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落下

バチィィィン!!


スタン・ブラスターの銃口から高出力の電撃が放たれた。


激しい炸裂音と共にアンマンド・リーパーの砲身内部に直撃し、

金属製の身体を縦横無尽に駆け巡る。


アンマンド・リーパーは暴れ狂うこともなく、

うなだれるようにしてその動きを静かに止めた。


こちらに向けられていたチェーンソーも同様に動きを止め、

崩れ落ちるように砂漠の砂へと突き刺さる。


どうやらアンマンド・リーパー内部への攻撃に成功したようだ。


しかし、電撃の向かう先は内部だけではない。

金属製の身体全体に電気は拡散する。


そんな当たり前のことを失念していた。


アンマンド・リーパー胸部にしがみついていた俺の元にも、

当然のように電撃はやってくる。


「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!!!」


俺は間抜けな叫び声を上げながら、砂漠の上に落下した。

スタン・ブラスターの威力をこの身で味わう日が来るとは。


「ジン!大丈夫!?」


ハルカは慌ててイグニードから飛び降り、砂上に横たわる俺の元へと駆け寄る。


「これぐらい・・・ジャンク屋の仕事で・・慣れて・・・るぜ・・・・・・。」


左手を空に掲げ、サムズアップの形を取る。

もちろんただの強がりである。


「意外に余裕そうね・・・」


ハルカは安堵して息をついた。


「・・・寝てる場合じゃ・・ないよな・・・。」


自分自身に活を入れ、痺れの残る身体をなんとか起こす。


アンマンド・リーパーは完全に機能を停止したわけではない。

再び動き出す前に、この場を離れなければ。


ぎこちない足取りで、少しずつ歩を進める。


電撃のダメージが思ったよりも大きいようだ。

一歩踏み出すごとに痛みが走り、思わず顔を歪ませる。


「無理しないの。」


見かねたハルカが俺に肩を貸す。

おかげで身体が大分楽になった。


「イグニードに乗って一緒に逃げましょう。」


至近距離で微笑むハルカの顔を直視出来ず、俺はつい顔を背ける。


出会ってからここまで、ハルカには助けられてばかりだ。

何か恩返しを考えておかないとな。


「ん?」


再び歩み出そうとしたその時、俺は地面に微かな違和感を感じとった。


「・・・何か、動いてないか?」


目を凝らして地面を見つめ、違和感の正体を探る。

足元に広がる砂漠の砂、それらが沈み込むように動いているのが見て取れた。


一部分だけの話ではない。

様々な場所で砂が沈み始めているのが見える。


「なんかやばくない?」


ハルカの心配は的中した。


沈み込む砂はその箇所を増やし、どんどんと勢いを増していく。

それぞれが重なり合うことでより大きな範囲が地中へと引きずり込まれていく。


ズズズズズズズズ………


音のする方を振り向けば、先ほど動きを止めたアンマンド・リーパーの巨体が

少しずつ砂の中に消えていく最中だった。


「ジン!マズイわ!」


ハルカの声にハッとして、自分の足元に視線を戻す。


俺たちの足も、砂の中へ少しずつ引きずり込まれ始めていた。


「・・・戦いの余波で地盤が崩れたのか?」


「冷静に考察してる場合じゃないわよ!」


底なし沼のような砂漠に足を取られて抜け出せなくなった俺たちは

引きつった笑顔で互いに見つめ合った。


目の前に迫る死に恐怖し、抱き合いながら、一緒に砂の中へと沈んでいく。


次第に砂の圧力で身動きが取れなくなり、呼吸もままならなくなる。


地中に埋まってなお、砂は沈み続けた。

俺たちはさらに地下深くへと流されていく。



_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _



(......起きて......)


直接脳内に響くような透明な声が聞こえ、俺は目を見開いた。


ひんやりとした空気と暖かな感触を肌で感じながら、

真っ暗な闇の中で目を覚ます。


どうやら俺は意識を失っていたようだ。


何がどうなって、こんな暗闇の中にいるんだっけ?


砂漠に来てからの記憶が一つ一つ蘇り、寝ぼけていた思考が徐々に正常さを取り戻し始める。

意識がはっきりとしたところで、ようやく俺は、自分が仰向けに倒れていることを自覚した。


視界はとても暗く、自分がどこにいるのかも分からないが、

少なくともここは砂の中ではないらしい。


肌には空気を感じるし、寝たままの体勢で腕を伸ばしても、砂にぶつかることはなかった。


ここは地下空間の空洞か何かだろうか。

運よく空気のある場所まで落ちてきたみたいだ。


どのみち危険な状況には変わりないが、命がまだあるだけマシというものだ。


「いてて・・・」


意識が鮮明になったことで麻痺していた痛覚も目を覚ます。

先ほどの電撃で受けた痛みの他に、背中側にも痛みを感じる。


おそらく、この空間へと落下する際に背中を強く打ってしまったのだろう。

視覚が制限された暗闇の中では、小さな痛みが精神を大きく蝕んでいく。


もしも一人きりでこの暗闇の中で過ごす羽目になっていたら、

俺は孤独に耐えられなかっただろう。


「......スヤスヤ...…………スピィ………」


静寂に包まれた暗闇の中から聞こえる微かな寝息に耳を澄ませる。

なんとも間抜けな寝息だが、それが俺に安心感を与えてくれていた。


仰向けの体勢のまま頭だけを起こして、寝息の正体を見やる。

俺の身体の上で重なるようにして、ハルカは気持ちよさそうに眠っていた。


がっしり抱き合っていたおかげで、俺たちは同じ場所に落ちてきたようだ。

ひんやりとした空気と相まって、体温の温もりが心地よい。


しかし、ハルカがまだ意識を取り戻していないのであれば、

目覚めのきっかけとなったあの声はなんだったのだろう。


こんな場所に、他に人間がいるとは思えない。

夢でも見ていたのだろうか。


とりあえず、いつまでもこのままというわけにもいかない。

俺は名残惜しさを覚えながらも、肩を軽く揺さぶりハルカの覚醒を促す。


「・・ん・・・おは・・・・よぉ・・・・・・ふぁ」


ハルカは重たそうな瞼を擦りながら、小さく欠伸をした。

小動物のような仕草に、思わず微笑みがこぼれる。


「あれ、私・・・」


顔を上げたハルカと目が合い数秒の沈黙が流れる。


徐々に状況を理解したのだろう。

至近距離なこともあって、赤面していくハルカの顔が暗闇の中でも見て取れた。


「ご、ごめん!下敷きにしちゃってた!」


起き上がりざまに勢いよく謝罪するハルカに、これまた笑みがこぼれそうになる。


「何度も助けられてるんだ。これぐらい安いもんだよ。」


俺も立ち上がり、今の状況を二人で整理する。

だが分かることと言えば、ここが地下深くにある謎の空間ということだけだ。


一先ず、軽く辺りを探索することにした俺たちは、

暗闇ではぐれぬように手を繋ぐことにした。


視界が悪く、触覚が敏感になっているせいだろうか。

手を繋いでいるだけだというのに、心臓は通常よりも早めに鼓動を刻んでいる。


たしかに、女性と手を繋いだ経験などないが、こんなにもドキドキするものだろうか。

自分の心臓の音だけが、この地下空間に鳴り響いているような錯覚に陥る。


・・・俺、手汗とかかいてないよな?


心配になって、ちらりと横目でハルカの様子を伺う。

先ほどと違ってどんな顔をしているのか、ここからはよく見えない。


「足元は砂じゃないみたいね。」


ハルカの声で我に返る。

こんな危険な状況でラブロマンスを期待している場合ではない。


地面は硬い石のような素材で出来ていて、歩くたびにコツコツと足音が鳴る。

先ほどは砂に吞み込まれたこともあり、足場がしっかりしていることに安心感を覚える。


だが、ここはいったいどういった空間なのだろうか?

軽く辺りを歩き回ってみたが、壁にぶつかるようなことはなかった。


それなりに広い空間のようだ。

闇雲に歩き回るだけでは、収穫を得られそうにない。


「これって、ジンが使ってた銃じゃない?」


そう言ってハルカは足元から何かを拾い上げ、俺に手渡す。


「おお!ありがとう!」


それは本日大活躍のスタン・ブラスターだった。


アンマンド・リーパーへ一撃入れた際に、

身体が痺れてその場に落としてしまっていたのだ。


自分で改造や整備をしているので愛着のある品だ。

手元に戻って来たことは素直に嬉しい。


だが、嬉しいのはそれだけではない。

コイツには電撃を放つ以外にも優秀な機能があるのだ。


スタン・ブラスターの側面に付けられたスイッチを押すと、

銃口の下部分に明かりが灯り、暗闇の中に一筋の光が伸びる。


「凄い!懐中電灯みたいになった!」


「これでやっとどんな場所なのか分かるな。」


結論から言うと、ここは人工的に作られた空間のようだった。

床はレンガのようなもので整備されており、それがどこまでも続いている。


天井はなく、代わりに砂漠の砂が一面を覆っていた。


「なんであの砂は落ちて来ないんだろうな?」


ただ落ちてこないのではなく、

空中で砂がうねうねと波打っているようにも見える。


あれはいったいどうなっているんだ?


思えば初めからおかしかったのだ。


砂に流されてここまで落ちてきたのだから、

俺たちの落下地点に多少なりとも砂が落ちていないのはおかしいのだ。


「おそらく、あれのせいね。」


ハルカの指さす方向には、石で出来た柱のようなものがあった。

その柱は、等間隔であちこちに配置されているようだ。


天井もないのに柱というのもおかしな話だが。


「あの柱みたいのがどうかしたのか?」


近づいて見てみても、何の変哲もないただの石柱だ。

気になることと言えば、見たこともない文字が彫られているくらいだろうか。


「この柱から出ている力場が砂を押さえつけているんだわ。

 この古代文字もその説明書きみたいなものかしら。」


ハルカは興味深そうに彫られた文字や石柱の周りを観察し始めた。


力場? 古代文字?

ハルカはいったい何を言っているんだろうか。


よくよく目を凝らして見てみると石柱全体から半透明な緑色の波動が

上に向かって放出されている・・・ような気がする。


これが力場なのだろうか。


「ハルカはこの文字が読めるのか?」


「読めないけど、似たようなものは別の古代遺跡で見たことがあるわ。」


別の古代遺跡?

つまりここは古代遺跡ということか。


急に色々な単語が出てきて頭の整理が追い付かない。


「なんでそんなことに詳しいんだ?」


初めに聞きたいのはそこだ。

俺と同じくらいの年齢なのに、ハルカは随分と博識だ。


「あれ、まだ言ってなかったっけ?」


石柱の調査を終えたハルカが笑顔でこちらを振り向く。

言いたくってしょうがないという顔をしている。


「だって私、トレジャーハンターだから!」



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