっと?・・・ちょうど二百円です・・けど・・・」
それを聞いた女の人は店員に「これ二百円割引ね〜」と言ってから僕の耳元で囁いた。
「告白、がんばれ!」その一言を僕の耳に残して、その女の人は店の奥に引っ込んでしまった。
「あー店長また割引して〜潰れますよ。この店」と店員がこの店の店長らしき人にそう言うと僕のほうを向いて「あっ!気にしないでくださいね。店長って客のフリして本当の客を観察して気に入ったカップルとかを見つけると割引するのね〜それはそうと五千二百円です。」そう言われた僕は慌てて支払いを済ませて品物を受け取ると僕はすぐに店を出る。
外に出るとお昼時だからか、それともここが駅前だからかは分からないが人込みが既にそこに出来ていたのだ。
問題は僕にはお金が全く無く、昼飯を買うことが出来ないので三時まではあと二時間半ほどあるが何をして過ごせば良いのか分からなかった。
これは困る。
非常に困るのだ。
僕が完全に行き詰まっていると助けが来た。最高のタイミングで
「お〜い!須藤〜」と遠くで傘を片手に持ちながら、もう片方の手を大きく振っているバカ(友人)がノリノリでこっちに近づいてくる。
いつもは少々ウザく感じるが今の僕からは全然そんな邪念は吹出しておらず、むしろ助かったぜ!お前は最高の友だ!という友情(?)のオーラが出てきつつあった。
まぁ期待はすぐに裏切られた。
僕は友人の運の悪さをお腹が空いてたせいで計算にねじ込むのを忘れていたのだ。
そう友人は僕を目の前にして段差に躓きこけた。
その時に友人の財布の中身は全部、下水道に吸い込まれてしまった。
友情(?)オーラはすぐに僕の中に納まり代わりにドス黒いオーラが僕を包んだ。
さよなら僕の昼飯〜
さよなら僕の安らぎ〜
こうして僕は空腹に耐えながら雨が止みかけてきた中を一人で遊園地を目指して歩き出した。
遊園地に着く頃には雨は止んでおり夏の太陽が僕に暑さと紫外線を放っていた。
そんな暑い中、待つこと約二時間が過ぎ三時ちょうど僕の目の前にはいつもと変わらず白いワンピース姿の北風が立っていた。
「はい、これ」と言って北風は僕にチケットを差し出した。
僕が「ありがとう」と素直にお礼を言ってチケットを受け取ると北風は「ルルルル」とチャネリングをしてから
「じゃあ、行こっか・・・」北風はすこし寂しそうにそう言って僕と一緒に遊園地へ入っていった。
遊園地に入ると僕は北風のあとについて歩いた。
北風が向かった場所はジェットコースターでもなければお化け屋敷でもなかった。
巨大観覧車だった。
そして待ち時間は二時間、たぶんこれが最後のチャンス。
この時、僕は観覧車の中で告白しようと決めた。
待ち時間はお腹が空いているからなのか長く感じられた。
長い待ち時間を僕たちはお互いに何にも喋らず待っていた。
僕は待ち時間の間ずっと考え事をして過ごしていた。
結局、北風の大切な物って何だったんだろう?今日ここで見つかるのだろうか?北風は普段はどんな服を着ているのだろうか?今と同じワンピース系だろうか?それともTシャツにジーパンという格好だろうか?北風の好きな食べ物って何だろう?カレーだろうか?女の子だから甘いデザート系だろうか?それとも納豆とかだろうか?とか知りたいことが山ほどあった。
そういうことを考えているうちに時間はやって来てしまった。
まずは北風から乗り込み、そのあとから僕が乗り込んだ。
そしてドアが閉まると同時に北風は口を開いた。
「ねぇ天使の観覧車って知ってる?」
「天使の観覧車?知らないけど・・・」僕は何のことだかさっぱりわからなかった。
「じゃあ時間が無いから簡単に説明する。この町には天使の観覧車っていうのがあってね。それに乗った男女は嫌でも結ばれてしまうの天使の勘違いで」
僕は迷惑な天使だな〜と思いながらも続きを聞いた。
「天使が間違えちゃうのも無理ないの、その天使の観覧車って一周するのにかかる時間が二十分なの、だから男女のペアで乗っているところを天使が見たら天使はその二人がカップルって思って赤い糸を結びつけちゃうの、だから最近は天使たちがこっちへ降りてきてちゃんとその関係が運命の出会いから生まれたかを確かめてから赤い糸を結ぶって決まりになったの」その話を聞いていて僕は気がついた。
「もしかして天使の観覧車って僕たちが今乗ってる・・・これ?」気付いてしまった自分が嫌になる。
なぜならそれは僕の北風を好きだっていう気持ちが嘘かもしれないから。
そうなのかどうかは北風に聞いてみるしかないけど今は北風の話に集中する。
「そうよ。今、私たちが乗っている観覧車が天使の観覧車・・・あぁ半分まで来ちゃった。」北風が寂しそうに言った。
「私ね、ここが一番上まできたら・・・天界に帰るの」
「帰っちゃう・・・・のか?」
「うん、それでね、私が帰ってから三時間でみんなの記憶からも消えちゃうの・・私」僕から見た北風は帰るのが辛そうに見えた。
だから僕はこの時に渡そうと思った。
本当は告白のときに渡そうと思っていたけど、渡すときは今しかないそう思ったら体がかってに動いていた。
僕はウエストポーチからさっき買ったばかりのネックレスを北風に手渡した。
それを受け取った北風は嬉しそうに笑みを浮かべながら僕に「ありがとう」と言ってからそのネックレスを早速身に付けた。
そして北風が僕のほうを見た瞬間、僕は北風を強く抱き締めた。
それから僕は僕の心の中にある言葉を見つけ出し言葉にした。
暗闇の中でも見失うことなく輝き続けるその言葉を・・・
「僕は、僕は北風が、氷柱が好きだから、大好きだから何処かへ行ってしまうのは嫌なんだ!僕は絶対に氷柱を忘れない。だから、僕と付き合ってください。」ハッキリと僕の気持ちを伝えた。
言ってみると案外簡単なものなんだなと思ってしまう。
そう、想いを伝えるのって本当はすごく簡単なことで、ただ「好き」と言えば想いは伝わる、そのことに気付けないで悩んで苦しんで諦めてしまうのは勿体なかった。
だから僕は伝えた。
たとえどんな答えが返ってこようと僕は後悔はしない。
ちゃんと伝えたから「好き」っていう気持ちを
「私もっ!私も純也が」そこで北風の言葉は途切れた。
夕日が小さな密室空間をオレンジ色で染めていた。
僕は一人で窓の外の景色を眺めていた。
なんだか心にぽっかりと穴が開いた感じがした。
僕の日常から何か大切なものが抜け落ちたようなそんな感じがその時した。
えっと、次で第一章が終わります。
そして第一章の最後は短いです。
本当に短いです。
この部分いるのか?ってくらい短いです。
ですので読まなくても、いいですが
読まないと第二章でわからない部分があるかもしれませんよ。(何を書いたか既に忘れかけてるから・・・)
それでは第一章の10!で。