第二章の5!
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天界に帰る日はすぐにやって来た。
もう少し彼と一緒に居たかった。変な話題で妙に盛り上がったり、怪談話で彼を怖がらせたり、クリスマスには彼とショッピングを楽しんで、学校では親友と言える存在に出会って恋の話で盛り上がったり、ノロケ話でいっぱいノロケたり、彼と喧嘩をすれば親友に愚痴を聞いてもらって、逆に親友が悩んでいたら助けになってあげたり、私にはまだやりたいことがいっぱいあるのに天界に帰らなければならない。
最初はあんなに早く帰りたいと思っていたのに今では帰りたくなくなっていた。
それでも最後の日はやって来たのだった。
別れるのがより一噌辛くなった私は彼女を頼ることにした。
そう思いついたのは朝の十時だった。すぐにハート形の携帯電話の名前リストから水谷桜の名前を選ぶとすぐに彼女に繋がったので会いたいということを伝えたら、遊園地近くの喫茶店で待っててと言われたので私はその喫茶店へと雨の降る中、傘を差しながら急いで向かった。
喫茶店に着くと「待ってて」と私に言った水谷桜が私より先に来て待っていた。
私は彼女に軽く挨拶をすると彼女の向かいの席に座り紅茶を注文するとそれが来るのを待っている間に彼女に質問をした。
「私の兄と離れていて不安にならない?」
彼女は少し考えてから優しく答えてくれた。
「好きだから・・・かな?好きだから信じて待っていられるの、たぶんね」
「じゃあ会いたいとは思わないの?」
「会いたい、すごく会いたいけど・・・堕天使となって消えてしまうでしょう?消えて二度と会えないよりも次に会えるって思ってそのときはまず何から話そうかな?とか一緒にどこへ行こうかな?とか考えて過ごすの、そしたら次に会ったときにはもっと好きになっているはずだからとかね?」ふふっと彼女は笑うとこう続けた。
「大丈夫、私が純也を好きになる女を片っ端から潰してあげるから♪その代わりに一つ頼まれてもらえない?」
「私に出来ることなら・・・質問に答えてくれたお礼です。」このとき思ったのだ。この人となら友達になれそう。
「ありがとう」彼女はそう私にお礼を言った。
それから待ち合わせの時間ギリギリまで彼女と話していた。
喫茶店を出ると既に雨は止んでおり完璧に晴れていた。
「じゃあ、またいつか会えたら!」彼女が喫茶店の前でそう言って私に背を向けたときに私は彼女を呼びとめ
「あ、あの・・・・またね!」そう言って微笑む彼女に背を向けて彼の待つ遊園地へと駆け足で向かった。
遊園地の前で彼と合流し、ギャンブル(三角くじ)で当てた券を彼に渡すと二人で園内に入り少し迷いながらも観覧車の待ち列に並んだ。
待ち時間は約二時間だから・・・ちょうど観覧車が一番上に着いたときに天界に帰るための橋が架かるはず・・・なんだけど、ここまで来て私はまだ迷っている。
このまま観覧車に乗って十年間彼と離れ離れになるか、観覧車に乗らずに彼と一緒に三時間過ごして血を吐きながら彼の前で死んでいくか、両方ともメリットもデメリットがある。
一つ目の選択肢は十年後また彼と会えるかもしれないが、彼は次に私に会うまでの間、私のことを忘れてしまっているから、他の女と結婚しているかもしれない。
二つ目の選択肢は永遠に彼の記憶から私が消えることが無くなる代わりに私の命が尽きてしまう、だが私の中にある選択肢の天秤は意外にも二つ目の方に大きく傾いていた。
そしてタイミングよく私は天界の天使管理書の第二章を思い出した。
『天使が人間に恋をしたとき、天使が地上を一時的に離れる場合に人間に自分の正体と想いを伝え、その想いを人間が受け入れたときのみ人間の記憶に天使の記憶が残るものとする。』
昔、興味があって兄の部屋でこっそりと読んだあの一万章もある管理書がこんなところで役に立つとは思ってもいなかった。
これで第三の選択肢が出来たことのなる。
そもそも私はまだ彼に想いを伝えていないのだったからちょうど良い。
このとき私の中にある選択肢の天秤はちょうど真ん中のところで止まった。
一つ目の選択しがいやなら二つ目を、二つ目も嫌なら一つ目と二つ目の良いところだけを取った三つ目の選択肢を選べば良い。こんな単純で前向きで自己中心的な考えが今まで出来なかった自分が恥ずかしい。だがこの先に私にはもっと恥ずかしい試練が待ち受けているのだからそんなことを気にしていたら手に入るものも手に入らなくなってしまう。
私は第三の選択肢を自分で選んだ。だからそれを最後まで貫き通す。私はそう決めた。
そして告白のときが刻一刻と近づく中、彼が私を嫌いだったらどうしようとか、もし付き合えても彼がお金欲しさで私と付き合っていたらどうしようとか、実は彼は地球外生命体と人間の間に生まれた子供で、十年位前に両親を殺された怨みで地球を滅ぼそうとしている自称ラスボス・・・・・・の下っ端でリストラ寸前で、アルバイトで稼いだお金を貯めていつか自分が自称ラスボスになってやる!とかいう小さな夢を胸に秘めて今日もどこかで黒の全身タイツ着て、正義のヒーローと戦ってたりして(隣に居ますが・・・)とか、とにかく私は今、もの凄くブルーになっているのだ。しかもただのブルーじゃない!『マ』と『リ』と『ッ』と『ジ』が付く最強でもないブルーなんだ!これは女性特有の病気と天界では習ったがこれは死ぬのだろうか?などと間違った知識を節約しつつ使っているとついにそのときがやって来た。
観覧車に乗り込んだ私と彼はドアが閉まるまで沈黙状態だった。
ドアが閉まると同時に私は彼に天使のことを説明し始めた。
彼も他の人間と同じで最初の方は信じていないと言わんばかりの態度で聞いていたが、彼が
「もしかして天使の観覧車って僕たちが今乗ってる・・・これ?」そう言って私に確認をとったときには、もうさっき様な顔ではなかった。
そんな顔をした彼はウエストポーチから、以前二人で行ったアクセサリーショップで私が見ていた羽のシルバーネックレスを出すと私にくれた。
それからこれだけでも十分驚いている私を彼は抱き締めた。
その彼の行動に驚いてあたふたしている私の耳元で彼は今にも泣きそうなときに似た声で
「僕は、僕は北風が、氷柱が好きだから、大好きだから何処かへ行ってしまうのは嫌なんだ!僕は絶対に氷柱を忘れない。だから、僕と付き合ってください。」と想いを伝えられてキュンとなった。さらに耳元で囁かれたときに彼の息が私の耳に当たりキュンはキュンドキッ!に進化した。
そのキュンドキッ!が私の計画を、第三の選択肢を消し去った。
「私もっ!私も純也が」私が彼に伝えようとしていた想いは途中で途切れてしまった。
さて、今回は天界に帰る、そんな話しでした。
そして次は第二章の最後です。
ここまで長かったです。
次は何を書こうかなどを考える毎日は
いくら経っても、やってきません。
そうやってのんびりしていると
クリスマスがすぐにやってまいります。
クリスマスの話を書こうかなとも思いますが
たぶん無理です。
そんなひとり言でした。
今回は前みたいにドロンとはいかずに
違うのでいきます。
それでは皆さん、また来週。
タタタタタッ!(壁に向かって走ってる)
バンッ!
「隣の・・・壁・・だっ・・・た」