プロローグ
「ファンゴがきれた~。ファンゴ持ってきてよ。」
「こんなくそ暑い中浜辺にいけとでも!?」
立派な王妃の髪の毛にブラシを通し、絡んでいるのを
ほどいている一人の女性。
ファンゴ、というのはヘッドスパで使う薬品の事。
自然のものだから、手に優しい。
浜辺へ行ってこいや、という目線を男性に向け、
男性はぎくっとする。
彼は、ソード・ドュ・シュクレ。
こんな昼間から、こんなところで暇を持て余しているから、
想像できないと思うが、一応この国ディオーラル国の
文化省筆頭王宮文化師という肩書を持っている。
何が文化師なんだか、実際マナミもここに来た時は、
「昔遊びを教えるじいさんばあさん」くらいと思っていた。
が、違った。
マナミの考えは、7割方あっていたが、
日本、アメリカ、フランスの三カ国の文化を
取り入れ、それをこの国の発展に生かす、という
まあまあいりそうな人である。
だから、文化師がくだらない文化を持ってきたら、
この国もくだらない国の道へまっしぐら、というわけだ。
一方、その相手を嫌々している女性の名は、
マナミ・アイハラ・シュクレ。
髪の毛は綺麗に染められ、レイヤーカットを施している。
艶が見えて、天使の輪のようだ。
この店は制服がないのか、7分のニットに
ショートパンツを着ている。
彼女は姓はソードと同じである。
これは後々分かるのだが、この国では一緒に働く者は
姓を同じにしなくてはならないという日本では信じられない風潮が
ある。
「そんなあ。
毎日毎日浜辺へ行くか、
お会計か、荷物を預かるか、
飴を買いに行くか…
僕は雑用ですか。
シャンプーっていうやつとか、
ヘッドスパっていうやつとか、
やりたいです!」
「だってソード覚えるの遅いじゃない。
さ、早く浜辺へ行って来て。」
「い や で す !」
「王妃が来てるの。
早く行かなきゃソードの評判が
落ちるだけよ・・・!」
マナミは最後の切り札を出し、
観念したソードに、スコップとバケツ5つを
渡し追い出す。
マナミに仕事を教わりたい、という事でこのサロンに
やってきたソードなのに、覚えはすごく遅かった。
わざわざ文化師という高収入の仕事に就いたのに、
どうしてこんなサロンで教わりたいのか…。
最初は分からなかったが、これも文化を取り入れるのに
すごく必要だという。
けれど相手は、腐っても文化師だ。
この国で文化師などの国に仕える者に手を上げたりしたら
もう人生はおしまいだ。
だから仕方なく相手してあげている。
王妃の髪の毛が完全にとけた。
からみをとるのに、すごく時間がかかってしまった。
こんな穏やかな時間は今だけである。
またソードが帰ってきたら仕事を教えなくては。