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乙女が泣けば、デフレスパイラルー1

都は結局、断ることが出来ないままその日を迎えた。

SMの女王様のような上半身を大勢の人に晒すなど、考えただけでも恥ずかしい。

それに、この秋に少々多く食べ過ぎてしまった。

そのため、脇腹あたりに自信が持てないでいるのだ。

ただし、これは秋の食事が美味しすぎるのがいけないのであって、断じて自分のせいではない。

冬服であまり体型が目立たない二学期の最中に、じっくりとダイエットをしていけば良いと考えていたハズなのだ。上半身だけとはいえ、ボンテージ風の衣装を身に纏うなど、予想だにしていない事態である。


大雨とか降って、人が集まらなさそうだから中止にならないかしら……。

などと取り留めもない事を願ったりもしたが、あいにくと今日は雲一つない晴天であり、絶好の作戦決行日和だった。

「はぁ……やるしかないのかしら」

寝巻を脱ぎ捨て、ショーツとキャミソールのまま部屋の中を、うろうろとしていたが決意は一向に固まらない。

しかし、航輝はこの戦いに賭けている。

都が渋々ながら条件を承諾し話が決まった後、何度も都の家に打ち合わせに来ては、重蔵と細部まで企画を練っていたぐらいである。


「それに、アイツ……正義の味方でいる時が、一番カッコいいのよね……」


誰もいない所でしか呟けない台詞を呟くと、部屋の姿見(等身大鏡)の前で、全身を映して眺める。

「どう見たって、悪の女幹部バイラオーラなんて柄じゃないんだけどなぁ……」

嘆いていても始まらない。

都は、定められたポーズをとると。

「変・身!」

子供の頃に埋め込まれた変身機構が働き、都の体を悪の女幹部バイラオーラへと変化させてゆく。いくら『家業』だとはいえ、まだ小さい頃から体に変身機構を埋め込むのはどうかとも思う。

まぁ、自分の意思でしか変身できないし。衣装のサイズも体の成長に合わせて、体にフィットするように変化するナノ粒子結合のテクノロジーで出来ているから問題は無いのであるが。

鈍く光る粒子がまとわりついているのは、体の各部から噴き出たナノ粒子だ。

数瞬後、鏡の前には《ラ・フィエスタ》の女幹部バイラオーラが立っていた。

変身後の姿はやはりあまり好きではない。

実に数年ぶりの変身だった。

腰回りをネット状にデザインしたヤツの首を絞め殺してやりたい気分に襲われながらも、変身後の各部をチェックしていく。

鎖骨からへそまで大きく開いたトップスが、バストを実際以上に強調し、やたらと大きく見える。

腰までスリットの入ったロングスカートから見える脚は、太く思われないだろうか。

そもそも、航輝にもまだよく見せていないのに、誰とも知らない奴らに見せてしまうというのも、問題なのではなかろうか?


都がそんな乙女心の微妙な葛藤を繰り広げているところ、ノックもなしに部屋が空いた。

「みやこー。今日の作戦だがな……おおお!今からバイラオーラになっておるとはっ!!だが、やる気十分とはいえ、少し早……ぶべらっ!」

「ノックぐらいせんかぁぁぁ」

たまたま近くにあった目覚まし時計が、うなりを上げて重蔵の顔にめり込んだ。


   ◆◆◆


説明しよう!!

夕凪駅は、市の中央を流れる八往川沿いにあり、都心から一時間弱の場所にある。

南口は、駅を出て直ぐの広場から伸びる三百メートルほどの長さの通りを中心に、数本の細い路地が枝の様に広がっているという地形をしていた。

これらの通りには昔から個人経営の店舗が立ち並び、商店街を形成している。

しかし、最近では、反対側の北口に駅と連結した大手百貨店が出来てから、閑古鳥が鳴くようになっていた。

この夕凪南口商店街が航輝たち《スターライツⅤ》と、都たち《ラ・フィエスタ》の戦いの地だった。


◆◆◆ 


駅前商店街の近くに乗りつけた3台のワンボックスカー。

この中に、都たち《ラ・フィエスタ》のメンバーが分乗していた。

「これ、やっぱり変じゃない?」

その中の一台。

後部座席に、都はいた。

バイラオーラに変身した都が、自分の姿を気にして戦闘員Aに話しかける。

「イーッ!(変じゃ無いっす!)」

バイラオーラの腰の周りには、赤い薄布を巻きつけてある。

コスチュームに使うナノ素材が欲しかったのだが、そんなに急には用意できないので、商店街の衣料品店で3980円の布を購入して間に合わせた。

格好を気にする都に、重蔵が声を掛ける。

「都や、今日の駅前侵攻計画の計画書は読んでおいたかい?」

「読んだけどさ……」

「今回は、うち独自の作戦だ。航輝君から企画を貰って戦うのも、悪の組織としてはどうかと思ったからね。戦う場所と方法はこっちで決めさせて貰ったんだ」

「いくつか、とぉぉっても腑に落ちない点があるんだけど聞いてもいいかしら?」

「何でも聞きなさい」

「この作戦書の『駅前で、侵略者であることを高らかに宣言した後、商店街の石畳をある程度破壊。指定された店舗を破壊した後、その後駅前に首領の像を建てると宣言』って、何の意味があるの?!」

 傍らに合った作戦書を振り回して聞く。

周囲の戦闘員も、同じような疑問を持っているのだろう。

無言で首を縦に振っている。

「いやー、それを言われると痛いなぁ」

重蔵が頭を掻きながら答える。

「今回の話は急だっただろ?」

「ええ」

都が航輝を連れて、重蔵に話をしてから一週間しか経っていない。

「大き目の作戦をする為には、準備が全然足りなかったんだ」

「はぁ……」

「組織が動くには、事前の準備が一番重要だからね。今回は時間が無かったから、出来る作戦も限られてしまったのだよ」

重蔵が、ワンボックスの中に入ってくる。

中にいた構成員は「イーッ!!」と敬礼をしようとするが、それを片手で制して止める。

乗った際の重みで、ワンボックスが少し揺れる。

座席に広げていた化粧品が、落ちないように気を付けながら、都は聞いた。

「準備が足りないのは解ったけどさ。なんでこんな作戦になっちゃうのよ?」

「幹部会で、どうするか悩んでいた時、ふと駅前商店街の会長さんと、最近飲み仲間になった事を思い出したんだ」

「は、はい?」

なぜ商店街の会長さんが、悪の侵略行為に出てくる必要があるのか。

「この前の飲み会で、大型スーパーが駅の反対側に出来たから、人の出入りが寂しいのだと言ってたのを思い出してね」

重蔵はワンボックスカーの窓越しに、商店街の風景を眺める。

都もつられてその方向を見ると、確かに幾つかの店舗のシャッターが、昼間だというのに下りている。

シャッター通りとはいかないまでも、人通りもまばらで、かなり疲弊しているのが解る。

「ほら、ご覧、建物自体が痛んでいる店舗も結構多いだろ。それに石畳もボロボロだ」

「ええ。そうね」

「ああいう店舗を取り壊して新しくしたいのに、お金が無いから直せないと、会長さんは嘆いていた訳だ」

 重蔵は、車からいくつかの店舗を指さして言う。

「そこで、悪の組織としては、この商店街で侵略行為を行うついでに、そう言う場所を破壊しちゃう事で、解体業者を呼ぶ手間を省いてやろうかと思ったわけだよ」

つまり、建物の解体の肩代わりをするのだという。

都にもだんだん、作戦の構図が見えてきた。

「それに悪の組織に建物を破壊された場合、建物のがれきは国が撤去してくれるし、被害者には国や市から見舞金も出るしね」

重蔵は、戦闘員から缶コーヒーを受け取り、飲み干す。

「彼らはそれを受け取り、立て直しの費用に充てる。我々はひそかに呼んでおいた、ケーブルテレビ局とラジオ局を通じて、復帰をアピール。新幹部のお披露目を済ませ、健在であることを知らせることが出来るわけだ。」

「ズルっ!!」

「悪の組織だよ?ズルくて悪い事があるというのかな?商店街の会長さんにそれとなく聞いてみたら。即座に乗ってきてくれたよ。解体の手間賃として、少しばかりの寄付もしてくれるってさ」

 個人経営の建物がならぶ商店街では、一軒一軒、解体業者を呼ぶとなれば、その出費は計り知れない。悪の組織が活動で破壊してくれるというなら、喜んで頼むだろう。

「なぁに、大丈夫さ都。航輝君の所とは、真面目に戦うからね」

重蔵は、残りのコーヒーを一気に飲み干すと

「お前の出番まで、まだまだ先だ。この商店街の中に居れば良いから、航輝君の所に行って来たらどうだ?」

ヘタなウインクを一つして、そう言った。


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