軍事訓練編 融利返勢《ゆうりはんせい》
穏やかな久々隊とは裏腹に騒然としていたゴブロブ隊であったが、やがて喧騒が止み、次第に霧が晴れてくる。
その場に立っていたのは1000匹のキマイラのみで、半数は地に倒れ、ゴブリン兵1500名は全滅していた。
そこへ重い鎧を着たまま息も絶え絶えに走ってきた重装ホブゴブリン兵500名、倒れた大勢の味方は見てとれるが、敵の姿は見つけられず、状況把握に四苦八苦している。周囲を警戒しつつ残存兵のキマイラへ、そろりそろりと近づくホブゴブリンたち、そして味方であるはずのキマイラが突如ホブゴブリン兵へと牙を剥く。
キマイラの鋭い剛爪は容易に鎧を引き裂き、獅子の強靭な牙顎は鉄の剣をも噛み砕いた。
武器も鎧も失い、合成獣の巨体に伸し掛られ押さえつけられたホブゴブリン兵、トドメの一撃は爪か、それとも牙か、どちらにしろ死を覚悟したのだが、受けた攻撃は肉球ビンタの連打、それは気絶するまで続けられた。意識が薄れゆく中、ホブゴブリンは呟いた。
「な、なぜご・・・ぶふぁあああああ~。」
街路沿いに居並ぶ一件の家の屋根にオウガデスがおり、手に持っていた赤いカードを撒き散らすとカードは戦場で傷つき倒れたゴブロブ隊の兵士に張り付く。カードに書かれた文字は『捕虜』の二文字。
そこへティーカップを持ったライムが三杯目の紅茶を飲みながら現れた。
「ゴーレムとガーゴイルのコアをキマイラに埋め込み操るなんて反則じゃないのか?」
扇子を片手に持ち、柔かに振り返るオウガデス。
「反則負けにしてくれたなら帰れますのにね♪」
「・・・そうしてくれたら良いが、あの軍務じゃ、それはないな。」
紅茶を一気に飲み干し、ティーカップを側に控えるエルフ兵に渡す。
「それで、どうするんだ?残りのグリフォンは放っておくか?それとも射落とすか?」
屋根伝いに沿って並んだエルフ兵が上空に向け弓矢を構え、グリフォンに照準を合わせる。
「一応ながらグリフォンは騎獣扱いで登録されておりますので、乗り手のゴブリンが全滅した今、お互いに戦う理由はありませんね♪」
オウガデスは懐から登録表を取り出しライムに手渡す。
「一応の騎獣でも騎獣は騎獣、ならその騎獣を俺達の騎獣として使わせてもらうとするか。」
受け取った登録表を丸めてポイっと捨てる。
「ふふふ♪兵力を増強しようとは、とても負けようとする者の考えではありませんね♪」
オウガデスの服にある蝙蝠紋から赤いコウモリが飛び出し、それが捨てられた登録表に触れると同時に発火し、一瞬で灰となって消えた。そしてコウモリは再びオウガデスの定紋へと戻る。
そんな一連の動作は、さらっと流して会話を続けるライム。
「少しは殺る気を見せないとな。やる気満々の相手に勝った方が気持ち良いだろ、気持ち良く勝ってもらって気持ち良く負けようぜ。」
同意の笑みを浮かべつつ、オウガデスの額に第三の眼、『魔神眼』が現れ、2000匹のグリフォンを睨みつけ屈服させる。フラフラと地上へと舞い降りてきたグリフォンはそのままオウガデスに向け平伏する。
「何度も言ってるけど、そういう便利な魔眼は最初から使えよ。使用制限なんて無いんだろ?」
半ば諦め顔でオウガデスに文句をつけるライム。
「ふふ♪我々の部隊指揮能力を国民に見せる為の公開訓練ですからね♪魔眼での決着は望まれていないのですよ♪」
「ふん、【来るべき日のために】、か。」
「ええ♪【来るべき日のために】♪」




