一章 ここはどこ・・・
私、マナミ・アイハラ・シュクレこと、
愛原愛美がこの世界に来たのも、1年半前。
…ベッドが硬い。
寮のベッドってこんなに粗末だったか!?と、
ベッドの硬さで目覚めた愛美は、周りを見渡した。
おかしい。
草木が生い茂り、直射日光が愛美を襲う。
「わ…私ってば無意識に、
外国へやってきていた!?
いやそんなはずない!」
一人漫才もそこそこに、本当におかしい。
夢…。
白昼夢とか!?
「…まじでここどこ。」
お決まりのセリフをつぶやくが返答がない。
人がいない。
直射日光と、草木、というあたりで寮ではない。
学校でもない。
学校で草木が生い茂るところなんてない。
有りそうな所は、近くの大学で、
獣医科がある。
獣医科があるため、原生林があるのだ。
いや、原生林にしては、立派。
モモンガの住まいである木箱もないし、
鳥も飛んでいなかった。
服装は、部屋着用のパーカーとズホンで、
上から着る毛布をはおっている。
足は、ふわふわ靴下と、ルームシューズ。
裸足でない所が唯一の救いだ。
ここで裸足、なんてもう無理。
虫嫌いの人に虫を食えと言うようなものだ。
現在位置は、不明
人の気配もなければ、動物の気配もない。
さてどうしようか。
太陽の光具合と、木々の様子からみて、
朝、という事が推測される。
人間生きるために必要なのは、水と
食料と身の安全である。
ここはどこ、とかやけになって観光を始めるのは
後にしよう。
以前キャンプへ行った時、水道管がつぶれ水が
出なかった事がある。
その時、私は、
「朝の草木はみずみずしいから噛むんだ。
かんだらつばもでるし、
腹も膨れる。
いいな草を噛むんだ」
と言われ、必死に草を噛んだ。
本気で嫌だったが今思えばよい思い出だ。
それと同じことをしたかった。
だがその計画は一瞬にして打ち破られた。
紫色の草に、緑でも虫だらけ。
こんなのかんだら一瞬で死ぬだろ。
とにかく一番大事なのは人に会うことだ。
この原生林から人里を目指して歩かなければ。
ああ。
このルームシューズはすごく高かったのに。
毎日毎日、ファーストフード店で子機使われ、
店長やパートのおばはんからの嫌がらせからも
耐え抜いてもらったお給料である。
(勿論、給料と冬のボーナスをもらったら
やめたけどね。)
そんなお給料で買ったルームシューズ、
汚したくないなあ。
―と能天気に歩きだした私が、人里に
たどり着くのは、その6日後。
そこで干からび、行き倒れになった私を
たまたま通りかかった老夫婦に拾われて
目をパチクリと覚ますのはその3日後。
そんなことも知らずに、ズンズン歩く私は、
こんな地獄が待っていようと、
知る由もなかった。