脱落者は徐々に
僕達、悪魔討伐隊は、第三の難関「巡る人形劇」の入場門の前で整列している。
門扉の横には看板が立てられており、「ようこそ、巡る人形劇へ♪『倒せ人形 かざせ右足 さすれば扉は開かれん。』城塞内にて皆様の健闘を祈っております♪」と、書かれていた。
「なあパッチ、これってどういう意味だ?」
「今回はそのままの意味だと思うよ、人形はゴーレム、ゴーレムを倒して、ゴーレムの右足を扉にかざせば第三の難関は突破出来るって事だと思う。」
「さすればって書いてあるけど、扉をさすらなくてもいいの?」
「う~ん、そうかも知れないけど、”さすれば”は、”そうすれば”って事だと思うから、大丈夫じゃないかな?」
「もし駄目だったら、さすってみれば良いだけだろ。」
「そうだね。」
「巡る人形劇ってのもヒントなのかな?」
「う~ん、今はまだ分かんないけど、多分そうだろうね。」
三人で相談してる間に、タグラグタ将軍の訓示が終わり、いつも通り、イーラ・ナイツが先陣を切る。
「我こそがイーラ・ナイツの一人、ケーリー・アッケルなり、皆の者、我に続けぇ~。」
自分の右足を門扉にかざすケーリー様、だけど扉が開く気配はない。
続いて右足で扉を蹴り開けようとするも、木製とはいえ巨大な門扉が蹴破れるわけもなく、ケーリー様は右足を負傷してしまう。
「だめだこりゃ、結局、俺たちが開ける羽目になるのかよ。」
そしてスライド式の扉は簡単に開いた。
内側は円形の闘技場の様であり、観覧席が設けられてはいるが、観客は居ない。
でも、闘技場としては広大すぎる。
千対千の戦闘訓練でも出来そうなくらいだ。
ザザールーク国の戦闘訓練場よりも広く、とても敵軍の進入を阻む為に造られた物だとは思えない、軍事演習を行うにしても立地条件が悪すぎるように思えた。
「悪魔の考える事は分かんねえな、何でこんな所にこんなもんを建てるかね。」
「そうだよね、ゼルタリス城塞の場所も森の奥に建てるんじゃなくて、少しでも自国の領土を確保する為に、森の中央だとか、もっとザザールーク寄りに建てるもんじゃないのかな?」
「ああ、確かにそうだ、ここが闘技場だか劇場だか知らねえけど、城塞の外側に建てるもんじゃあねえよな。」
「ここは・・・、ここまでザザールーク軍を誘い込み、ゴーレム達と戦わせる。それを観客席から見物する為に造られたんだよ、きっと。」
「でも、観客席には誰もいないよ。」
「俺達じゃ見る価値すらないってか?ふざけやがって。」
そして第五部隊までが場内に入った途端、入口の門扉が閉まり、軍が二つに分断されてしまう。
さらに、僕達を囲むように置かれていた土山の塊が形を変え、土人形となって現れた。
「おいおい、金豚はともかく、ブレスト様がいないとなると指揮は誰がとるんだ?」
急な土人形との戦闘に各部隊長は自部隊の指揮で精いっぱいって感じで、五部隊を統率できそうな感じじゃない。
「わわ、・・さ、作戦書には全部隊が入ってから扉が閉まるって書いてあったよね。ね?」
剣を構えてはいるけど、土人形相手に及び腰のフックが弱音を吐いてる。
「よっ、とっ、人数制限があったんじゃねえの?今回の数は、いつもの倍だからな。」
掴みかかろうとしてくる土人形だけど、その動きは鈍重で、軽快なレイヤーの動きには付いていけない様だ。
「ここを突破する為の増員だったはずなのに、これじゃあ今迄と変わらないじゃないか。」
土人形の数は、せいぜい百体程度に見える。力はあるが動きは遅く、幅はあるけど身長は僕たちよりも低い。
体は土で出来てるだけあって脆く、斬りかかれば四肢は斬り落とせるし、大剣なら両断も出来そうだ。
鈍器で叩くと簡単に砕け散る。
「おや?思ったより苦戦しないな。」
「油断しちゃ駄目だよ、レイヤー。」
斬っても叩いても、崩れ落ちた土人形は土塊となり、、そこからまた土人形として再生し襲いかかってくる。
一番隊に犠牲者が出た。
土人形に捕まった兵士は強引に持ち上げられてしまう。
すると、浮いた足元に何故だか魔法陣が出現し、その上に乗せられると、抱えられた兵士は魔法陣に吸い込まれ消えてしまった。
おそらく、これまでの侵攻作戦がそうだった様に、消えた兵士は魔の森の入口付近に飛ばされたのだろう。
命に別状はないらしいけど、遠方に飛ばされた事により、直ぐの戦線復帰は期待できない。
「だめだこりゃ、きりが無いうえに、こちらの数が徐々に減らされていってるぞ。」
何十体と土人形を倒したレイヤーだけど、そのどれもが復活し、再び動き出している。
「ううっ、何とかならないの?パッチ。」
う~ん、何とかしたいけど・・・。
逃げようにも扉は閉まったまま動かない様だし、壊すにしても時間が掛かりそうだ。
・・・まずい、このままでは全滅しちゃう。




