ククリの日記~まだ見ぬ誰かに伝えたい事~『廿一日目~卅日目』
廿一日目
やりましたよ、やりました!
今回の品評会で、お褒めの言葉をいただきました。
ライム組長は魔卵の収穫数増加と魔麦、魔米の収穫時期を短縮させた事で褒められ、、アイリーン組合長からは品質も向上し、「作物から活力を感じる。」と、感想をいただき、エルザイム組合長からは「騒ぎたい時は米酒、しみじみしたい時は麦種、酒のつまみに魔卵を食しくなるほど上出来だ。」と、高評価をいただきました。
いずれの作物も評価されて、とっても嬉しくて、また明日も頑張ろうと、やる気が漲っております。
そして、気になる前回高評価だった組の作物ですが、レイヤー、フック組の『金の魔卵』には驚かされました。
純金ではなく、混ざり物がある金と鑑定されましたが、それでも皆の目を引くものでしたよ、味は普通と判定されてましたけど・・・。
アジコ、ショウター組は魔米と魔麦を調合させた魔米麦を出品しましたが、試みは買うが素材の良さが失われていると苦言を呈されていました。
そうそう、新たなライバルも現れましたよ。
キッキ、ラーラ組は果実を育てていて、星型のリンゴ『林檎星』、月型のバナナ『甘蕉月』が見た目も味も高く評価されていました。
アルバス、ミネルバン組は食事時に割れる時限式魔卵『朝魔卵』、『昼魔卵』、『夜魔卵』が、独創性があるとエルザイム組合長に評価されていました。
でも、アイリーン組合長は、朝昼晩と割れた分だけ食べるのでは魔卵の過剰接種にならないかと心配されておりました。
他の組も品種改良に力を入れている様ですね。
これは私達も、うかうかしていられません。
以前から気になっていた事をミュリエル師匠に相談しました。
ミュリエル師匠から魔法や農作業について教わる事は、他の組に比べて卑怯なくらい有利なのではないか?という事です。
「それは違いますよ。」と師匠は優しい微笑みを浮かべながら諭してくれたのです。
ライム組長は他の組にも目を配っており、苦労させながら時には手助けしたり、ライム組の正規組員(自由民)も援助、協力してくれているみたいです。
レイヤーさんにはライム組長が直々に指導しているし、他の魔族も強制労働者に助言や魔法道具を贈ったりしているので、気にしなくても良いそうです。
驚きは、パッチさんは誰の助言も援助も受けておらず、全て独学で農業を学んでいるそうです。
パッチさん担当のオウガデス様は、入国初日に「農業が楽しめなくなったなら私のところにお出で下さいませ♪」とパッチさんに伝えたけれど、頼ってくれそうな気配が全くしないと肩を落とし、寂しがっているそうです。
本日の魔法講義も、魔力を乗せた魔楽器の演奏です。
まだまだ奮闘中です。
廿二日目
朝食後に郵便物を受け取りました。
送り主は『D』ことディアブロ様です。
まだ、お会いした事はありませんが、ミュリエル様の想い人なのだから、きっと素敵な方なのでしょう。
贈り物はコンサートへの招待状でした。
公演は明日の夜、ペアチケットが二枚入ってました。
プロの演奏を聴いて勉強してこいというメッセージなのでしょうか!?
一向に上達しない楽器演奏スキルにミュリエル師匠が落胆されたのかも知れません。
そして、気落ちするミュリエル師匠を見て、ディアブロ様が気を使って下さったのですね。
これ以上、お二方に気をもませない様にククリは頑張りますよ、見ていてください。
そんな訳で、今日の農作業は練習も兼ねて作物達に魔曲という栄養を与え続けました。
となりでは、パッチさんがいつもの様に、何やら悩み続けていましたよ。
本日の魔法講義も、魔力を乗せた魔楽器の演奏です。
まだまだ悪戦苦闘中です。
ミュリエル師匠に招待状の話をしたら、ディアブロ様とパッチさんも誘って四人で行こうという事になりました。
ペアチケットが二枚ということは、ディアブロ様は最初からこの組み合わせを狙っていたのですね。
ふふ、その狙いに喜んで乗っかりますよ、二人の仲睦まじい姿を拝見させてもらいます。
廿三日目
今朝になって気付きました。
重要な事を失念していた事に。
そう、私はオシャレな服を持っていない!
男装生活が長かったせいもあるのかな?すっかりオシャレに対して無頓着になっていました。
このままでは、いつまでたっても一人前の女性には、なれそうにないです。
それに、服を買うお金も持っていません。
毎日の暮らしに不自由せず、お金なんていらないなって思ってたほど快適な生活を送っていました。
思い返してみると、シン帝国に来てからというもの、楽しい事ばかりあって、きっと沢山の幸福力を放出していたはずです。
ということは、私は見事に悪魔の術中にはまってしまっていたのですよ。
私は一念発起しました。何としても今夜のコンサートを聴きに行く為に、ドレスコードに引っかからない様な服装を身に纏わなければならなかったのですから。
そんな訳で、同じ境遇のパッチさんを誘って、「困っている私達を助けて下さい、このままでは神族が喜ぶ事になっちゃいますよ~。」と、ライム組長を脅迫する事にしました。
事情を理解してくれた組長はオウガデス様とパッチさんを誘って、一緒に市場へ衣料品を買いに行くことになったのです。
パッチさんの服は展示品をセット購入することで済みましたが、私の服がなかなか決まらず、5店舗巡ったところで、ようやく可愛い服を発見し、更に3店舗回ったところで、お洒落な靴を見つけ出したのです。
来週開かれるオウガデス様の寄席を見に行く事を条件に、服の代金はオウガデス様が出してくれました。
なんとか衣装を整え、コンサートに間にあいました。
本当に行けて良かったです。ディアブロ様は想像以上に格好良い方でしたよ。
黒髪黒眼、長身で逞しくて凛々しくて寡黙で、ちょっと怖そうでぶっきら棒なところもあるけど、ミュリエル師匠を見つめる眼差しはとっても優しくて羨ましかったです。
私も早くあんなに頼りがいのある素敵な彼氏が欲しいな~。
そうそう、肝心のコンサートですが、それはそれは素敵な演奏でしたよ。
前半は人間による普通の曲で、後半は大勢の魔族が混じり、魔曲を披露してくれました。
その時、私は魔力というものを初めて見る事が出来たのです。
指揮者のタクトが振るわれる度に、魔力の波がメロディに乗せて流れて行き、時に飛び跳ね、時に染み込み、目と耳だけでなく五感で音楽を楽しむ事ができました。
これまでは魔力をなんとなくで感じていたのですが、はっきりと認識できた事は私にとって大きな収穫となりました。
楽団の指揮を執っておられたのは、シン帝国武官にして、副業は音楽も嗜むバーテンダーのヤヌス様です。
ヤヌス様はディアブロ様のお友達で、コンサート後にヤヌス様の営む酒場にお邪魔し、お酒とジュースで乾杯してきました。
濃蒼髪蒼眼、細身の長身で黒縁の眼鏡をかけておられます。
ヤヌス様にどうすれば上手に楽器を弾けるのかを尋ねたら、「演奏の腕を磨く事も大事、感性を磨く事も大切、俺の店でバイトしてくれるなら両方を教えてあげるよ、グラスを磨くことにもなるけどね。」と誘われました。
心惹かれる誘いではありましたが、強制労働期間中のバイトは禁止になっているので、残念ながら断る事になりました。
よくよく考えてみれば、未成年が酒場のバイトなんて、道徳的に良くない事はヤヌス様も分かっておられるでしょうから、あれは冗談だったのでしょうね。
それとも魔族の道徳観は人間とは違うのでしょうか?
本日の魔法講義はお休み、音楽鑑賞が講義の代わりだそうです。
廿四日目
今日から新しい作物を育てる事にしました。
何を育てるのか悩みましたが、パッチさんと相談した結果、【魔桃】、【魔栗】、【魔柿】に決めました。
魔桃と魔栗の収穫は3日後、魔柿は8日後になる予定です。
本日の収穫、『踊る魔米』、『静かになった魔麦粉』。
パッチさんの成果、栄養吸収促進剤を開発されました。ゴーレムに与える事で、魔力の吸収力を高める効果がある薬だそうです。
この薬がうまく効果を発揮すれば、ゴーレムの活動可能時間が増えるそうです。
本日の魔法講義は、魔力を乗せた魔楽器の演奏です。
魔力が見える様になった私にとって、曲に魔力を乗せるのは造作もない事です。
もちろん演奏技術とは別のお話なので、まだまだ練習不足の感は否めません。
でもでも、ミュリエル師匠は随分と上達したと褒めて下さいました。
なんだか楽士の道を選ぶのも悪くないなって思えてきましたよ。
廿五日目
魔力が見えはじめると他の物まで見えてきたのです。
本日見てしまったのは妖精さんです。
時折見えたり消えたりで、ハッキリと見える訳ではありませんが、楽しそうに飛んだり、歌を唄っているかの様にも見えるし、踊っている様にも見える、そんな動作をしていました。
そしてゴーレムから妖精の様な気配を感じ取りました。
ミュリエル師匠が仰るには「それはゴーレムが精霊の力を借りて作られた物だからですよ。」だそうです。
という事は、私は霊も見れるようになったのではないですか!?
あまり、怖いものは見たくないのですが・・・。
本日の魔法講義は、魔力を乗せた魔楽器の演奏と、精霊についてです。
自分でも演奏がなかなか様になってきたなと思える程度に上手くなりましたよ。
それと、妖精や精霊の話を少々、ミュリエル師匠は水の精霊を、ディアブロ様は炎の精霊を使役でき、ライム組長やオウガデス様も精霊の力を使役できるそうです。
他には、魔法の系統には精霊の力を借りた精霊魔法というのがあるのだと教わりました。
もしかすると私も精霊魔法が使えるようになるかもしれません、明日は妖精さんとのコミュニケーションを図りたいと思います。
廿六日目
ライム組長とオウガデス様の仲良しコンビと会う機会があったので、お二方の使役する精霊に付いて聞いてみました。
組長の使役する精霊には名前があって、月と竹の精霊姫『カグヤ』、なんと、会話もできる高位精霊なのだそうです。
オウガデス様は、沢山の精霊や魔獣を使役する事ができるそうです。「近々お見せする事があるでしょうから楽しみにしていて下さい♪」と仰られていました。
6の付く日はプレゼントの日、今回の魔法市場からの無料配付物はシュアリー裁縫店提供の『針通しの糸』でした。
これは百発百中で針に糸を通せる魔法の糸です。・・・ありがたく使わせて頂きます。
本日の魔法講義も、魔力を乗せた魔楽器の演奏と、精霊についてです。
上手にとは言えませんが、たった一曲だけですが失敗せずに魔力を乗せた演奏をする事が出来ました。
ミュリエル師匠曰く、ここからが魔楽の本番だそうです。
明日から魔力を乗せた曲から、魔力を込めた曲に挑戦する事になりました。
精霊魔法を使うには精霊の力を借りなければならず、私の様な初心者は精霊と契約する事から始めなくてはならないのです。
自分と相性の良い精霊と仲良くなって、力を貸して下さいとお願いし、快諾してくれれば晴れて契約成立、契約した精霊の属性魔法が使える様になるのです。
でも、精霊は気まぐれなので、契約したからといって必ず力を貸してくれる訳ではなく、都度、精霊の承諾を得なければなりません。
私と相性がいい精霊ってどこにいるのかしら?
廿七日目
本日の収穫は、魔桃と魔栗、『幸福の卵』でした。
早速、収穫物の一部をゴーレムさんに与えました。
悪農組の先輩から幸福の卵と交換で、農業関連の秘伝書をいただきました。
招福系の農作物は珍しいらしく、高値で取引されているそうです。
ですが、幸福の卵は招福系では希少価値は低いみたいですね、まだまだ改良の余地ありです。
魔桃と魔栗はまずまずの量と質でしたが、今回の収穫物に目立った変化は無かったので、明日の品評会では、そこそこの評価しか貰えないと思います。
本日の魔法講義は、ククリ専用魔曲の作曲です。
作曲だけでなく作詞もします。何故なら今の私のレベルでは魔曲のみよりも、魔歌を合わせた方が効果が高いからです。
魔曲の作り方の基礎講義を受けて本日は終了です。
作物の成長促進と品種改良が目的なので、牧歌を作曲してみたいな。
廿八日目
本日の品評会では意外なところを評価していただきました。
評価されたのは品質及び収穫量の持続です。
他の組では神害虫に畑を荒らされたり、品種改良に失敗して作物を駄目にしたり、ゴーレムへの指示をおざなりにして品質を下げるなどの問題が発生していたようです。
幸いにも、私の相方であるパッチさんが、害虫対策に益虫を用意し、綿密な品種改良計画の立案と実行、日々のゴーレムのメンテナンスを欠かさずやってくれていたので、何の問題もなく作物を品評会に提出する事ができました。
ありがとうパッチさん、私だけだったらもう畑が滅茶苦茶になっていた事でしょう。
今日は農業を続ける事の厳しさを教わりました。
本日の魔法講義も魔曲の作詞作曲です。
作詞からか、作曲からするのか迷いましたが、作詞から始める事にしました。
魔曲作りでは曲から作るのが一般的なのですが、その方が私には合っているかな~と思うのです。
そして夜も更けた頃、ミュリエル師匠の助言も頂きながら試行錯誤の上、なんとか歌詞だけ出来あがりました。
あ~、早く歌ってみたいな~。みんな聴いてくれるかな~。
廿九日目
不思議な夢を見ました。
空を飛ぶ夢や、素敵なドレスを着てお城で踊る様な夢は良く見るんですけど・・・。
昨夜見た夢は私が魔曲を演奏している夢です。
しかも前日作詞した曲だったのですよ。
完成していない曲を私は弾き慣れた様に演奏していました。
もしかして夢の中で作曲していたのかしら?私って作曲の天才?それとも予知夢なの?
どうしても気になったので、その事をミュリエル師匠に話してみたら、直ぐに夢の中の曲を譜面に書く様にと指示を受けたのです。
本日の農作業はパッチさんに任せ、一日がかりで譜面に起こす作業をやってました。
起こすだけだと、さして苦労は無かったのですが、その後の魔曲としての編曲作業が大変だったのですよ。
まあ、苦労されたのはミュリエル師匠なんですけどね。
私はミュリエル師匠の編曲作業を横から見てただけです。
結局、ディアブロ様がお迎えに来るまで食事も取らず懸命に作業を続けて下さいました。
師匠、有り難う御座いましたー!!
卅日目
眠い眼で朝を迎えました。
師匠に徹夜させてしまい、申し訳なく思います。
本日の採取品は魔桃と魔栗です。
魔桃と魔栗の品種改良も試みてはいますが、未だに大きな成果は出せていません。
ですが、品質収穫量ともに順調と言えば順調です。
主にパッチさんのお陰ですけどね・・・。
さて、魔曲の方なんですが、なんとミュリエル師匠が、お住まいでも編曲作業をしてくださっていたらしく、完成した楽譜を持ってきてくれたのです。
本日の魔法講義は、もちろんオリジナル魔曲の演奏です。
皆様驚くなかれ、あんなに苦労していた魔楽器の演奏でしたが、なんと!私はこの魔曲を短時間で完璧に弾く事が出来たのですよ。
まるで、昔から慣れ親しんで弾いていたかのように軽やかに、指が、腕が、体が、意識せずとも自然に動いて、魔力を誘いながら演奏しました。
師匠も感動してくれて、最後は二重奏で締めくくりました。
もう寝不足なんてなんのそのですよ、まだ演奏の余韻が残っていて眠れそうにありません。
明日もきっと寝不足です。




