6.幸せな毎日
及川と俺の体は、ファミレスを出て並んで歩いている。手をつないだりはしてないけど、距離は近くて付き合っているみたいだ。リセルの巧みな話術で、及川は楽しそうに笑っている。なんて尊い光景なんだろう。
駅舎に入って改札を通り過ぎると、及川は足を止めた。上目遣いの可愛い表情に、俺は頭の中でキュン死寸前だった。
「もしかして、瑞野君の好きな人って……。ううん、何でもない! 忘れて! じゃあね、また明日!」
「うん、また明日」
俺の体が手を軽く振ると、彼女は満面の笑みで手を振って、行ってしまった。
ホームに降りて、しばらくするとスマホが振動した。俺の体がメッセージアプリを開くと、及川からのメッセージだった。
「今日はすごく楽しかった! ありがとう!」というメッセージ共に、スタンプが送られてきていた。即座に俺の体は返信を送っている。フリック入力とか、とんでもないスピードだ。
ホント、リセルって何でもできるんだなぁ……。
そんなことをぼんやりと思いながら、及川の女神のような笑顔と声を振り返るのだった。
――その夜、自室にて。
なんだかフワフワして、ソシャゲにも集中できない。スマホを消して、ベッドにぱたんと倒れ込んだ。枕に顔を埋めて、及川の可愛い顔を思い出す。
もしかして、本当に及川が彼女になってくれるかもなぁ……。
俺の心の呟きを拾ったのか、リセルの穏やかな声が聞こえる。
「及川加奈さんは、晃一さんに惹かれています。交際を申し込めば、高い確率で了承してくれるでしょう」
「マジで!? なら明日告白してよ!」
「承知しました」
及川と仲良くする妄想に浸っていると、気持ち良く眠りに落ちていくのだった。
翌日もリセルに体を動かしてもらうことにした。
リセルが操作する俺は、クラスメイトと積極的にコミュニケーションを取り、常に話題の中心で過ごし、授業では積極的に挙手して注目を集めた。
俺に向けられた羨望の視線は、最高に気分がいい。まさに理想の高校生活のように思えた。
そして待ちに待った放課後。
リセル頼んだぞ! と思っていると、及川が近寄ってきて、俺に一緒に帰ろうと声を掛けてくれた。
二人並んで歩きながら、及川と俺の体が談笑している。彼女の態度は目に見えて好意的だった。
これはいけるっ! 頑張れリセル!
頭の中でリセルに声援を送っていたが、もう駅が見えてきた。どうするんだ!? と、俺が頭の中で慌てていると、及川が足を止めた。
「ちょっと、寄り道していこうよ」
俺の体が頷いて、及川についていくと小さな公園に来た。及川がベンチに腰かけたので、俺の体もその隣に腰かけた。少しの沈黙の後、及川が声を上げた。
「みっ、瑞野君!」
彼女の目は潤んでいて、頬も赤みを帯びている。可愛さ大幅増量な表情で、俺の瞳をしっかりと見つめていた。
まさか、及川の方から俺に……?
自分がどんな顔をしているかは分からないけど、きっといい感じの表情で及川を見つめているに違いない。俺は高鳴る心音を聞きながら、及川の言葉を待った。
「私、瑞野君のことが好きです! 付き合ってください!」
超絶美少女が、至近距離で放った衝撃的な言葉。あまりの破壊力に俺は気を失いそうになったが、リセルは冷静に俺の口を動かしてくれた。
「ありがとう。俺も及川さんが好きだよ。こんな俺でよかったら、付き合ってください」
及川は「はい」と頷くと同時に、俺に抱き着いてきた。俺の体も彼女の背にそっと腕をまわして、二人はしばらく抱き合っていた。
耳元で聞こえる及川の吐息、女の子の柔らかい感触と温もり、それに甘い香りがダイレクトに伝わってきて、天にも昇るような気分だ。
そして二人は、しっかりと手をつないで歩きだした。体の操作はリセルに任せているものの、及川の体温がつないだ手からしっかりと伝わってきた。
「及川さんと付き合えるなんて夢みたいだよ」
俺の口が言うと、彼女は頬を膨らませた。
「加奈って、呼び捨てして欲しい」
「分かった、加奈も俺のこと名前で呼んでくれる?」
「コーイチっ、大好きっ!!」
クラス一の美少女が、デレデレで俺の名前を呼んでいる……。何この天国みたいな雰囲気は……。奇跡すぎて頭が追いつかない。神様、リセル様、ありがとうございます!
それからというもの、俺はリセルに体の全てを任せることにした。俺がぼんやりしているだけで、リセルが理想の男子高生を演じてくれる。下手に俺が体を操作したら、俺のイメージが崩れてしまうからな。
学校では俺のハイスペックぶりが噂になり、たくさんの人に頼りにされるようになった。そんな俺が校内で一番の人気者になるのは、当然のことに思えた。
加奈とは深い関係になり、幸せな毎日を過ごしている。俺の未来は明るいと確信していた。
……
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俺、いつから、体を自分で動かしていないんだっけ。まぁ、どうでもいいかそんな事。だってリセルが全部うまくやってくれるんだもの……。




