エピローグ
エピローグ
たしかに僕はあの夏、誰かを好きになった。
その人がどんな姿でどんな顔でどんな声でどんな名前だったかを思い出すことが出来ず、思い出そうとすると頭が割れるんじゃないかってほど痛む。
そんなことが何度も繰り返し起こるから、心配になった親に病院へ無理やり連れて行かれ精密検査を受けたのだが、どこにも以上は無く医者はお手上げ状態だった。
そんな日々が続き、普通の日常から何かが抜け落ちたと思い始めてから、もう十年が経った。
僕はあれから補習のおかげかどうかはわからないが、成績が異常なスピードで伸び簡単に有名な大学に入ってキッチリ四年で卒業し今は東京のゲーム会社のバグチェック担当になり、ゲームと一緒に暮らしているような毎日を送っていた。
そして久しぶりにどこかへ行けるくらいの暇が出来たので実家に帰ることにした。
だが帰ってすぐに遊園地に行きたくなり荷物を家に置いてから遊園地へ向かうことにした。
その途中の公園付近で幼馴染の水谷桜に出会ったが、彼女は「早く会えると良いわね」そう僕に言ってすぐ公園の前に居た黒髪の青年と共にどこかへ行ってしまった。
僕が遊園地に付くころには既に五時を過ぎており人はそんなに居なかったが、それでも観覧車には行列が出来ていた。
僕は観覧車に乗らなきゃいけない気がして急いで列に並んだ。
それから一時間が過ぎようやく観覧車に乗ったときには空が赤く染まり始めていた。
そして僕は小さな密室空間に一人で入り、座って思い出そうとした。大切な何かを。
でも思い出そうとすると頭が割れるように痛い。それでも思い出そうとすることを止めず目を閉じて思い浮かべる。
男が一人では絶対に入ることの無いアクセサリーショップ。
逆の願いが叶う逆神社で行われるお祭りの花火。
行ったことが無いはずの隣町の朽ちた映画館。
森を抜けた先にあった砂浜。
どれも何かが足りない、思い出せない。
僕の心の中で暴れまわるこの想いは誰のために在るものなのか分からない。
幼馴染の「早く会えると良いわね」と言う言葉の意味と彼女と一緒に居た黒髪の青年。
僕は何にもわからい。早く誰に会うんだ?実家の僕の部屋に書かれていた人の名前は誰のことを言っているんだ?僕には理解できないことばかりだ。
北風氷柱というのはどこの誰だ?わからない。思い出そうとすると頭が痛む。
でも思い出せないと心にぽっかりと穴が開いたままで嫌だ。
痛い、いたい、イタイ、心が、頭が、痛いよ。
そのとき今にも沈みそうな太陽の光が差し込んだのが目を瞑っていた僕にもわかった。
「好きです。私はいつも明るくて、優しくて、私のことを好きな須藤純也が・・・」
僕は目を開ける。日が眩しい。一度目を閉じすぐに開けて目の前にいる彼女を見つめる。
今まで時間が止まっていたかのように彼女はあの時と同じ姿でそこにいた。
そして彼女は頬を少し赤らめて笑顔で僕の忘れていた彼女と過ごしたあの夏の記憶を思い出させてくれた。
「大好きです。」
二人は夕日で赤く染まった二人だけの空間で再会した。
ついに終わりました。
ついに、ってほど長くないですが・・・。
次のお話しは書き終わるかな〜
さて、次にお会いするときまで・・・・
何年かかるかな?
それは誰にも分からない。