ククリの日記~まだ見ぬ誰かに伝えたい事~『卅一日目~卌日目』
卅一日目
今日も寝不足で、またパッチさんに迷惑を掛けるだろうな~と思っていましたが、目覚めると魔曲を弾きたい衝動にかられ、眠気など吹っ飛んでしまいベットから跳ね起きました。
早速、畑でパッチさんに魔曲を披露しましたよ。
そして、そして~、私の魔曲を聞いた農作物は稲穂を弾ませ、幹を揺らし、曲に合わせて動きだしたのです。
さらにゴーレムさんまでも両手をグルンと回しながら踊っていました。
まあ、パッチさんは私の演奏よりも、ゴーレムさんが踊りだした事に感心していた様です・・・。
本日の収穫は『踊る魔米』、『静かになった魔麦粉』です。
品種は変わっていませんが、魔米も魔麦粉も以前より美味しくなった気がします・・・多分。
そして、パッチ、ククリ組は月間総収穫数第3位になった御褒美として、農業組合から高性能鍬と高性能鎌をいただきました。
おかげで、新しい農具に持ち替えたゴーレムさんの作業効率は少し上がったようです。
本日の魔法講義はディアブロ様のお城にて魔曲演奏のおさらいを兼ねた演奏披露です。
わざわざお招きいただいてありがたい事なのですが、魔曲と言っても牧歌ですから、ムード満点のテラスで弾かされて、場違い感で一杯でした。
そして、練習後に待っていたのは実技試験です。
花瓶に挿してある蕾状態の魔花に魔曲を聞かせ、咲かせられれば成功、変化が無かったり散らしてしまえば失敗。
最初に幾つかのアドバイスを受けて、いざ試験開始!・・・そして見事に魔花を咲かせる事に成功しました。
農場で沢山練習した成果ですね。
最後に魔曲の曲名を決める様にと言われて、付けた曲名は『夢の続き』です。
ミュリエル師匠から、「魔曲『夢の続き』は貴方が初めて使った貴方の魔法ですよ。」と仰ってくださいました。
う、う、うわぁーーーーーーーーーん、・・・感動です、思わずその場で感涙してしまいました。
突然、魔法を使う素質があると言われても、私が魔法を使えるなんて今日の今日まで信じられませんでした。
でもでも、自分でも気付かぬ内に、魔法を使う事ができる様に導いてくれていたのです。
師匠はもちろん魔族の方々に感謝です。
『魔法使い』の称号をいただき、今日から私は『魔法使いククリ』と名乗れるようになりました。
因みに、シン帝国では『魔曲使い』の称号は魔曲が3曲弾けるようになったら貰えるとの事です。
もちろん、ただ弾けるだけでなく、魔法効果が発動しないと魔曲使いとは認められないそうです。
卅二日目
本日の収穫は『魔柿』です。
パッチさんの機嫌がいつになく良いので、理由を聞いてみると、妹から手紙が来たそうです。
今朝、郵便蝙蝠が手紙を届けに来たそうで、手紙には、妹さんが息災である事や、パッチさんの無事を喜ぶ内容が書かれたあったそうです。
私も魔法使いになれた事を報告し、パッチさんと一緒に『夢の続き』を歌いました。
♪♪♪~♪ ♪♪♪~♪ ♪♪♪~♪♪~♪♪ ♪♪♪~♪ ♪♪♪~♪
魔曲の終盤・・・、ななな、なんと!あの伝説級のモンスター、ドラゴンが上空に現れたのです。
空を舞う巨大な竜を見上げていると、やがて曇が重なり周囲が暗くなって、少し風が強くなり、小雨がぱらつき始めました。
「心地よい魔力に誘われ訪れてみれば人間ではないか、そなたが魔曲を爪弾いていたのか?」って、ドラゴンさんの声がズシンズシンと頭の中に響いてきたのです。
恐る恐る返事をしたのですが、私が魔曲を弾いていた事を認めてはくれませんでした。
その上、小者扱いされちゃって、なんだか馬鹿にされた気分です。
ドラゴンさんは私達を見下ろす形でしたが、視線はずっとパッチさんを差していた気がします。
それから散々小馬鹿にした発言(響音)を繰り返していましたが、霧と共に現れたオウガデス様を見るやいなや逃げる様に飛び去って行きました。
「あのドラゴンはロスマリヌスさんの配下ですね♪後程、お二人にご迷惑をお掛けした事を詫びてもらいましょう♪」
私達を下に見ていたドラゴンさんを下に見ている様子のオウガデス様、そんなオウガデス様から礼を尽くされている私達って何なんでしょう?
きっと、神族も魔族も人間を滅ぼそうと思えば簡単に出来るのでしょうね。
と言う事は、私達はエサみたいなモノなのかな?
でもでも、魔族の皆さんは私達に他種族として尊重しながら接してくれていると思っています。
だから私も大事な隣人として魔族の方達と接していくつもりです。
本日の魔法講習では魔法と神法について学びました。
魔法とは魔力(マナとも呼ばれる。)を用いて様々な効果をもたらすもの。
神法とは神力を用いて様々な効果をもたらすもの、神聖魔法、奇跡、神通力とも呼ばれています。
ミュリエル師匠が目視テストをして下さりました。
右手に魔力を、左手に神力を集めて、それが見えるかどうかのテストです。
魔力は見えましたが、神力を見る事は出来ませんでした。
なので、明日からは神力を見る練習が始まります。
卅三日目
私の足長おじさんになりつつある『D』ことディアブロ様から郵便物を受け取りました。
中身は私専用の魔導書です。
表紙は黒皮で重々しい感じがしますが、四隅に星型の小さな赤い宝石が、中央にハート形の赤い宝石が嵌め込まれてあります。
一頁目に魔曲『夢の続き』の譜面が書かれており、他の頁は白紙です。
いずれは魔導書に書ききれないくらい、もっともっと魔法を覚えたいなぁ。
本日の収穫は『魔桃』と『魔栗』です。
魔曲を弾いていると沢山の精霊さんが集まってきました。
作物の周りで旋律に合わせて楽しそうに踊り飛び跳ねていました。
精霊さんや、昨日のドラゴンさんの様に、魔曲『夢の続き』には何かを引き寄せる効果があるのかも知れません。
どうか怖いモンスターやゴーストは来ません様に・・・。
本日の魔法講習は神力可視訓練です。
訓練と言っても師匠の神法を見学するだけでした。
神法が発動するとピカッと光がでます。
それは薄ぼんやりとした光だったり、色鮮やかに発光したりと様々でした。
今日見た神法は『再生』、『活性』、『保護』、『加護』です。
枯れた花を再び咲かせたり、元気のない小動物に力を与えたり、食品の鮮度を保ったり、壊れやすい物を丈夫にしたりと、見る人が見たら正に奇跡が起きたと思えるものばかりでした。
魔法も凄いけど神法も凄いなと感心しきりだったのですが、師匠曰く、「実は魔法でも同じ事が出来ちゃいます。」と仰られました。
と言う事は、両方使いこなさなくても良いのでは?
でもでも、覚えておいて損は無いそうなので、明日も神力可視訓練を続けます。
ええ、今日は全く見えませんでした・・・。
卅四日目
ジャ、ジャ、ジャ、ジャーン♪ジャ、ジャ、ジャ、ジャーン♪
なんと『幸運の魔卵』が『運命の魔卵』に進化しました~。
魔鶏樹も七面魔鶏樹になって、収穫量もドーンと7倍です。
おそらくパッチさんの品種改良に対する弛まぬ努力あってこその成果だと思いますが、私の魔法も少しは影響してると嬉しいな。
収穫作業が終わって、品評会の準備をし終えてから雨養生に取り掛かりました。
明日と明後日は嵐がくるとライム組長から教えてもらったのです。
魔族は天候すら容易に操れるのですが、戦闘や神族の災厄でなければ天候を変える事はしません。
パッチさんは嵐の間の二日間で、ゴーレムさんの改造に挑戦するそうです。
ゴーレムさんのコアを持ち帰って、宿舎でなにやら試してみる様ですよ。
本日の魔法講習も神力可視訓練です。
早く神力が見える様になればいいのに・・・。
卅五日目
天気予報通りの嵐です。
品評会は農業組合会館にて通常通りに行われました。
今回の特別審査員はシン帝国文官にして、競技委員長兼、闘技委員長兼、内務大臣補佐兼、魔法遺産管理人兼、骨董品屋さんのレイラール様です。
ライム組長をはじめ、審査員の皆さんが『運命の魔卵』に高評価を付けて下さいました。
作物を第二段階へと成長させるには長い年月が掛かるそうで、一月で進化させたのは人間は勿論、魔族にもいないそうです。
せっかく皆さんが褒めてくれたのに、パッチさんは悩んでいました。
作物の進化条件を模索しているようです。
さて、嵐の為、今日と明日の農作業はお休みとなり、暇を持て余さない様に考慮したシン帝国が軍事訓練を民間人に一般公開したのです。
不定期ながら武闘大会や、軍事演習を公開しているらしく、魔軍の強さを見せるのと同時に楽しんでもらうのが目的なのだそうです。
訓練は昼過ぎから明日の夜更けまで行われるそうです。
ミュリエル師匠も軍事訓練に参加されるらしく、怪我をしないか心配してます。
今日は魔法講習もお休みなので日記は早めに書きましたが、明日は遅くなりそうです。
卅六日目
ただいま戻りました。
訓練と言うよりも戦争を見た様な感じで、ものすごく疲れました。
軍事訓練の様子は宿舎の魔水晶でも観れるのですが、悪農組の先輩から大勢で観た方が盛り上がると聞いたので、元悪魔討伐隊の皆で観戦会場の巨大魔水晶で観戦する事にしました。
明日から農業と魔法講習を再開します。
今日は観戦疲れで日記を書く余裕がありませんので、これにて失礼します。
おやすみなさい。
卅七日目
6の付く日はプレゼントの日、昨日配達されていた魔法市場からの無料配付物はユーリ絵画店提供の『思い出の写し絵』でした。
これは真っ白のキャンパスに手を当てると、本人の一番印象に残っている事が描かれて絵画になる魔法道具です。
触れてみたら、赤ん坊を抱く母と、それを見守る父の絵になりました。
たぶん、この赤ちゃんが私なんだろうけど、私には両親の記憶なんて無いものだと思っていました。
でも、この映し絵が私の記憶を元にして描かれているのなら、私の視点で描かれている筈なのに、キャンパスには両親と私が描かれているなんて、何と無くどこか引っ掛かるものがあります。
これが心の奥底の記憶だったとしても、笑顔の両親が見れたのは素直に嬉しく思います。
本日の収穫はありません、昨日は『魔桃』と『魔栗』の収穫日でしたが、吹き荒れる嵐によって傷んでしまいました。
食べられるでしょうが、売り物としては良くないので、全てゴーレムさんのエネルギー源とする事にしたのです。
そうそう、パッチさんが徹夜で新しいゴーレムを造ってきました。
岩の精霊人形さんと、石の精霊人形さんです。
身長3モートルもあって大きいですよ、その後ろにストーンゴーレムさんが2体ばかりヒョコヒョコと付いて歩いています。
私のゴーレムさんも造ってもらったので、これで岩人形2体、石人形4体の計6体のゴーレムさんが農作業に勤しむ様になりました。
一人でゴーレムさんを造ったのかを聞いてみたら、オウガデス様から作り方を教わったそうで、ドラゴンさんに会った日からパッチさんも魔法講義を受ける事にしたそうです。
そして僅か数日で精霊人形を作れるまでになったのですよ~。
あわわ、強力なライバルがすぐ傍に現れちゃいました。
『精霊人形使いパッチ』さん、これからも宜しくです。
久し振りな感じのする本日の魔法講習は神力可視訓練です。
実は神力はもうばっちり見えているのですよ。
昨日の軍事訓練を観戦してたら、なんとな~く神力が視えてきたのです。
ミュリエル師匠の戦いに重点を置いて着目していたのが功を奏したのかも知れません、師匠もべた褒めしてくれたし、今日はなんだか気分が良いです。
魔法講習が直ぐに終わったので、昨日の訓練の感想を聞いたり、ディアブロ様の事を惚気てもらったりして、ガールズトークしちゃいました。
あーあ、明日も楽しい一日になったら良いなぁ~。
卅八日目
本日の収穫は『踊る魔米』、『静かになった魔麦粉』です。
こちらの作物はまだ第二段階に進化せずで、パッチさんがまた悩んでいました。
最近は悩むパッチさんを見ると、何かをやってくれそうで期待感が膨らみます。
新生ゴーレムさんのお陰で農作業がはかどり、昼前には開墾作業も終えるほど作業効率が上昇しました。
そろそろ、新しい作物を育ててみた方が良いかな?
色々思案していると、ミュリエル師匠が軍服姿で農場まで訪ねてきてくれたのです。
いつもの可愛らしい服装では無くて、紺色の軍服は”ぽやん”とした雰囲気の師匠でも”きりり”とした印象に変えてしまうのです。
軍事訓練で軍服を着ていて格好良いなと思ったのですが、間近で見るとより格好良く見えました。
師匠の用件は、強制労働期間が終われば、私をシン帝国文官としてシン帝国へ迎え入れたいとの意向を伝えに参られたのです。
スカウトですよ、スカウト!
師匠に誘われたら嫌とは言えませんが、私なんて役に立つのでしょうか?
考えておいてという事で、返事はまだ先で良いそうです。
午後からは、師匠とディアブロ様に誘われて、遠方へとピクニックに出かけました。
ディアブロ様の愛馬グラヴァイトさんの背に乗せてもらって、訪れたのはシン帝国の東に位置する『蒼穹の丘』、綺麗な青空の下でミュリエル師匠の手作り弁当をいただきました。、
実は、今日が私の誕生日なんです。
誰にも言ってないので祝ってもらえるとは思っていなかったのですけど、何故か魔族の皆様は御存じでして、私に誕生日プレゼントを下さいました。
それは魔法の贈り物。
アイリ組合長からは雲ひとつない青空を、
エルザイム組合長からは緑豊かな草原を塗り替えるほどの花々を、
ミュリエル師匠からは小川から天へと繋がる虹の架け橋を、
そして景色は昼から夜へと一転し、オウガデス様からは漆黒の夜空に燦然と輝く星々を、
ライム組長からは白く照らす月光を、
ディアブロ様からは闇夜を斬り裂く赤い流星群を、
魔族の皆様より、心からの贈り物をいただきました。
そして星空の中を優雅に泳ぐ様に現れた白銀のドラゴン、その主であるロスマリヌス様がドラゴンの背に佇んでおられました。
紺の軍服に白銀の外套を纏った姿のロスマリヌス様、白銀髪紅黒眼、雪の様な肌、清楚で流麗な立ち居振る舞い、ドラゴンを使役し戦場を駆けるその姿から「竜戦姫」とも呼ばれています。
軍事訓練でその姿を拝見してから、すっかりファンになっちゃいました。
白銀竜の後を追うようにして現れたのは、以前に私やパッチさんを散々罵ったドラゴンさんでした。
プライドの高いドラゴンさんから、謝っていないんじゃないかな?って感じの謝罪を受けて、苦笑と共に以前の事は水に流すようにしました。
それからロスマリヌス様からお詫びとしてお馬さんを譲ってもらったのです。
なんだか素朴で可愛らしい栗毛のお馬さんです。
お馬さんの名前は人間では発音できないそうなので、私が自由に決めて良いそうです。
ドラゴンライダーさんから貰ったウマなので、ドラゴンウマ、略してドラマ!
名前は『ドラマ』に決めました。
よろしくね、ドラマ。
卅九日目
本日の収穫は『魔栗』と、進化した魔桃と、退化した魔柿です。
魔栗に大きな成長は見受けられませんでしたが、魔桃は驚くほど大きくて瑞々しい『驚き桃の木』に、魔柿は魔桃に栄養を奪われ小さく美味しくなくなった渋柿の『渋々柿』になりました。
そう、今日は成功と失敗を同時に味わったのです。
でも!これに懲りずに引き続き作物の改良を行いますよ・・・主にパッチさんが・・・。
午後はドラマに乗って魔曲を演奏しながら畑の周りを散歩しました。
今日はなんだか喉と演奏の調子が良くて、新しい曲のイメージが沸々と湧いてきちゃったのです。
当然ながら本日の魔法講義は、2曲目のククリ専用魔曲の作詞作曲です。
今度のも牧歌にしようと思っていますが、少し躍動感も出したいなぁ。
卌日目
なんと!パッチさんが白馬に乗って農場にやってきたのです。
パッチさんにもロスマリヌス様からのお詫びの贈り物が届けられた様で、お馬さんの目は青く、正確には白馬ではないそうです。
なにやらパッチさんは白馬が苦手らしく、受け取るかどうか悩んでたみたいですね。
白馬さんのお名前は『スカッタード』、スカちゃんですね。
よろしくね、スカちゃん。
本日の魔法講義も、2曲目のククリ専用魔曲の作詞作曲です。
・・・然したる苦労も無く2曲目が出来あがってしまいました。
ミュリエル師匠の編曲作業も直ぐに終わって、完成しちゃいました『魔法使いククリ』2つ目の魔法、その名も『精霊の贈り物』です。
シン帝国暮らしになってから、色んな方から貰ってばかりの生活だったので、何かお返しできないものかと考えて作りました。
私に農業は向いていないと思うけど、折角農業をしているのだから、美味しい物を作ってお返ししたいなって思ったのです。
この魔曲は、精霊さんの力を借りて魔力という栄養を作物に与える効果を発揮する様に作りました。
明日は上手くいくかどうかの実践です。




