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作者: 更紗 佳奈

 その日、海がきれいだった。


 ただ日々を過ごすことに疲れ、何もかも捨ててしまおうと向かった海。自分の感情とは裏腹にどこまでも澄み渡っていた。

 平日の昼間、あたりには誰も居ない。時折、船の汽笛が聞こえてくるくらいだ。

 じっと海を見つめていると、ふと、自分が世間から置いていかれたような気分になる。世間に流されるのが嫌になってここに来たのに、人間の感情というのは勝手なものだ。


 わたしは、何になりたかったのだろう。

 学生のころは、自分は特別な人間だと信じて、夢を持っていたように思う。けれど、年を取るにつれて、あきらめることばかり上手くなっていく。そんな自分が嫌になった時期もあった。それでも、過ぎ去る時間がその感情を隅へと追いやり、気づかぬうちに波に押し流される。そして今、またその波がそれを運んできたのだ。


 この、広い海の向こうへ、行ってみようか。いくつもの鎖に捕らえられてがんじがらめの体を一度開放したら、何か変わるかもしれない。

 そういえば、漠然とした外への憧れは、幼いころからあったような気がする。地平線が見える広大な大地を見てみたかった。

 今からでも、遅くないだろうか。行ってみてもいいだろうか。


 そのとき、一陣の風が、潮の香りを運んできた。自然と涙が零れ落ちる。こちらへおいでよと、呼ばれた気がした。


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