通路の先で待つもの
とても長い通路を通り抜けると、俺たちは分かれ道に辿り着いた。
どちらも同じような通路で、違いはほとんどないように見える。
先ほどまで意気揚々と先導していたハルカだったが、
進むべき道が分からないようで、それぞれの通路を見比べては唸り声を上げている。
俺から見ても、二つに分かれた道のどちらに進めば良いかなど分からない。
壁面は所々にヒカリゴケが生えているのみで、特にヒントのような物も見つからない。
「こっちに行きましょう!」
悩みぬいた末にハルカは左側の道を指さした。
おそらく勘で決めたのだろうが、異論はない。
トレジャーハンターでもない俺には皆目見当も付かないからだ。
ハルカはポケットからチョークのようなものを取り出すと、
分かれ道手前の壁に左矢印を書き込んだ。
チョークは特殊な素材で作られているようで、薄暗い遺跡の中で
書き込まれた矢印が淡い光を放つ。
「これで迷っても安心ね!」
迷った時点で安心ではないだろと思ったが、
俺は心の中に留めておくことにした。
その先にも分かれ道があり、再びハルカは唸りながらも道を選んだ。
矢印も忘れずに書き込んでおく。
その先にも、その先にも、何度も何度も分かれ道が現れ、
その度に険しい顔をしたハルカが一つの道を選ぶ。
そうして遺跡の通路を奥へ奥へと進んでいた俺たちは、
とても長い通路へと辿り着いた。
違和感...というより既視感のある通路だった。
壁にまばらに生えたヒカリゴケ、通路の奥行、
床に転がる石ころの位置、普段気にしないようなところに思考が持ってかれる。
嫌な予感がしながらも、進む以外に道はない。
なんとなく見覚えのあるこの道を。
とても長い通路を通り抜けると、俺たちは分かれ道に辿り着いた。
分かれ道の手前には見覚えのある左矢印が薄っすらと光を放っていた。
間違いない。
ここは先ほど通った道と同じ道だ。
「なんでよっ!」
不満を堪え切れず、ハルカが思わず叫び声を上げる。
確かに変だ。
俺たちの進んだ道は、少なくとも遺跡の奥へと続く道だったはずだ。
曲がり角のようなものはなかった。
それなのに俺たちは後ろ側にあるはずの道に戻ってきている。
俺たちが気付かないほど緩いカーブを描いていたのだろうか。
「もう一度よ!」
冷静さを取り戻したハルカが、今度は右の道を選び歩き出す。
俺の頭に色々な考えがよぎるが、一先ず先導してくれるハルカについていくことにした。
右の通路の先にも再び分かれ道があった。
ハルカは再びチョークで印をつけながら、勘に従って道を進んでいく。
どの通路も同じような見た目で違いは分からない。
何度も何度も同じ道を歩いているかのような錯覚を覚える。
そして多くの分かれ道を進んだ俺たちは、またしても同じ通路へと戻ってきていた。
「また同じ場所っ!」
たまらずハルカは叫び声を上げた。
かなり精神的に参っているようだ。
「少し休憩にするか。」
頭を抱えてしゃがみこんだハルカの横にそっと腰を下ろす。
この遺跡から生きて出られるか分からない以上、常に俺たちの心には不安がつきまとう。
トレジャーハンターとして先導してくれていたハルカは、それ以上に責任も感じていただろう。
ここまで支えてもらったのだ。
俺まで不安に駆られてパニックになるわけにはいかない。
「無限に道があるわけじゃないんだ。ゆっくり正解の道を探していこう。」
ハルカはしばらく無言で項垂れていたが、
気を取り直して顔を上げた。
「心配かけてしまってゴメンなさい。」
「謝るようなことじゃないさ。」
我ながら格好つけたセリフだと思うが、言葉は本心だ。
ハルカが謝る理由などどこにもない。
世話になっているのはこっちの方だ。
「ありがとう、ジン。」
まっすぐな感謝の言葉に、俺はつい黙り込んでしまう。
先ほどまでは感じていなかった照れ臭さが、急に顔を覗かせてきたのだ。
それはハルカも同じようで、二人の間になんとも気恥ずかしい空気が流れる。
互いに次の一言が見つからず、会話の糸口を見つけられずにいた。
その沈黙を破ったのは、遺跡全体を揺るがすような地響きであった。
「何の音だ?」
金属と金属がぶつかり合うような音が遺跡の入り口の方から聞こえてくる。
ガンガンガンガンと非常にやかましい音は少しずつ大きさを増している。
まるで大きな何かがこちらに近づいてきているような感じだ。
「これってもしかして・・・」
俺とハルカは互いに目を合わせる。
嫌な予感があったのか、ハルカの額に冷や汗が流れる。
もしかしたら俺の額にも流れていたかもしれない。
音の鮮明さが増していく。すぐそこまでそいつは近づいてきている。
俺たちが通った長い通路の曲がり角から金属製の鎌を携えた巨大な兵器が顔を覗かせる。
「「アンマンド・リーパーだ!」」
今日はやけに嫌な予感の当たる日だ。
俺は急ぎハルカの手を取り、分かれ道に向かって走り出す。
どれが正解の道かなんて考える余裕はない。
心の声に従い、本能の赴くままに走る。
どうしてやつがここまで追ってきたのかは分からないが、俺たちを標的にしていることは明白だ。
そうでなければ、わざわざ遺跡の中にまで入っては来ないだろう。
幸い遺跡の通路はアンマンド・リーパーが通れるギリギリのサイズだ。
あちこちぶつかるせいか、進むのに大分苦労しているようだ。
だが、追いかけっこを続けるだけではいずれ捕まるのも事実。
この状況を覆すなにかをこの遺跡で見つけなきゃいけない。
脱出装置でも武器でもなんでもいい。
この状況をひっくり返すなにかが必要だ。
「ハルカ、オーパーツってのはどんな場所にあるんだ!
この状況を切り抜けるにはそれしかない!」
「少なくとも普通の通路には落ちてないわ!
いかにも特別そうな部屋とかよ!」
抽象的な表現だが、言わんとすることは分かる。
一先ず、この迷路のような通路から脱出する必要があるようだ。
相変わらず分かれ道の連続だが、足を止めて考える時間はない。
これだと思った道をひたすら駆け抜ける。
アンマンド・リーパーが床や壁とぶつかる音は今も背後から響いている。
こちらの位置は完全に補足されているようだ。
上手くいけばこの迷路で撒けるかもと思ったが、
そう簡単には俺たちを諦めてくれないようだ。
そもそも遺跡の中にいる俺たちをどうやって見つけたのだろう。
かなり高性能なセンサーでも内蔵しているのか。
結局、地上に逃げるか奴を倒すかしか道は残されていない。
俺は祈るような気持ちで分かれ道を進んでいく。
「...通路の様子が違う?」
必死に走る傍ら、ハルカの呟きが耳に入る。
言われてみれば、先ほどまでループしていた通路とは雰囲気が違う。
先ほどまで走っていた通路は何百年間も放置されたような、正に遺跡の通路だった。
しかし今いる通路は人の手で整備されているかのように、壁も床も綺麗な状態を保っている。
遺跡の光源となっていたイセキゴケも姿を見せなくなった。
通路自体が発光しているのだろうか。
何故か先ほどよりも通路は明るかった。
それからどれくらい走ったのか、自分でもよく分からない。
必死に逃げていたせいか時間の感覚が狂ってしまったようだ。
気が付けば俺たちは大きな白い扉の前まで辿り着いていた。
ここがこの通路の終点のようだ。
「明らかにオーパーツがありますって感じの扉ね。」
武器でも転送装置でもなんでもいい。
これで何もなければ、俺たちはアンマンド・リーパーに押しつぶされて終わりだ。
ハルカは扉の周りを一通り確認した後、力いっぱい扉を押す。
白い扉はまったく動く気配を見せない。
「罠の類はなさそうだけど、扉を開けるのに仕掛けがあるタイプね。
力任せでは開けられないわ」
ハルカは試しにイグニードを出し、今度はソウル・パンツァーの力で扉を押してみせたが、
依然として白い扉は微動だにしなかった。
「とにかく時間がない。手分けして何かないか探してみよう」
幸いアンマンド・リーパーは音は聞こえてこない。
どこかで引っかかっているのだろうか。
白い扉のある空間はそれなりの広さがあるが、
なにか仕掛けのようなものが置かれている様子はない。
俺とハルカで手当たり次第に壁や床を触ったり踏んだりしてみるが、
隠しスイッチのようなものがあるわけでもなさそうだ。
(......もう時間がないわ......)
頭の中にまた幻聴が響いた。砂漠に来てから時たま聞こえていたが、
この地下空間に落ちてきてからは聞こえる周期が短くなっている。
あまりに幻聴が聞こえすぎて最近はスルーしていたが、
生きて帰ることが出来たらまずはカウンセラーを頼る必要があるな。
「時間がないことは分かってるんだが...」
つい幻聴への返事が口に出てしまった。
ハルカがキョトンとした表情で俺を見ている。
「すまん。心配かけたくなくて黙ってたんだが、遺跡に来てから幻聴が凄いんだ」
俺は独り言を聞かれた恥ずかしさで思わず白状してしまった。
やばい奴だと思われるかと思ったが、返ってきたのは意外な反応だった。
「もしかしてその幻聴って、誰かに呼ばれているような感じ?」
「ああ、そんな感じだ。
さっきの分かれ道でも、こっちの道よとか呼ばれてて少し怖かった。」
まぁその呼びかけに従った結果、ここまで辿りつけたわけだが。
「ジン、それはたぶんソウル・パンツァーの呼びかけだわ!」
「ソウル・パンツァーの呼びかけ?」
ガンガンガンッ!
再び聞こえる大きな音に俺とハルカは一気に振り返った。
激しい騒音の主がこちらへと向かってくるのが聞こえる。
どうやらアンマンド・リーパーが再び動き始めたようだ。
「時間がないから説明は後にするわ!
とにかくあの白い扉を開けてみて!」
ハルカに促されるまま白い扉の前まで行き、手のひらを押し当てる。
しかしイグニードのパワーで開かなかった扉を俺が開けられるのだろうか?
そんな疑問などお構いなしに、軽い力で押しただけで、
扉は大きな音を立てながらゆっくりと開いていった。
唖然とする俺の視線の先にソウル・パンツァーの形をした石像が姿を現す。
扉の先の部屋の中で、何かを待つようにその石像は台座の上に鎮座していた。
(名前を呼んで...)
台座には金属製のプレートがあり、そこには文字が刻まれていた。
FLIMORE、初めて見る単語であったが、不思議と読み方はすぐに分かった。
「...俺を呼んだのは君か、フリモア?」
その呼びかけに応えるように、石像の全身が白く輝き始める。
眩い光に包まれ、石のようだった身体が色を取り戻していく。
そこにはもうソウル・パンツァーの石像の姿はなく、
純白のソウル・パンツァーが俺の目の前に立っていた。




