プロローグ
その女、いや少女と言ったほうが正しいだろう。
彼女はひとり窓辺に佇んでいた。
夜の屋敷は静まり返り、聞こえてくるのは巡回中の夜警のブーツの足音だけ。
けれど、彼女だけはいまだ床にも就かず、体を震わせながら、外を見つめて白い息を吐く。
外はしんしんと雪が降り、バルコニーにうっすら積もった雪が白く部屋の壁を照らしていた。
この家の自慢の庭園も白い絨毯が敷かれ、草花が身を隠し始めていた。
少し開け放った窓から、凍えるような空気が少女の体を包み込む。
そんな少女の様子を窺う影が部屋の中にひとつ。
早くベッドに入るか、暖炉で体を温めないといけない。あれでは“また”体調を崩してしまうだろう。
やれやれ、世話の焼ける娘だ。
不本意だが、いつものように彼女の袖を引っ張り、暖炉の前に連れていくか。
その影がぬっと立ち上がり、少女の傍らに寄り添う。
「あら、あなたも起きていたの?」
少女はそう呟くと彼に視線を移した。
そっと窓を閉めると、しゃがみ込み柔らかな手つきで頭を撫でる。
さぁ早くこっちへ。彼は少女の袖を引き、促す。
彼が暖炉の前で横になると、少女は彼の首に手を回し、ソファで横になるように身を預けた。
ふんわりとはしていないし、硬めの“体毛”だが、それでもないよりはずっと“マシ”だろ?
大丈夫、すぐに温まるさ。
暖炉の炎が橙色に揺らめき、薪が爆ぜパチパチと音を立てる。
少女の冷たかった体も、徐々に頬に赤みが差し、じんわりと彼に熱が伝わるような気がした。
「ごめんなさい。今夜はとても眠れそうにもないわ」
そんなことを耳元で囁くが、しばらくすると寝息が聞こえてきた。いつものことだ。
これで俺も“ようやく”寝られる。
そんな彼女の様子を見て、彼も静かに目を閉じた。
ひとりの少女と一頭の老犬が暖炉の炎に照らされ、眠りについた。




