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遭遇、悪魔は森の中に

 外から聞こえる小鳥達のさえずりで目が覚めた。

 ・・・よく眠れたので頭の中はすっきりしている。

 ・・でも、今日から悪魔との戦いがあるのだと思うと、清々しい朝を迎えた気分にはなれなかった。


 同部屋の二人に目をやると、レイヤーも目覚めたばかりの様で、体は起こしているが、目はまだ閉じたままだ。

 フックは僕たちよりも先に起きていて、パンをかじり、ミルクを飲みながら作戦書を読み返している。

「おはよう、レイヤー、フック。」


「ふぉ~ふぁよう。」

 欠伸交じりの返事をするレイヤー。


「おはよう、パッチ、レイヤーも早く食べなよ。今日はいつもより沢山、神様にお祈りしなくちゃいけないからね。」

 フックは僕達の分のパンとミルクを用意してくれていた。


「ついでに俺の分も祈っておいてくれよ。」

 信仰心の薄いレイヤーは神様への祈りが嫌いみたいだ。


「もちろん、皆の分も祈るさ、だから今日は早く仕度しないとね。」


 そうだ、僕も妹や、妹を養ってくれているお爺ちゃん、お婆ちゃんの無事を願って、お祈りしなくちゃ。あと、フックの無事も、・・・ついでにレイヤーも。


 たっぷりと時間をかけて礼拝を済ませた僕たちは、身支度を整え、集合場所へと向かった。

「今日も朝日が眩しいや。」







 森の中を進軍する事2日、道中何事もなく第一の難関「歓迎の急勾配」まで辿り着く。

「本当に魔物一匹出てこなかったな。」

「聞いていた通りだね。」

 火を使わない、脇道にそれない、この二つを守っていれば何の苦もなくここまで来れる事は、過去の侵攻作戦の経験で分かっている。


 後方から、身体的能力不足から軍馬に騎乗できないタグラグタ将軍が、戦場にそぐわぬ煌びやかな装飾がされた、二頭立ての馬車に乗って運ばれて来た。

 何もしていないのに汗だくで、汗を拭く布はすでにびっしょりと湿っている。

 先頭に到着するやいなや、将軍は大きな口をパカッと開けて、がなり声を響かせた。

「我こそは金色将軍タグラグタなるぞ。人間に仇なす悪魔どもを殲滅しに参った。正義の刃をその身に受けるがよい。」

 宣戦布告し、腰の剣を引き抜き、剣先を敵に向けポーズを決める・・・つもりだったのだろうけど、重厚な贅肉が邪魔をして将軍の短い右腕では左脇の剣の柄を掴む事すら出来なかった。


「だめだこりゃ。」

 より一層脂汗を滴らせる将軍を見て、両手を開き首を傾げるレイヤー、お決まりのポーズが決まった。



「ようこそ御出で下さいました皆々様♪」

 どこか涼しげで楽しげな声が聞こえた。そちらを見ると、遥か東の孤島にあると云われる白金(プラチナ)の国、日和国(ひよりこく)の伝統衣装、和服もしくは着物と呼ばれる衣装を着た金髪碧眼の悪魔がいた。

 悪魔は、やや厚みのある敷物の上に両膝を付いて座り、両手の指先を合わせて地に付け、頭を垂れている。


「私の名はオウガデス、シン帝国ゼルタリス要塞司令官にして噺家(はなしか)でございます♪」

 上体を起こしニッコリ微笑む姿は滑稽だけど綺麗だとも思った。


「お集まり下さいました皆様を歓迎したい気持ちは御座いますが、如何せん我が要塞では人数分の御持て成しが出来ない次第で御座います♪」

 申し訳なさげな表情なのに笑みは崩れていない。

 オウガデスと名乗るこの悪魔は、奇妙奇天烈な格好で、珍妙な言動はしているけど、敵意はなさそうだし、人間に見える。

 本当にこの人は悪魔なんだろうか?

「つきましては、御足労では御座いますが、途中、当方で用意致しました御遊戯等をお楽しみくださり、辿り着きましたる御方のみを歓待したい所存に御座います♪」


 つまりは、来れるものなら来てみろ、来れた奴だけ相手してやる。・・・って事だよね。

 宣戦布告に応えたって事なんだろうな。

 やっぱり見た目の美しさに騙されちゃいけないんだ。悪魔恐るべし。



 昨日の作戦計画では、のこのこと現れた悪魔が消える前に弓兵が矢で射抜く手筈になっているのだけど・・・。



 口上が終わると、いつの間にか悪魔(オウガデス)の周りに霧が発生していて、徐々にその姿を包み隠していく。

 姿が見えなくなる前に副将のブレスト様が弓兵に攻撃の合図を送った。

 数百の矢が悪魔めがけて一斉に放たれる。

 すると、悪魔は懐から扇(日和国では扇子と呼ばれる物。)を取り出し、一振りで全ての矢をはじき返した。そしてまたニコリと微笑むと、悪魔は霧の奥へと姿を消す。


「なんだありゃ?矢が扇に吸込まれるかの様だったぞ。悪魔は一瞬で魔法を使えるのか?」

 レイヤーのつぶやきはとっても分かる。

 火を熾す程度の魔法だと、簡易魔法陣を魔法の杖で描き、呪文詠唱の後に効果を発動させるというのが一般的だ。

 強力な魔法を行使するなら、複雑な魔法陣を描き、長時間の呪文詠唱が必要となる。

 でも、あの悪魔は推定『風の魔法』を行使する際、魔法陣を描きもしない、呪文を唱えもしなかった。


「ねえねえ、パッチ、悪魔の魔って、魔法使いの魔なの?」

「わかんない、違うと思うんだけど、そうかも知れないとも思う。」


 ブレスト様の説明では、詠唱無しでも即座に魔法を行使できるマジックアイテムがあるらしい、どうやら、あの悪魔が取りだした扇子がそれなのではないか、という事だ。

 魔法後進国のザザールーク王国ではそんな便利な魔法の品を持つ者はいない。大陸五強国でも所持する者は数少ないと云われている。

 とても貴重で強力なマジックアイテムを敵は持っている。


う~ん。「妹よ、やっぱりお兄ちゃんはとんでもない所に来たみたいです。」

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