別ち会い、幸せは皆と共に、分かち合い
魔導門ひとつくぐれば、そこはシン帝国だった。
付いてきちゃいましたレイヤーに。
結局、シン帝国行きを決めたのは100人にも満たない数だ、それでも魔族の二人は喜んでいた。
フックは悩みすぎた様で、知恵熱出して倒れちゃった。
一応、一緒に連れてくる事に決め、担架で運んで寝かせてる。
「それでは皆様、先に雷帝城でお待ちしております♪」
各自、帝都サンダリオンを散策しながら夕方頃に雷帝城へ来てくれと言い残し、フックを精霊人形に担がせ、ライムとオウガデスは霧の中へと消えて行った。
僕達を説得しにきたザクセン様とも仕事に戻るからと途中で別れる事になる。
着いてすぐの印象だけど、魔水晶で見せてもらったのと同じ帝都サンダリオンの街並み、活気は感じるけど、どこか長閑で風情を感じる。
僕達は雷帝城へ向かいながら、ぞろぞろと街中を練り歩く、途中、露天商の一人に声を掛けられた。
「キョロキョロしながら歩いてる団体さんとくれば、新入りだね、お前達も悪魔にまんまと諭されてシン帝国に来たって訳だ。」
そりゃ初めて来たんだからキョロキョロしちゃうよ、・・お前もって、・・おじさんも誘われたんだ・・この国で生まれた人間っているのかな?
「ようこそ、厳しくも過保護な国、シン帝国へ、これは幸せのお裾わけだ、お前達にも幸あれ。」
店主が放ってきた果物を慌てて受け取る。
すると、他の露店からも次々に食べ物が投げられてきた。
これがこの国の歓迎の挨拶なのかな?他人から幸せになれよと励まされたのは初めてだ。
もらった果物をかじりながら歩いていると足元から声を掛けられる。
「やあやあ、お二人さん、ご機嫌いかがかな、今からあの小屋で人形劇が始まるぞ、初めて来たんなら是非見て行ってくれよ。」
眼鏡を掛けた小人族のおじさんが、少しからかう様ないたずら顔で人形劇小屋へと誘う。
僕とレイヤーは興味本位で覗いてみる事にした、すると見た事がある・・・いや、経験した事がある人形劇が始まったんだ。
沢山の兵隊が森の中を突き進み、障害を乗り越え悪戦苦闘する演劇だ。
「これって僕達の事だよね。」
「もしかして、あれって俺か?」
主役は勇者レイヤー、味方がピンチの際には奮闘し、精霊人形をバッタバッタと薙ぎ倒し、遂には悪の魔王ライムを打ち倒す、そしてハッピーエンドを迎えて劇は幕を閉じた。
実際はライムをやっつけたのではなく、ライムに手助けしてもらったんだけど、何故か魔王ライムが倒されると観客は拍手喝采を送っていた。
再び幕が開くと、先程声を掛けてきた小人族のおじさんが舞台に上がり、帽子を取り、頭を下げ、観客に挨拶をする。
「皆様、ようこそお集まり下さいました。当劇団の最新作『勇者レイヤーが魔王ライムをフルボッコ』はお楽しみいただけましたでしょうか?」
おじさんのご機嫌伺いに、観客は両手を上げ、おーーーっと声高に歓声を上げ応えた。
おじさんは笑顔を浮かべながら口元に人差し指を当て静寂を求める。
場内が静まり始めると、おじさんは身振り手振りを加えながら語りだす
「なんと、本日は、あの悪の魔王ライムをボッコボコにした勇者がお越しになっております!皆様、勇者レイヤーに盛大な拍手をどうぞ。」
舞台からの照明がレイヤーを照らす、そして周りの観客が拍手をしながら立ち上がりレイヤーを称える。
「ど、どうも・・・。」
引きつった笑顔で観客に手を振るレイヤー、いわれのない称賛に気恥ずかしいのか、珍しく顔を赤くしていた。
ひとしきり盛り上がったところで、舞台上のおじさんが締めの挨拶をする。
「勇者と魔王の邂逅も巡り合わせなら、勇者と我々との出会いもまた巡り合わせ、また此処で皆様と劇団が巡り合えます事を願い、本日はこれにて閉幕~。」
舞台の幕が下り、満足した観客はレイヤーと握手を交わして劇場を後にしていく。
「ああ、そう、俺達の活躍の一部始終が見られてたって事ね。」
おそらく魔水晶で見ていたのだろう、僕達の訪れを考慮して呼び込み上演するなんて商売上手だなと感心させられた。
いそいそと舞台袖から小人族のおじさんが上機嫌で僕達に近づいてくる。
「いやいやいや、どうもありがとうございました。御蔭様で大儲けですよ、これも勇者さまさまですな、わははははっ♪」
「かなり事実と違うけどいいのか?」
「構いませんよ、客受けする脚色は大いに結構ですとも。」
「この国ではライムって嫌われてるんだね。」
すると、おじさんは首を大きく横に振る。
「いえいえ、とんでもない、ライムは嫌われ者ではありませんよ、むしろ好かれております。」
でも、ライムがやっつけられる場面は、もの凄く盛り上がっていたけど・・・おかしな国だな。
「おっと、申し遅れました。私の名はギルビット、シン帝国文官にして『巡る人形劇団』の団長を務めさせてもらっています。これでもコロポ族と魔族の混血種族なのですよ。」
巡る人形劇ってそういう事だったのか、・・・楽しんでする戦争なんて聞いた事なかったけど、実際あるんだから面白いと思う。
ギルビットは青い紳士服に赤い蝶ネクタイ、青い帽子に赤い眼鏡を掛けた小人族、帽子を取ると頭頂部に小さな角が見えた。茶髪茶眼で背丈は1モルトル位かな。
「そうそう、これはモデル料です、遠慮なく受け取っておくれ。」
僕とレイヤーにギルビットから3枚ずつ金貨が手渡される。
貨幣価値が判らないので喜ぶべきかも分からないが、拒否する理由もないのでありがたく頂戴した。
小屋を出ると夕焼け空に変わりつつあったので、僕達は雷帝城へと向かう事にした。
まだまだ不安でいっぱいだけど、楽しさも感じられて少しは安心出来たと思う。
妹よ、お兄ちゃんはこの国をもっと知りたくなりました。




