待ちくたびれエルフは早急に
「石の次は岩かよ、次は二つ合わせて岩石ってどうかな?」
そんな精霊人形が存在するかは知らないけど、次も楽な相手なら助かるなぁ。
「ゴーレムの体をハンマーで叩いてみたけど、他の箇所は硬いのにゴーレムの右足だけは砕けやすくなってるね。」
おそらく精霊人形の右足だけが弱点として造られているんだろう、あるいは転ばせた時のみ砕けやすくなるのかもしれない。
「よっしゃ、あと三回だな、頑張るとするか。」
緑玉を扉にかざすと案の定、5体の水晶人形が出現する。
そして例のごとく、レイヤーが囮となって玉持ちの精霊人形を選別し、動かなくなっている岩人形へと誘導して躓かせ、ハンマー部隊が右足に埋まっている玉を取りだすといった作戦をとる。
でも・・・、突如、水晶人形の足元から大量の植物が生えてきた。いや、生えると言うより飛び出してきた感じだ。
ズガガガガッ!
緑色の木?それは細長く、節の付いた様な見たことの無い形をしていた。
緑の木々は水晶人形の右足を持ち上げるように貫くと、そこから青い玉が転がり落ちる。
水晶人形の傍、そこに落下する青玉を掴み取った男がいた。
「遅い、お前らの行動があまりにも遅くて待ちくたびれちまった。」
その男は緑髪緑眼、ふてぶてしい態度はしているけど、見た目は若く端正な顔立ち、そして特徴的な長い耳、・・・おそらくあの男は数多の英雄譚に登場している種族、耳長族だ。
「こんな所でもたもたしやがって、さっさと終わらせて次に行くぞ、次に。」
言うが早いか、青玉を扉に投げつけ、扉が青色に変わったと同時に現れた2体の鉄人形を先程と同じ様に緑の木々で貫き倒した。
ギガガッ、ズギィーーン。
鈍い金属音を立てながら崩れ落ちる鉄人形、いつの間にか鉄人形の上にいるエルフの男を見つけた。その手には藍色の玉が握られている。
「ほらよ、これで最後だ。」
藍玉を扉に向けて投げようと腕を振り上げた時、レイヤーが慌てて彼に制止の声をかける。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ、あんたは誰だ?俺たちの味方なのか?」
急な展開に着いて行けない僕達、彼が誰で、何処から来たのか、何故僕達を助けようとするのか、何にも分からなかった。
「あのなぁ、こんな森で初めて出会う奴なんか敵に決まってるだろ。」
敵だと聞いて咄嗟に武器を構えるが、エルフの男は鉄人形の上から飛び降りて僕達の方に近寄ってくる。
「俺の名はライム、シン帝国武官にして悪農民だ。お前たちが陰気な悪魔の元に来るのを準備万端整えて待ってはいたが、待ちきれなくて迎えに来た。」
・・・敵なのにしっかりと質問に答えてくれた、だけど謎は深まるばかりだ。
「悪農民ってなんだよ?」
「陰気な悪魔って何者?」
「準備って何の準備なの?」
僕達は寄ってたかって耳長族のライムに質問を浴びせる。
「あのなぁ、敵に質問しても簡単に返答してくれると思うなよ、あれだ、悪農民ってのは悪事を働く農民だ。お前達も暫くは悪農民になってもらう。そんで、陰気な悪魔ってのはオウガデスって野郎の事だ。それと、準備ってのはお前達を持て成す為の準備だ。」
・・・簡単に答えが返ってきた。
「悪農民ってのは奴隷の事なのか?」
「オウガデスってどんな悪魔?」
「持て成すってどんな持て成し?」
耳長族の説明はちっとも分からない、新たな質問が飛び交う。
「奴隷じゃねえよ、悪農民だ。オウガデスってのは面白くない悪魔だな。温泉とか食い物とか用意しているぞ。」
・・・う~ん、いくら聞いても益々分からなくなってきた。
「で、俺達を悪農民にしてどうしたいんだ?」
「オウガデスは僕達をどうするつもりなの?」
「僕達を持て成すって、何が目的なの?」
悪魔達の目的が判らず、皆似たような質問になってしまった。
「お前達には俺達の為に幸せになってもらう。それが、お前達が悪魔と呼ぶ俺達の目的だ。」
はい、分かりません、何を言ってるのか、さっぱりです。
「詳しい話は後で話すから、とっとと此処での用事を終わらせるぞ。」
強引に話を終わらせた耳長族のライムは藍玉を扉に投げた。
玉は扉にかざさなくても良かったんだ・・・。
最後に出現したのは10モートルもの巨大な金人形、金色の輝きに目を奪われているところを、ライムは、またもやあっさりとやっつけた。
「はい、終わりっと。」
埃を掃うようにパンパンと手を打つライム。
「7個の玉を門扉にかざしてみな、そうすりゃ魔導門が開く。」
ライムは紫色の玉をレイヤーに向けて投げ渡す。
言われた通りにしてみると門扉は虹色に輝きした。
「この魔導門を通ればゼルタリス要塞だ。そこで俺達はお前達を歓迎するぜ。」
そう言い残すと、ライムは虹色に輝く門の奥へと消えていってしまう。
こうして、第三の難関「巡る人形劇」は突然の乱入者によって終幕を迎えた。




