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勇者は先頭に、賢者は後尾に

 倒しても倒しても復活する土人形、土人形の右足を出口の扉にかざせば突破できると思うんだけど、右足を切断しても崩れて土になり、その土くれを扉にかざしても反応すらしなかった。


 崩れない右足を捜すべきなのかな?それとも他に条件があるのかな?


 過去の侵攻作戦でも此処を突破出来た者はいない、つまりはどう攻略すれば良いのか分かっていないのだ。


 奮戦空しく第一部隊の二割を失った頃、とうとう部隊長が土人形に捕まり、魔法陣で彼方に飛ばされてしまう。

 他の部隊も同様に数を減らされているみたいだ。

 

「なんてこったい、隊長さんがやられちまった。」

「レイヤー、君が第一部隊の指揮を執るんだ。」

 そうだ、新兵や老兵を寄せ集めた第一部隊だからこそ、新米とはいえ第二の難関を突破したレイヤーの指示になら従ってくれるはずだ。


「わかった、俺はパッチの指示通りに動く、お前は後ろに下がって、この場を切り抜ける為の作戦を俺に教えてくれ。」

「うん、とりあえず、敵に捕まらない様に逃げて、重い防具は捨てて構わない。」



 すぅ~~、はぁ~。


「よし、第一部隊は俺の言う事を聞けーーー!!」

 レイヤーは呼吸を整えると、闘技場の外にまで響き渡るような大声を張り上げた。


「現状を打破する作戦を考えた、俺の指揮通りに動けば絶対にここを突破できるぞ、絶対にだ!」

 ちょ、ちょっと、レイヤー、僕はまだそんな作戦思いついてないよぅ、勝手に絶対だなんて言わないで欲しかった・・・。


「盾は捨てろ、外せる防具は外して身軽になれ、捕まらなければそれで良い。」

 レイヤーは自分の籠手を土人形に向けて投げ捨てる。

「迎撃しつつ入口まで後退、あとは壁に沿って逃げろ、こいつらじゃあ、俺達には追いつけない。」

 レイヤーの指示に第一部隊だけでなく、他の部隊も一斉に入口門扉を目指して後退していく。



 ・・・後退、・・・逃げろ、・・あっ、軍隊では逃げろって禁句だった・・・。

 ・・・あっ、時間稼ぎで逃げてって言ったつもりだったけど、面白いこと思いついちゃった。

 上手くいけば上手くいくかも・・・。

「レイヤー、時計回りだ、時計回りに逃げて。」

「あ~ん?時計回りってどっちだっけ?」

「右、右回り。」

「野郎ども!右回りに逃げろ~!」

 山賊の頭の様な号令に、盗賊の様な逃げっぷり、でも軍隊の様に統率がとれてる。

 ・・・あっ、軍隊の様じゃなくて軍隊だった・・・。

 逃げる僕達、追う土人形(ソイルゴーレム)


 鈍足の土人形相手なら簡単に引き離せる。

 でも敵は無尽蔵の体力を持っているだろうから、いずれはこちらの体力が尽きて捕まるだろう。

 だけど今なら先頭を走るレイヤーが土人形最後尾に追いつき、背後から攻めさせられるはずだ。

 

 逃げる僕達(後方部隊)、追う土人形、それを追うレイヤー達(先頭部隊)って形にしたかった。


 ・・・でも、僕の考えは甘かった。


 闘技場が広過ぎた、とてもじゃないけど土人形の背後を取るまで僕達の体力がもちそうにない。

 しかも・・・。

「大丈夫かパッチ、もう息が上がってるじゃないか。」

「レイヤー!なんでここにいるの?先頭じゃなかったの?」

「先頭にいたらお前の指示が聞こえないだろ。」


 うわぁ、やっちゃったぁ~、兵を率いる指揮官が此処に居るんじゃ体力的に間に合わない、作戦失敗だ、どうしよう?


「でも流石だなパッチ、あの土人形が当たりって訳だな。」


 ・・・えっ?


 後ろを振り返ると土人形の集団から一体だけ突出している土人形がいる。

「あいつが他の土人形より能力が高いから一番先頭に出てくるって事だよな?って事は、あいつの右足を奪えばここは突破だな!」


 レイヤーは反転し、先頭の土人形に向かって駆けて行く。

 

「とりゃあああああっ!!」


 レイヤーは雄叫びを上げながら土人形の右足にスライディングキックを打ちかます。

 前方に一回転しながら倒れ落ちる土人形、そして転がり砕けた右足から赤色の玉が飛び出した。

 すると後方の土人形たちが一斉に崩れ落ち、土塊へと変わり消えてしまう。


「よっしゃぁーー!!ざまあみろ、こんにゃろ。」

 倒した土人形の体を何度も踏みつけながら勝ち誇るレイヤー、汗だくの僕達も歓喜の声を上げる。


 第二の難関に続き、またも「勇者レイヤー」の大合唱、僕の友達は本当に格好良いと思う。




 

 

 回収した赤玉を出口側の門扉にかざすと、木製の扉の色が赤く染まる。

 赤くなった扉だが、それ以上の変化はなく、押しても引いてもピクリとも動かない。

「どうなってんだこりゃ?さすっても駄目じゃないか。」

「う~ん、まだ解かなきゃいけない謎が残ってるのかな?」

「パ、パッチ、レイヤー、残ってるのは謎じゃなくて敵みたいだよ。」

 フックが顔面を蒼白にして僕らの後ろを指差す。


「げげ、また走らせるのかよ。」

 現れたのは木人形(ウッドゴーレム)、数は・・土人形(ソイルゴーレム)の半分くらいかな。


「野郎ども!もう一回逃げるぞ!」

 隊列も関係なく一斉に僕達は走り出した。


「レイヤー、時計回りじゃないの?、そっちだと反時計回りだよ。」

 フックの声にレイヤーは振り返る。

「へっ?そうなの?」

 先程と同じく、時計回りに走る者と、レイヤーに釣られて付いて行った者とに分かれてしまう。

 このままでは挟み撃ちになるかと心配したんだけど、何故だか木人形は全部レイヤー側の一団を追いかけている。


「・・・もしかして狙われているのはレイヤーだけなのかな。」

 右回り組全員が立ち止まる。やはりこちらに来る気配はない。


「レイヤー!木人形の狙いは、おそらく君だけだ。」

「へっ?そうなの?」

 それを聞いた左回り組は勇者(レイヤー)から距離を取るため、方々に走り出す。

「ちょ、ちょっとみんな、俺から離れちゃうの?」


「やっぱり、狙いはレイヤーだね。」

「うん、正確には赤玉の所持者を追いかけてると思うんだ。」


 逃げるレイヤー(単独)、追う木人形、先程と同じく、徐々に木人形の集団から抜け出していく一体の木人形、あれの右足にも同じように玉が埋まっているんだろうなあ。


 あれこれ考えている間に先程倒し横たわる土人形をレイヤーは飛び越えた。だけど追いかける木人形はそれに躓き(つまづき)後続の木人形達も相まって集団で転倒している。


 木人形は土人形よりも大きく、背丈は僕達と同じくらいだ。

 動きも速く、俊敏なレイヤーでなければ引き離すのは難しいかも知れない。

 対象外の僕達は競技場の中央に集まり様子を窺っていた。


「レイヤー、今回は僕達が木人形をやっつけてみるよ。」

「分かった、俺はこいつらから逃げていればいいんだな。」


 フックを含む第一部隊十名に推定玉持ち木人形を攻撃してもらうように頼んだ。



 結果は失敗。


 

 十名掛かりで戦斧を振るい、木人形を斬り裂くも、右足には玉が無かった。

「いったいどういう事なの?」

 思いもしない結果に周囲に動揺が走る。

「そいつじゃ無かったんじゃないか?」

 木人形も土人形と同じく、壊れても復活し、再び動き出した。



 ・・・まだ解かなければならない謎があるんだ。



 確か看板には・・「ようこそ、巡る人形劇へ♪『倒せ人形 かざせ右足 さすれば扉は開かれん。』城塞内にて皆様の健闘を祈っております♪」って書かれてたはず。

 『ようこそ』これはあいさつ、『巡る人形劇へ』これは第三の難関の名称、今思えば『巡る』っていうのは巡回するって事で、闘技場内をぐるぐる回れば特殊な精霊人形がどれなのか判るって事だったのかな、『人形』は精霊人形(ゴーレム)、『劇』って事は・・場面、・・配役、・・展開、・・物語、・・う~ん、深く考えずにここは悪魔(オウガデス)の用意した台本通りに演じれば結末まで辿り着ける劇の様なものだと思っておこう。

 『倒せ人形 かざせ右足 さすれば扉は開かれん。』・・・精霊人形を倒して、右足から取りだした玉をかざせば扉は開く、って解釈で合ってると思うんだけどなぁ。

 ・・・たおせ・・レイヤーが土人形をやっつけたら玉はでた。次もレイヤーが倒さないといけないのかな?乱戦時には玉は見つからなかったし、別の条件があるのかも・・・。

 ・・・かざせ・・かざしたら色が変わったんだからかざせは合ってる。

 ・・・さすれば・・玉をさすっても、扉をさすっても効果なし、これはやっぱりそうすればって事だよね。

 ・・・開かれん・・開かない?、いや、開くって事だよなぁ。

 ・・・う~ん、たおせ、かざせ、・・倒せ・・やっつける・・倒せ・・転倒・・転ぶ・・倒れる・・・。

 ・・・ん?・・土人形はやっつけて倒れた?・・倒してやっつけた・・そっか、転ばせて倒せば良いのかも。


「レイヤー!」

「おお、パッチ、良い作戦が浮かんだか?」

 汗は掻いてても、まだまだレイヤーは元気そうだ。

「玉を取りだすには条件があるんだと思う。それは転ばせてから倒すって事だと・・・。」

「よっしゃ、わかった、後は任せとけ。」

 僕の自信の無い作戦を信用してくれるのは嬉しいけど、合ってるかどうか本当に自信が無いよー。

 心の中で叫んでみたところでレイヤーには聞こえない、僕は祈るような気持ちで戦友の雄姿を見つめる事しか出来なかった。


 レイヤーは先頭の木人形に先程と同じく、見事なスライディングを決め、転ばせるやいなや、手に持った短剣で木人形の右足を切り取りにかかる。


「あぶない!!」

 木人形と格闘してる間に後続集団に追いつかれ、木人形達は次々にレイヤーを捕えに腕を伸ばす。

 襟首を掴まれ抱え上げられ様としたその時、木人形はカラカラと音を立てながら崩れ落ちていった。

 戦友の手に握られた橙色の玉、どうやらギリギリ間にあったみたいだ。


 再度湧き上がる歓声、だけど僕は新たな玉を見て不安を高めてしまう。


 う~ん。「妹よ、お兄ちゃんは今、不安で一杯です。」

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