企みは密やかに
新緑の城塞ゼルタリス、巨大な精霊樹を柱に様々な樹木が絡まりあい、ひとつの城塞と成している。
精霊樹を中心に城塞全体を霧が包み、その姿をおぼろげに隠す。
地、水、火、風、四大精霊が色濃く息衝く魔の森、地の属性を持つ精霊樹、水の精を取り込み成長し、風の精に種子を運ばせて眷族を増やす。
火の精には己が樹身を焼かせ、炭や灰となり、大地への栄養とする。
だが、火の精の気性は荒く、森全てを焼き尽くさんとばかりに激しく燃え盛る。
そこで火の精を抑止する為、活躍するのが森の消防隊、火喰い鳥だ。
魔の森を横断する樹壁には火喰い鳥が住み着き、森で火災があればすぐさま火を食み消化にあたる。
火消しの見返りに、精霊樹は火喰い鳥の巣を保護、巣を狙う獣などの外敵は精霊樹が生み出す精霊人形が追い払う。
精霊樹は様々なゴーレムを生み出す。柔軟性に富む木人形、沼地へ引きずり込む泥人形、水分を奪いとる砂人形、
力強い石人形、更に強力な鉄人形、他にも希少で強大な精霊人形を多々生成することが可能である。
城塞内の一室、畳敷きの部屋でゼルタリス城塞司令官のオウガデスは茶を煎じていた。
「またそんな不味いモンを飲むのか?」
ズカズカと遠慮なしに入ってきたのは耳の長い男。
緑髪緑眼、色白、細身で長身、腰まで伸びた後ろ髪を水色のリボンで束ねている。
典型的な耳長族であるが、ただこの男、美形ぞろいのエルフにしては目つきが悪い。
「ライムさんには、こちらを用意してますよ♪」
オウガデスはそっとライムにハーブティーを差し出す。
「で、目ぼしい奴は見つかったのか?」
ライムはハーブティーを受け取りゴクゴク飲み始める。
「ええ、素質持ちが二人、特質持ちが一人です♪」
ライムはオウガデスに向け、口に含んだハーブティーをブファーッと吐き出した。
「特質持ちがいるのか!そりゃ楽しみだ。」
顔に付いたハーブティーを手拭で拭き取ると、そばに置いてあった水晶球をライムに見せる。
「この少年が特質持ちのパッチ・ストール、なかなかの知恵者でもありますよ♪」
水晶に移っているのは魔の森に進攻中のザザーランド人のパッチであった。
「なんか、特質持ちのわりには冴えない顔だな、こういうのはお前に任せた。」
「ふふっ♪面白みの無い面持ちの少年は面倒くさいのですね♪」
扇子で口元を隠し、笑い声をこぼすオウガデス。
「何が面白いんだか・・、それよりこっちのレイヤーって野郎の方が面白そうだな。」
「わかりました♪ではそちらのレイヤー・ストレインはライムさんにお任せします♪」
「もう一人はどうする?」
「ミュリエルさんが適任かと思われます♪」
「嬢ちゃん向きね、こりゃまたあれだな、おっさんの眉間の皺が深くなりそうだな。」
「そうですね♪ともあれ、今回、迎え入れるのは300人程と考えておりますので、準備のほうをお願いしますよ♪」
ライムは立ち上がり、片手を上げて応える。
「おう、まかせとけ。」
豪快に襖を開け放ち、軽装エルフは颯爽とその場を後にした。




