プロローグ:魔界の終わりは突然に
魔界・・・雷雲轟き地を穿ち、幾度も噴火し大地を抉る活火山、異形の魔物どもが互いの骨肉を食らいあう世界、爪が、牙が、相手の臓物を引きずり出し、血で血を洗う闘いが日々繰り広げられていた。
<第十二魔改暦1万と2千年>
真・魔帝王となり全ての魔界を統一するつもりなど更々ない二人の魔帝王が渋々ながら戦っている・・・。
いや、戦わされているのだった。
「も、もう限界でふ。私の負けで結構でふから、もうやめてぇ~。げふぁ」
弱音を吐き続けるは雷帝シン、知恵ある武具『雷帝杖サンダササンダコサンダ』に選ばれし悲運な魔帝王である。
「いやいや、僕の負けで構わないので終わりにしましょうよぅ。お願いします~。ぎゃは~。」
雷帝シンと争う、もう一方は、『炎王杖スリトゥワンファイア』に見初められし不運な魔帝王、炎王ガイ。
魔界でも最弱クラスの二人は意思持つ杖に無理矢理支配され戦わされているのであった。
魔法無効の恩恵を受けし両名が繰り出すのは、子供の喧嘩さながらの肉弾戦、切り裂けず撫でるが如き爪の一閃、噛み砕けるは己が牙、精度の無い頭突きは目玉から相手の額に向かってぶち当たっていく。
攻撃すればする程に負傷していく魔帝王達。
「ぎゃはー。」「ぐわあ~。」「いやぁ~。」「いったぁぁぁい。」
擦り傷、切り傷、たんこぶ、あざ、腫れあがる顔面、流血とは言い難い滲み出る出血、飛び散るのは血と汗では無くお互いの涙。
その激戦を冷めた目、飽きた目、疲れ目、各々見方は違えど、観戦する魔帝王の配下達。
「オウガデスよう、いいかげん帰っていいかな?」
シン帝国軍観戦場に敷いたゴザの上に寝そべりながら悪態をついたのはエルフの男。
「魔王以外は帰って良しの指令は出しておきましたよ♪」
金髪碧眼、和服姿のオウガデスはエルフの隣に座しており、茶を啜りながら涼しい顔で闘いを見ていた。
「俺、魔王じゃ無いんですけど。」
そう言いながらツマミのスルメを口にくわえる。
「ライムさん以外の者はライムさんを魔王だと思っていますよ♪」
ライムと呼ばれたエルフは小さく舌打ちを一つ打つと暫く黙りこむ。
魔王達は酒をあおる者、純粋に応援する者、目を閉じ夢の世界に潜む者、十人十色の観戦方法で決着の時を待っていた。
「シン様、頑張ってくだされ~ぃ。」
「負けるな、ガイ様~。」
シン陣営、ガイ陣営、両陣営から極めて僅かの黄色くない声援が交差する。
「ゼフィーの爺様、よくも飽きずに応援できるもんだね。」
新たなスルメを咥え愚痴の矛先を味方に向けた。
「向う側にも似たような方が居られるようですね♪」
オウガデスは扇子で口元を隠しながら笑みをこぼす。
脆弱なる魔帝王の配下は、両陣営いずれも名だたる強者揃い、中には別世界の魔界を支配する者もいる。
「ふん、真に力強き者が魔帝王・・・と成らないのは不条理だな。」
銀髪赤眼、衣装は黒、身に纏う瘴気も黒、背負う刀剣も黒、跨る馬も黒の剣士が不満をこぼす。
「魔帝王になってもならなくてもディアブロさまはディアブロさまです。」
黒の剣士ディアブロの背からこそりと顔を覗かせたのは水色の髪の女の子。名はミュリエル。
「どちらにせよ、ディアブロさまは最強です。ミュリはそう思います。」
気遣いの礼にと、ディアブロに頭を撫でられたミュリエルは幸せ心地に浸った。
「あのイチャツキカップルはなんとかならんのか?」
酒の飲めないライムはまたもスルメを口に運ぶ。
「ライムさんは文句が多いですね♪」
飲み飽きた茶から、好物の魔酒に替えたオウガデスはクイッと杯を傾けた。
「怖いから直接文句は言えないけどな。」
とは言いながらディアブロはもちろん、周りにも聞こえるような大声で周囲の笑いを誘う。
照れるミュリエルに睨むディアブロ。
一睨みで少し沸いた場は静まり返った。
「おー怖っ。」
怖い剣士から視線をそらし、怖くない魔帝王に向き直る。
「本当に早く終わってくれないもんかねえ。杖と爺様以外は皆、こんな泥仕合に飽き飽きなんだけどねえ。」
ライムの願いが通じたのか、二時間半に及ぶ死闘が終焉を迎えようとしていた。
業を煮やした雷帝杖、炎王杖の知恵ある武具は互いの究極極大魔法での決着を図る。
「おわーっ、それだけは止めようよ。俺の体がもたないから。」
杖先端から膨大で強大な魔力が溢れ出す。
「確か僕たちは魔法無効の恩恵を受けてるんですよね?ね?これって意味あるんですか~?」
そんなもの打ち破ってくれるとばかりに、魔力の奔流は止まらない。
ぐだぐだの闘いから一転、周囲を巻き込む程の魔力渦が魔界全土を包み込む。
属性は違えど凝縮された強大な魔力は白色球状となり、同色同形同級魔法が同時に放たれる。
どっかーーーーーーーん!!!
「うっそ~ん。」
どちらの陣営から声がこぼれたのかは分からないが、魔帝王両名を含む、魔王達がこの魔界で聞いた最後の言葉であった。
両陣営は究極極大魔法の激突により生じた空間の歪みに飲み込まれていった。
-つづく-