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ククリの日記~まだ見ぬ誰かに伝えたい事~『初日~十日目』

入国初日

 書きたい事は沢山あるのですが、色々ありすぎて書けませんでした。

 でも、明日からは頑張ります。


二日目

 はい、私の名前はククリ、ザザーラント王国軍悪魔討伐隊に所属していました元軍人です。

 色々事情があって男の振りをしていましたが、シン帝国に来た事で男装する必要がなくなり、今ではすっかり女の子です。

 同期の男子は驚いていましたが、大半の先輩方は知っておられた様です、うまく騙せてると思っていたのにな~。

 そうそう、来月で15歳になります、お化粧もしたいし、はやく女の子から一人前の女性へとクラスチェンジ出来たらいいなって思っています。


 強制労働者として農業を始める事になりました。

 私はライムさんが組長の悪徳農業組、略して『悪農組』に配属されたのです。

 なぜ名前に悪が付くのかと聞いたら「俺たちは悪だから」と仰っていました、詳しいことは直にわかるそうです。

 シン帝国には悪農組の他に、魔族のアイリーンさんが組合長の真心農業組合、略して『真農組』、赤鼻族(ドワーフ)のエルザイムさんが組合長の酒肴農業組合、略して『酒農組』の3つの農業組合があります。(正確には悪農組は組合ではないそうです。)

 それぞれに方針があり、悪農組では【薄利多売】、諸外国で闇市を開き、タダ同然の値段で売りさばいているそうです。

 真農組は【親切丁寧】をモットーに、正規のルート、適正価格で農作物を販売しているけど、悪農組に比べ売り上げは芳しくないそうです。

 酒農組では【旨味重視】、酒に合う食材を日夜研究している酒好きの集団で、コスト度外視の味勝負で作られており、高額で取引されていますが、売れ行きは非常に悪く、一部の愛好家により、なんとか商売になっているといった感じだそうです。

 悪農組は大陸市場では売上一位ですが、帝国市場では最下位になっています。

 私は農業初心者ですが、帝国市場でも一位になれるように微力ながら手伝わせて頂きます。


三日目

 今日から本格的に農作業を始める事になりました。

 クワを持って畑を耕すのだと思っていましたが、なんと私は命令するだけなのです、力仕事は全てゴーレムさんが行ってくれるのですよ。

 ゴーレムは主人の命令に従いますが、ちゃんと命令しないと畑が滅茶苦茶になってしまいます。

 今日はそれを嫌というほど学びました。

 ライム組長は農作業の簡単な説明をするだけして後は私達の失敗する姿を笑ってみてました。

 悪農組では品質よりも収穫数の方に評価の重点が置かれているそうです。

 二人一組、二十の組で月毎に収穫数を競い、より多く作物を収穫した組にはご褒美が出ると聞きました。

 私の相方は、あのレイヤーさんの友人であるパッチさんです、いつも悩んでばかりいますが、ゴーレムの扱いは上手でした。

 明日、少しだけコツを聞いてみるつもりです。


四日目

 今朝パッチさんから手書きのゴーレム操縦マニュアルや、農作業手順書、農作業工程計画書をいただきました。

 昨晩は徹夜して私の為に書いてくれた様ですが、字が複雑怪奇過ぎて読めませんでした。

 結局は説明してもらいながらの畑仕事となりました。

 パッチさんは会話は得意ではなさそうですが、何かを説明する時だけは饒舌になるようです。

 相変わらず悩み続けていますが、頼りになるのは確かです。

 先程までパッチさんに手書きの書類を音読してもらい、私はそれを清書していました。

 読める様にはなりましたが、内容を理解するのはまだ先の事になりそうです。


五日目

 作物の成長が早い事に驚きました。

 現在、畑で育てているのは【魔麦】、【魔米】、【魔卵】の3種です。

 どれもライム組長の悪友、シン帝国武官兼ゼルタリス要塞司令官にして噺家、趣味で錬金術師もしているオウガデス様が開発された農作物なのだそうです。

 作物を食べて幸福力を生み出す人間、魔族は人間から幸福力を受け取り魔力を生み出す、その魔力で動く精霊人形や魔力を吸収して育つ作物、この関連性を食物連鎖と呼ぶそうです、今日も勉強になりました。


 そうそう、私達強制労働者は宿舎暮らしをしています。そして3ヶ月の強制労働期間が終われば、各自、持ち家をいただける事になっています。

 シン帝国では人間は奴隷として飼われ、自由は一切無いと聞かされていたのですが、噂とは違って実際には快適な生活が送れていますよ。

 宿舎暮らしでも困る事はあまりありません、一人で住むには少し広いくらいの個室です。

 家事全般はガーゴイルさんがやってくれてます。

 普段は彫像に擬態していますが、毎日決まった時間に動き出し、朝、昼、夜の食事を用意してくれたり、掃除洗濯までこなしてくれます。

 ただ、話しかけても「ギギッ」や「ガガッ」としか言ってくれません。

 まあ、ゴーレムさんは終始無言ですけどね。


六日目

 魔鶏樹(まけいじゅ)が産卵期に入りました。

 早朝から魔卵を産みまくっています。

 1本の魔鶏樹から採れる1日分の魔卵は666個、私の畑には魔鶏樹が6本、合計3996個の魔卵が採れます。

 箱詰めするのだけでも大変なのに、明日の品評会に出す良質の魔卵を選ぶのには、かなり苦労しました。

 良い魔卵は回転させるとよく回るそうなので、3996個全てを回しまくりました。

 その結果、良い魔卵を30個を仕分け、約300個くらい台から落として割っちゃいました。

(割れた魔卵はゴーレム(すたっふ)が美味しく栄養として吸収しました。)

 言い訳ですが、魔卵の殻は肥料として使えるそうなので決して食材を無駄にはしておりません・・・たぶん。


 ちなみに、6の付く日は悪魔の日と呼ばれ、各家庭に魔法市場の商品が無料で配られます。

 今回は黒色魔法道具専門店のサンダリオン支店から提供された『魔法の絨毯』をいただきました。

 効果は『少しだけ浮くが移動はできない』でした。

 ただの絨毯で良いのでは?と思いましたが、ライム組長は「魔族にとっては、つまらない事でも人間は笑ってくれるし、便利すぎる物は人間を堕落させるからな。」と仰っていました。

 堕落した者の幸福感では大した力にはならないそうです。


七日目

 本日は収穫した作物の品評会です。

 私達パッチ、ククリ組は成長の早い魔卵を提出する事が出来ましたが、収穫物が無く、辞退した組もいくつかあったみたいです。

 審査員はライム組長、アイリーン組合長、エルザイム組合長、そして内務大臣のドリー様が特別審査員としてお越し下さいました。

 皆さんの評価は『初めてにしては上出来だが、更に研鑚を積む様に創意工夫せよ。』でした。

 苦言を呈される組もあれば、私達と同じ様な評価の組もありました。

 収穫数重視の悪農組以外は、ちゃんと品質面もしっかりと評価の対象としていて、昨日ちゃんと品質の良い魔卵を選別しておいて助かりました。

 今回は何とか及第点をもらいましたが、まだまだ、横一線って感じがします。

 来週こそは褒めてもらいたいな。


八日目

 シン帝国の仮国民になってから早くも一週間が経ちました。

 まだまだ仮が付く身ですけど、3ヶ月の強制労働期間が過ぎれば、晴れて帝国国民になれるのですよ。

 強制労働期間中は農業一択ですが、正式に国民となれれば職業選択が出来るのです。

 内務大臣のドリー様に、自分のなりたい職業を幾つか書いて送り、希望が通れば帝国から援助が受けられます。

 例えば、パン屋さんの許可が出たとすると、お店を建ててくれて、パン工房も造ってくれて、しかもパン焼き機等の機材までいただけるのです。

 建設候補地や、食材の仕入先を紹介してくれるし、パン焼きの指導までしてくれるという、至れり尽くせりの援助なのですよ。

 でも、何でも自分でやろうとすると許可を得るのに苦労するそうです。

 この場所でパン屋さんを開きた~い、と言っても許可してくれなかったり、パン焼きの技術が無いと販売の許可が下りなかったり、自分の畑で収穫した食材でも許可が無いと使用してはいけないのです。

 内務大臣のドリーさんって結構、頭の固い人なのかも知れませんね。


 でも支援してくれるのはとってもありがた~い事なので、私はその日を楽しみにしているのであります。


九日目

 魔麦と魔米の収穫を行いました。

 農業に関して、まだまだ未熟な私達ですが、収穫された者は全て国民に無料で分配されるそうです。

 悪農組の国内売り上げが低い理由が判りました。食材のほとんどを無料で配っているからです。

 これじゃあ薄利多売どころか、無利多配ですよ。

 魔族のする事は、どれも人間に喜んでもらう為でしょうから、魔族にとっては自分達が儲けて喜ぶなんて概念は無いのでしょうね。


 ああ、心配です。無料とは言え私達の作った食材は美味しくないかも知れません、顔も知らぬシン帝国の皆様、後は皆様の料理の腕に委ねます、どうか、上手く調理してやって下さいませ。

 


 ゴーレムの操作方法について

 パッチさんが指示するゴーレムは、複雑な作業もこなしてくれますが、私だと単純作業しかしてくれません。

 以前の様な失敗は減りましたが、こうも実力の差を見せつけられると、なんだか悔しさが込み上げてきます。

 ライム組長は「自分なりのやり方でやってみろ」としか言ってくれないし、ちゃんと操縦マニュアル通りにやってるつもりなんですけどね。


 夕食後、パッチさんからノートを渡されました。

 先輩達から作物の育て方を教わり、品種改良に挑戦するそうです。

 でも、ノートに色々な品質改良の案を書いているのでしょうが、相変わらず読めません。

 明日は清書作業に勤しみたいと思います。


十日目

 ライム組長から害虫予防の講義を受けました。

 シン帝国の作物は並の害虫など寄せ付けないそうですが、神界から送られてくる害虫、『神害虫(しんがいちゅう)』の対策を講ずる必要があるそうです。

 神害虫撃退方法として、神害虫害虫を畑に住まわせる。つまり益虫を畑にばらまくのです。

 ちなみに、神害虫の神力を食べる魔益虫は、シン帝国武官にして魔人(魔族と東方人族の混血)である星十朗様の昆虫ショップで売られています。


 魔族について

 魔族は人間、耳長族、赤鼻族、小人族など、様々な種族との交配が可能なのだそうです。

 それは人間も同じ事で、混血児は総じて長寿命になり、特に魔族や耳長族の混血児は成人すると不老にもなるそうです。

 不老不死ではなく、不老長寿です。長くて千年を越え、短くても百年は生きられるそうですよ。

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