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少年と少女と

「・・・暑い」


強烈な熱気を感じて、俺は目を覚ます。

昨晩は涼しく快適だったテントの中は、地獄のような熱気に支配されていた。


暑さから逃げる様に、テントのファスナーを開け、外へと出る。


涼しさを期待しての行動とは裏腹に、

テントの外には灼熱の砂漠がどこまでも続いていた。


ここは国境線上に位置する砂漠地帯の入り口、前線跡地とも呼ばれる場所だ。


俺が生まれるよりも前に起きた大戦で一切の自然は消え去り、

目の前に広がる砂だけが残った。


いや、残ったのは砂だけではない。


大戦中に大破した兵器の残骸や、今も前線を守り続ける

無人兵器の生き残りがこの砂漠を彩っている。


こんな荒廃した大地に、わざわざ訪れる人間は皆無である。


俺のような『ジャンク屋』を除いて。


戦争の傷跡が深く残るこの場所だが、

ジャンク屋にとってはお宝の宝庫でもある。


破損した大型兵器のパーツや、電子機器は高値で売れる。


金属の資源が乏しくなった今の世の中では、

黒焦げの金属片ですらそこそこの金になる。


俺は自身の夢を叶えるため、リスクを承知でこの危険地帯へとやって来たのだ。


簡単な朝食を済ませ、畳んだテントをバギーの荷台に乗せる。


長年の相棒であるこのバギーは砂漠地帯でも雪山でも走れる優れものだ。


そんな相棒に乗り込み、砂漠地帯の中心を目指してタイヤを走らせる。


昔からの俺の夢、憧れの『パンツァー乗り』になるために。




砂、砂、砂・・・一時間ぐらいはバギーを走らせているが、目の前の景色は依然砂だらけ。


前線跡地は戦火の激しかった中心地帯が最も危険な場所だと聞く。


比較的安全な砂漠外周にある目ぼしいものは、

既に他のジャンク屋によって回収されてしまっているようだ。


お宝を求めるのであれば、より危険な砂漠の中心地へと向かう他ない。


砂にタイヤをとられないように気を付けながら、

俺はバギーに取り付けておいた探知機を確認する。


探知機のレーダーは、ここより少し先の一点に反応を示していた。


このだだっ広い砂漠では、目視は勿論、

金属探知機でちまちまとお宝を探すわけにもいかない。


長居すればするだけ、危険との遭遇率ははね上がる。


そのため俺が持ってきたのは、過去の戦争で使われていた軍用の信号探知機だ。


敵味方入り混じる戦争で味方への攻撃を避けるために、

味方であることを示す特殊な識別信号の発生装置が過去の兵器には取り付けられている。


その信号の一部は今も生きており、こうして専用の探知機で拾うことが出来るのだ。


しばらくして信号の発信源へと到着した。


ざっと見た限りでは、大型の兵器は見当たらない。


自身の重みで砂の深いところまで潜ってしまっているのだろうか。


ひとまずバギーを止め、砂かき用の棒で辺りを探っていく。


すると、兵器に使われていたであろうバラバラになった金属製の破片が至る所から顔を出す。


お目当ての完品とはいかないが、相棒のバギーで持って帰ることを考えたら、

充分な量の金属片を掘り出すことが出来た。


後はこれらを荷台に積んだら、ミッションコンプリートだ。


重たい金属片を1つずつ手作業でバギーの荷台へと載せていく。


金属製なので重さはもちろんだが、太陽の熱を吸収して、金属片は高温に熱されていた。


手袋をしているとはいえ、これは中々のハードーワークだ。


加えて砂漠という過酷な環境。


なんだか頭がくらくらしてきた。


(……私を……)


不意に、頭の中にノイズのようなものが走り、

俺は作業の手を止める。


「ん?」


誰かに呼ばれた気がして辺りを見渡すが、人の影は見えない。


そもそもこんな砂漠で人と出会うとも思わないが。


(……私を……見つけて……)


その声は再び脳内に響き渡る。


再度辺りを見渡すが、もちろん辺りは砂一色。


人の影など見えるはずもない。


脳内に響いたその声は、感情の希薄な、無機質な少女のような声だった。


おそらくこれは幻聴に違いない。


この過酷な環境が生み出した死のささやきだ。


俺は急いでバギーに取り付けてあった水筒を手に取り、口の中にぬるい水を流し込んだ。


脱水症状には気を付けていたが、金属片集めに夢中になり過ぎていたようだ。


時間が経つにつれて、日も高く昇って来た。


さっさと終わらせて、涼しい場所まで避難しよう。


とはいえ、目の前に転がる金を無視するわけにもいかない。


近場の金属片だけでも回収していこう。


そう思い俺は近くにある金属片を1枚持ち上げる。


そこで俺は大きな違和感を抱いた。


この金属片、なにか変だ。


いや、別段おかしなところはないのだが、何か変だ。


今まで拾ったものとは何かが違う。


特別な素材というわけではない。


最近じゃよくある、カーボン繊維を織り交ぜて作られた軽量型の金属板だ。


金属の貴重になった昨今では、むしろ定番と言ってもよい。


問題はそこじゃない。


何故最近の技術で作られたものが、こんなところに転がっているのだ。


お宝目当てのジャンク屋しか来ないであろう、こんな砂漠の真ん中で。


付近に転がる他の金属片に目をやる。


どれもこれも同じ素材の金属片だ。


形状から察するに、元々はバギーや車の一部分だったに違いない。


過去、他のジャンク屋がここに来た時に乗って来たものだろう。


それが破壊されているということは...


なけなしの水分で出来た冷や汗が頬を伝い地面へと零れ落ちる。


この状況が示すもの。


それは、最近ここに来た誰かが何かに襲われたということ。


手に持っていた金属片を投げ捨て、急ぎバギーへと向かう。


過去の被害者が何に襲われたのかは分からないが、これ以上の長居は無用だ。


しかし、バギーへと踏み出した足を俺は止めざるを得なかった。


俺とバギーとの間に、その何かがいたからだ。


自立型戦闘兵器『アンマンド・ストーカー』


ジャンク屋の仕事をしていると、自然と兵器について詳しくなる。


過去の対戦で作られた無人戦闘兵器は自然界の生き物を参考にしたものが数多くあるそうだ。


その内の1つ、アンマンド・ストーカーはサソリのような見た目をしている。


全長約3m、兵器の中では小柄な方だが、それは機能性を突き詰めた結果に他ならない。


エネルギー効率、敵地への潜入のし易さ、コストの削減、理由は様々だ。


主に敵地への襲撃や哨戒に用いられていたらしいが、

戦いの終わった今でもその役目を抜け出せずにいるようだ。


足の先は全て鋭いナイフのような形状をしており、見るものに本能的な恐怖を与える。


おそらく先駆者の乗り物はこれに破壊されたのだろう。


尾の先には銃口がついており、敵への狙撃も可能だ。


幸い目の前に現れたアンマンド・ストーカーは損傷が激しく、

尾の途中から先は切れてなくなっていた。


経年劣化、もしくは名誉の負傷であろうか。


俺はジリジリと後ずさりながら、腰のホルスターに手を回す。


相手に飛び道具がないとは言え油断は出来ない。


一度組みつかれれば最後、その足で切り刻まれ、人の身体など一瞬でバラバラになってしまうだろう。


「・・・やるしか、ないか!」


腰のホルスターから、護身用の電撃銃『スタン・ブラスター』を抜く。


出力を最大にすれば、小型の兵器をしばらく機能停止に追い込むぐらいの威力を出せる。


しかし命中精度は高くない。

避けられれば俺は終わりだ。


アンマンド・ストーカーは獲物を見定める様に、こちらの様子を伺っている。


確実に当てるためにはもっと近くで撃つ必要がある。

近づいて欲しくはないが。


だがアンマンド・ストーカーはやる気のようだ。

ナイフのような足を巧みに動かし、砂場とは思えないスピードでこちらに向かってくる。


金属製の足がガチガチと音を立て、その殺意を伝播させているようだった。


正直めっちゃ怖い。

しかし、こんな時ほど冷静にことを進めなければ。


俺は震える左手を右手で支える様にして銃を構えた。


アンマンド・ストーカーはすぐそこまで来ている。


俺との距離は残り8m、7m、6、5、4・・・


その刃が届くよりも早く引き金を引く。


眩い光と共に青白い電撃が銃口からほとばしり、アンマンド・ストーカーのセンサーアイを捉える。


バチバチバチッ!


激しし炸裂音が辺りに響き渡る。


アンマンド・ストーカーは痙攣したように体を暴れさせた後、黙り込むように動きを止めた。


俺は息を整え、銃口を下げる。


「ふう・・・、危ねえところだった」


リスクを承知で来たつもりだったが、やつを目の当たりにした瞬間、来たことを後悔してしまった。


心臓もまだバクバク言っている。


少し休みたいところだがそうもいかない。

これ以上の長居は危険だ。


俺はすぐにバギーへと乗り込みこの場を後にしようとした。


だが、既に遅かった。


バギーに取り付けられた探知機は付近に複数の信号をキャッチしていた。


周囲のいたるところで砂が盛り上がり、まるで地面から産声を上げるかの様に、複数のアンマンド・ストーカーが顔を出す。


「おいおいおい、冗談だろっ!」


ちらりとスタン・ブラスターのバッテリー表示に目をやる。


最大出力での射撃はエネルギーを大きく使う。

撃てて後1回ってところだ。


対して目の前には複数のアンマンド・ストーカー。


その全てがこちらに尾の銃口を向けていた。


(俺の人生、ここで終わりか・・・?)


走馬灯など流れる暇もなく、無慈悲な銃口から銃弾が放たれようとしていた。


その刹那。


ゴオオオオオッ!!


突如現れた激しい炎が渦を巻き、アンマンド・ストーカーたちを取り囲む。


アンマンド・ストーカーは激しい熱でセンサーを遮られ、困惑するように辺りを見回している。


困惑したのはこちらも同じだ。


突然の出来事に俺はまた夢の続きでも見ているのかと錯覚した。


「少し下がってて!」


声のする方を振り向く。


舞い上がる砂塵の中に、深紅の機体が立っていた。


体長4~5mほどの大きさで、人型の二足歩行ロボット。


その両腕からは今もなお、炎が生み出されていた。


「行くよ、イグニード!」


背中の搭乗口では、長い黒髪の少女がアンマンド・ストーカーを睨みつけていた。


深紅の機体が生み出す炎は激しさを増し、アンマンド・ストーカーの全身を覆いつくしていく。


紅蓮の炎に巻かれた金属の身体はその形を保つことができず、ドロドロと溶け出していく。


炎を消えた後には焼き焦げた砂漠と流動する金属の塊だけが残った。


俺は何か言葉を発しようとしたが、その圧倒的な光景に、乾いた唇を震わせることしか出来なかった。


この光景を作り出した張本人、少女とイグニードと呼ばれた機体がこちらへと近づいてくる。


彼女はイグニードの背から身を乗り出し、長い黒髪をなびかせながらニッと笑った。


「ちょっとやり過ぎちゃったかも。熱くなかった?」


喋りかけられたことで放心状態が解かれ、思考が蘇る。


まずはお礼を言わなければ。


「ありがとう。君が来なかったら俺は今頃ハチの巣だったよ。」


「どういたしまして! 私はハルカ。君は?」


「俺の名前はジンだ。」



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