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説得は朝食の後に

 静かなる魔族との朝食、食事前は魔族の二人が積極的に話しかけてきて、こちらはそれに応える感じだったけど、精霊人形が運んできた料理がテーブルに並ぶと、頂きますの合図とともに、皆、黙々、ガツガツと食べ始める。


 昨日食べた料理の美味しさが思い出され、皆、今日の朝食に期待していたんだ。


 ザザールーク王国では貴重とされる白米に、森の中にも係わらず焼き魚があり、薬味の乗った白く四角いゼリーの様なもの、昨晩の透明なスープとは違う茶色く濁った濃厚な香りのスープ、ザザールーク王国でも一般的な卵焼き、どれもこれも美味しい。


 そして、特に驚きなのが流動性の高い黒い液体の調味料だ。

 これを焼き魚、ゼリー、卵焼きに掛けて食べると、驚くほど口の中いっぱいに旨味が広がった。

 みんな口々に、これは魔法のソースだと感嘆の声を上げる。


 どれも豪勢な料理ではないけど、ジワリジワリと体に活力が染み込んでくる様な、そんな朝食だった。


 魔族との朝食を終えた丁度その時、紙製の扉がスライドし、銀髪銀髭で浅黒く日焼けした筋骨隆々の巨漢が入って来た。

「ライム殿、オウガデス殿、お呼びにより、このザクセンまかり越しました。」

 見計らったのか良いタイミングでザクセン元将軍が訪れ、魔族の二人と挨拶を交わす。

「毎度毎度悪いな、ザクセン、今回も説得しきれなかった。」

「ザクセン様、ようこそ御出で下さいました♪わざわざのお越し、感謝いたします♪」


 僕達はポカンと口をあけながら三人のやり取りを見ていた。

 オウガデスとライムは誰が相手でも同じ口調なんだろうと思うけど、あのザクセン元将軍が魔族に対し、敬意を持って接している事には驚いた。


「ザザールークの忠義ある兵士たちよ、わしの話を少しばかり聞いてくれい。」

 ザクセン様の大声がビリビリと鼓膜を振るわせる。


「お主たちが悪魔と恐れる者どもの正体を知ったところで、到底信じきれるものではあるまい、シン帝国側に寝返ったわしの言葉とて同じ事だろう。」

 確かに、信じたくない者から見ると、ザクセン様は悪魔に洗脳されているとか、裏切り者の言う事は聞かないとか思うよなあ。


「信じずとも聞いてもらう、わしは神と悪魔の両方を見た、神にも心ある神もいれば邪な神もいる、悪魔もまた然り、良い魔もいれば正に悪い魔もおった。」

 神話では、神を裏切った神は邪神、悪魔に心を奪われた者は魔神と語られているけど、良い悪魔の話は聞いた事が無い。


 でも、実際に見た悪魔の二人、正確には魔族一人に耳長族一人だけど、とても悪い悪魔には見えない、けれども狡猾な悪魔に騙されているとも限らない。


「悪魔はわしに真実を教えてくれ、神は真実を知るわしを殺そうとした。」

 眼を閉じ腕を組み、当時を思い出しながら僕達に語ってくれる。


「神罰の名のもとにわしを殺そうとする神から人間は守ってはくれんかった、それどころか背信者として捕らわれ殺されかけた、・・・わしは人間であるのに同じ人間を信じられん様になった。」


 ザクセン様が語る内容は、魔族から聞いた話もあるけど、初めて聞く話もあった。


「神の刺客からわしを救ってくれたのは悪魔だった。そして、お主らと同じ様に勧誘されたんじゃ。」

 重々しい口調から軽妙な口調に変わる。

「人間の国で暮らすか悪魔の国で暮らすかの選択で、わしは迷わず悪魔側に属する事を選んだ。」

 ぐっと拳を握り、突き出す。

「その選択は間違っておらんかった。わしは幸せ者じゃ。」


 ザクセン様の話を聞いて、傍にいるオウガデスは微笑み、ライムは気恥ずかしそうに鼻をこすっている。


「よって、お主らは自らの幸せを考えて選んでもらいたい、ザザールーク王国に戻るか、シン帝国に来るかを・・・。」

 選択肢の中に、シン帝国の水が合わなければ故郷に帰るも良しであると、付け加えた。


 勢いよくレイヤーが挙手し、発言許可を得る前に疑問を口にする。

「おっさ、・・じゃなくて、ザクセン様には事情があったから分かるけど、なんでシン帝国は人間の国民を集めてるんだ、・・じゃなくて、ですか?」

 銀色の無精髭を撫でながら質問に答えてくれる。


「色々と理由はあるが、来たる日に備えてじゃな、別世界から来た魔族は、いずれは元の世界に戻るつもりらしい、この世界に魔族がいなくなったとしても、人間には幸せでいてもらいたいから国民を集めておるのじゃ。」


 うんうんと頷き、ライムは話を付け加える。

「もしかすると神まで居なくなる可能性もあるからな、人間は神も悪魔も居ない世界で生きるのは難しいんだよ。」

 ライム曰く、人族は賢しいが故に依存しやすい種族なんだそうだ。


「最後に言っておく、王国に戻る者には忘却の呪文が掛けられ、ここで見聞きした事は忘れてもらうが他に危害を加えるつもりはない、恨みもしない、またここに来れば再度説得させてもらうがな。」

 言い終えるとザクセン様はチラリと魔族の二人に目配せをする。


「約束しよう、来る者は歓迎し、去る者を追いはしない。」

「約束します♪」

 言質を取ったとばかりにザクセン様は白い歯を見せ笑った。


「神は人間に誓わせるだけで約束などしないが、悪魔は人間と約束をする、善くも悪くも悪魔との契約は絶対じゃ、さあ、心して決めるがよい。」

 ザクセン様はパシッと手を一つ叩き、豪快にガハハと笑う。


「自分では決められぬか?魔族は強制を嫌うが、わしは強引が大好きじゃ、決めかねている者は首根っこ押えて連れていくぞい。」

 ええ!?連れてかれるの?・・ど、どうしよう。


 僕がおろおろとしている隣で、わくわくしている者がいた。

「よし、決めた、俺はシン帝国に行く。」

 ちょっ、ちょっと、レイヤー、決断が速すぎるよ~。

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