称賛は勇なる者に
第二の難関「落ち着きの架け橋」に挑戦して約三十分が経過した。
難関は難関だったけど、見事に突破した。なんと、あのレイヤーが・・・。
ここに来るまで散々愚痴をこぼしていたのに、今は満面の笑顔で手を振り、皆からの歓声を浴びている。
「みなさん、レイヤーはやりました。やりましたよ~。」
―☆―☆―☆―
落ち着きの架け橋っていうのは、渓谷に掛けられた谷幅は50モートルくらい、谷底は深く底が見えない。架け橋と言っても、横幅は両足をそろえて立つ事が出来ないくらいで、長方形に加工された木材が一本架かっているだけ、落ちたらまず助からないであろう、危険な難所だった。
第一の難関と同様、最初はタグラグタ軍の精鋭部隊、『イーラナイツ』の、ナッツ・オーチル、ラック・オーチル、ニッツ・オーチルのオーチル三兄弟が突破を試みたのだが、みんな落ちちゃった。長男ナッツは橋の揺れに体勢を崩し、次男のラックは強風に煽られ、三男のニッツは匍匐前進で中程まで進むも、橋が突如回転し振り払われるような形で谷底へと消えていったんだ。
3人とも橋に命綱を掛けていたのに、何故か落下と同時に綱が切れる、やっぱりこれも悪魔の仕業なんだろうな。
兄弟が落ちていくたびに、タグラグタ将軍の顔からドバッと脂汗が流れ落ちたりして、軍の士気もどん底に落ちていった。
「だめだこりゃ。なんだか落ちてばっかりだな。」
「落ちるっていうのが悪魔の森の特徴なのかな?」
「たしかオウガデスって悪魔が自分の事を噺家だって言ってたよね。」
「噺家だけにオチを付けましたってか?笑えねえな。」
「だから落ち着きの架け橋って言うのかな?」
落ち着きかぁ・・・。オチが付く、落ちが付く、落ち着く・・・う~ん。
そして使い捨ての第一部隊に御鉢が回ってきた。
でも、誰も橋を渡ろうとする者がいない、気の短いタグラグタ将軍から叱咤されるけど、みんな躊躇してる。
「なあ、パッチ、今回も良い作戦は浮かばないか?」
「思うところはあるんだけど、確証はないんだ。しかも、作戦ってものじゃなく、ただの気休めなんだよ。」
「気休めでも良いから教えてくれよ。俺、行ってくるから。」
「えぇ~、無茶だよ、落ちたら死んじゃうんだよ。」
青ざめた顔のフックがレイヤーの袖を掴み無謀な挑戦を止めようとする。
「ここも魔法で造られてるはずだから、谷を越えて向う側まで行けば皆が渡れるようになると思うんだよなぁ。」
「たぶん、そうだろうね。」
「で、俺はお前たちが落ちるのを見たくない。だから、俺が先に行って皆が渡れるようにする。」
「ぼっ僕だって、レイヤーが落ちるところ見たくないよ。」
「俺だって落ちたくねえよ。だからよ、気休めでも良いからパッチの作戦を聞きたいんだ。」
「う~ん、第一の難関には、あの悪魔は現れたのに、ここでは現れてないよね。」
「ああ、そうだな。」
「何故か分からないけど、あの悪魔は僕達に要塞まで来て欲しがっている様に感じるんだ。」
「こんな難所を用意してるのにヒントまでくれてたよね。」
「そう、でも此処には居なかった、という事は、あとで助言をしに姿を見せるのか、そんな攻略法なんてものは最初からないのか、それとも、もうすでに攻略の鍵は示されてるのか。」
「ヒントがあるとすれば、怪しいのは・・あの看板だよな。」
橋の側に立てられている看板には「落ち着きの架け橋です♪張り切ってどうぞ♪」と書かれている。
「こんなのがヒントか?ふざけて書いてあるとしか思えないぞ。」
「落ち着きながら橋を渡れば良いのかな?」
「それじゃあ、落ち着きながら張り切れって事か?何かおかしくないか?」
「さっき、オチが付くから落ち着きだって言ってたけど、落ちたら着くから落ち着きという意味にもとれるなって思ったんだ。」
「なんじゃそりゃ、谷底に落ちろって事か?」
「そう考えると、張り切ってどうぞ、という事は、命綱張らずにどうぞ、張っても切りますよって事なのかなって思えてきたんだ。実際そんな感じだしね。」
「張り切ってねぇ、ちょっと強引な考えじゃないか?」
「うん、僕もそう思うんだけど、なんとなく悪魔は僕達を殺すつもりはないんじゃないかなって・・・。」
「いや、完全に殺しに来てるよ、落ちたら絶対死ぬよ、殺す気満々だよ。」
「うん、落ちたら着くのなら、ナッツさんが落ちた時点で第一の難関の様に攻略者はナッツさんですって声が聞こえる筈なんだけど、声はしないって事は違うのかも知れない、それに、谷の向こう側に道が続いてるから、やっぱり橋を渡らなくてはいけないとも思うんだよ。」
「つまりは、橋を渡らなくてはいけないけど、落ちても死なないってことか、まあ、確かに気休めだな。でも、気が楽になった。」
それじゃあ、行ってくるとばかりにレイヤーは走りだした。僕の何の確証もない言葉を信じたのか、命綱も付けないで。
レイヤーは橋の上を前傾姿勢で真っ直ぐに駆ける。上下の揺れも、吹き付ける風をも、ものともせずに。
橋の中程で、橋がぐるりと回転する。
レイヤーは止まらないどころか天馬のごとく跳躍する。その姿はすっごく格好良かった。
そして、橋を渡りきったレイヤーは軽く鼻をこすり、どうだとばかりに、僕達の方へ拳を突き上げる。
一斉に歓喜の声があがった。
誰かが叫んだ。
「お前こそが勇気ある者、勇者だ。」と。




