結論は先延ばしに
湯浴みを満喫した後、用意されていた軽装に着替え大部屋で待っていたフック達と合流し、魔族達から聞いた話を皆に伝えた。
反対する者が出てくるのは大方予想出来ていた、待機組に伝え終えると、魔族の話は嘘だと言い張るセルザス教の信者派と、半信半疑だが魔族の話をもっと聞きたいと思う僕達とで言い争いが始まる。
互いの主張を譲らぬまま議論が続き徐々に険悪な雰囲気になってきていた。
そんな時、様子を窺いに来たライムが見かねて仲裁に入ってくれた。
「見せりゃあ良いんだろ、これまで俺達が招き入れたザザールーク国民がどう暮らしているのか、それを見た上で来るか来ないか判断すれば良い。」
ライムがオウガデスに合図すると、待ってましたとばかりに懐から水晶球を取り出し、僕達の前に差し出す。
「これは遠くを映し見れる魔水晶です♪主にザザールーク出身の方々をお見せしますね♪」
最初に見えたのはシン帝国を真上から見た様な映像で、そこから立派な城や賑やかな街並みを次々と映し出す。
「ここが帝都サンダリオンです♪ここでは様々な種族の皆様が居住されています♪」
確かに多くの人間に混じって人間以外の種族も見て取れる。
耳長族、赤鼻族、小人族、龍人族等々、おとぎ話に出てくる種族が目白押しだ。
「帝都で暮らしているのは八割方人間だな、主に亜人種は、それぞれの種族が統治する町で暮らしている。」
町は活気に満ち溢れて、多くの人々が陽気な感じに見えた。
「見た限りだと奴隷の様には扱っていないみたいだな。」
「町で暮らしている人間は自由民だな、3ヶ月の強制労働を終えた者たちだ。」
「強制労働?」
「ええ、シン帝国国民となっていただいても、3ヶ月間は職業選択の自由は御座いません、全ての皆様には農作業をしていただきます♪」
「まあ、詳しい話は後にして、強制労働させられている者を見てくれよ。」
オウガデスがサッと魔水晶を撫でると、広大な畑で精霊人形と共に働く人々の姿が映し出された。
皆汗だくで一生懸命に畑仕事をしているが、強制労働させられている様には見えず、仲間達と共に和気藹々とした雰囲気で働いている印象だった。
「どの辺りが強制労働なんだ?」
「老若男女に係わらず、最初の職業は強制的に農民になるんだ。」
シン帝国の国民になったところで、当然ながら金も家も食う物も無い者ばかり、そこで衣食住を保障する代わりに3ヶ月間の強制農業労働をする事になるそうだ。
「3ヶ月後には持ち家と生活資金に加え、次の職業への斡旋と、支援金が支給されることになっている。」
移民を積極的に受け入れようとするには、それ相当の支援体制が整っていないと出来ない事なんだなぁ。
「それに、呼びたい家族がいれば連れてくる事も出来るぞ、もちろん家族の同意が必要だけどな。」
3ヶ月後に故郷に帰るか、シン帝国国民となるか選択し、シン帝国に住む場合は密かに家族の元を訪れ、説得出来たなら家族ともどもシン帝国国民となるそうだ。
戦争に参加し、捕らわれた兵士の家族が行方不明になるのは悪魔の仕業と言われていたけど、あながち間違いではなかったんだ。
その後、人間のシン帝国での暮らしを見せてもらったけど、亜人種と共に暮らしている以外は僕達の国での生活とあまり変わらなく見えた。
いや、生活レベルや活気を見る限り、シン帝国の方が豊かだと思える。
だけど、セルザス教信者の数名は、魔水晶の映像を見ても、それは幻覚だと否定している。
「まあ、魔水晶を見せられたところで信用するのは難しいだろうな、分った、ザザールーク出身のザクセンっておっさんを呼ぶ事にするから明日会ってみてくれ。」
「ザクセンって、あのザクセン将軍の事か?」
年配の兵士達からどよめきが起きた。
それもそのはずで、鬼将軍ザクセンの名はザザールーク国民なら誰でも知っているくらい有名な人物である。
60歳を越えても筋骨隆々、騎馬に跨り振るう槍捌きは、ザザールーク国の守護者たるに相応しいと言われるほど冴えわたっていたらしい。
たしか、シン帝国侵攻作戦で軍の指揮と執ったが、3度目の攻略失敗で責任を取り、引退して今では田舎暮らしをしているって聞いてたけど違ったのかな?
「あのおっさん重宝するんだよな、見た目は厳ついが、ザザールーク人を説得するにはザクセンに任せろって格言があるくらいだからな、今回も頼る事になっちまった。」
泣く子も黙る威厳を持ったザクセン様をおっさん呼ばわりって、耳長族って恐いもの知らずなのかな。
その後、夜食として出された果実盛りを食べながらザザールーク兵全員で話し合った。
結論は明朝、ザクセン将軍の話を聞いた後に出す事に決まり、4人部屋の寝室が各々にあてがわれ、僕達は久方振りにベットで就寝することとなる。
部屋割は概ね年齢の近しい者同士にした。
僕と同室になったのは、レイヤーとフック、そして兵站部隊のククリである。
「なあ、俺達ってこの戦争に勝ったのか?負けたのか?どうしてこんな展開になっちまったんだ?」
「ザザールーク王国側としては戦争をしに来たけど、シン帝国側にとっては国民候補が訪ねてきたって感じだよね。」
「まともに相手にされていたら、ゴーレム群だけで全滅してただろうね。」
「勝った気分でやって来たのに、遊ばれてただけってことか・・・。」
「悪魔の森で初めてオウガデスに会った時、余興を用意したって言ってたよね、他にも御遊戯をお楽しみくださいとか、助言をしたり、攻略法を示したり、本当に遊んでもらうつもりだったんだね。」
「魔族の御二方は楽しませるのが悪魔で、苦しませるのが神様だと仰ってましたね。」
最初は僕達と同部屋になった事に緊張していた様子のククリだったけど、少し慣れたのか僕達の話に混ざってきた。
「そう言えば、5つの余興を用意したって言ってたよな、俺達が突破したのは3つだけだし、他の2つはどうなったんだ?」
「待ちくたびれたライムさんが残りをすっとばさせたそうですよ。」
何故、その事を知っているのかククリに聞いてみたら、こっそりとオウガデスに聞いていたらしい。
「オウガデスさんは残念がってました。」
ククリの両親は早くに他界しており、親代わりの親戚も去年亡くしたそうで、本人はシン帝国へ行く事に乗り気の様だ。
僕も妹と暮らせるならシン帝国でも構わないかな。




