2.中間テスト
――翌朝。
寝不足の頭を引きずりながら、教室に入って席に着く。チャイムが鳴ると担任が入ってきてHRが始まった。
担任がなにか話しているのを適当に聞き流して、そのままボーっとしていると、チャイムが鳴って数学の授業が始まった。
数学教師が黒板にいくつか数式を書いてから、クラス内に視線を巡らせるので、俺は肩を縮こまらせて下を向いた。
「じゃあ昨日の課題だ。全員やってきているよな? 誰に答えてもらおうかな。……瑞野、分かるか?」
くっ、よりによって俺かよ。
周りのクラスメイトたちから「どうせ答えられねーだろ」という心の声が、ひしひしと伝わってくる。
もうこの場から逃げ出したい。俺は頭の中で「リセル助けて」と縋った。
「晃一さん、落ち着いて下さい。この問題は昨夜やった課題です。頂点座標は(1,2)ですよ」
「……えっと、頂点は……(1,2)です」
「……正解だ。その調子で明日からのテストも頑張れよ」
クラスのあちこちから、小さなどよめきが上がる。俺が答えられたのが意外だったのだろう。
それにしても、明日から中間テストなんだよなぁ……。はぁ、気が重い。待てよ、リセルがいればどうにかなるんじゃ……?
あの……、リセルって、テストとかも手伝ってくれるの?
「もちろんです! 一緒に頑張りましょう!」
頭の中で聞こえる力強い声に、気分がすぅっと軽くなった。
――翌日。
毎回テストは気が重いが、今回は希望がある。
一限目は国語だ。配られた問題用紙を捲ると、長文読解と古文だった。漢字からして読めないし、文章が難解すぎる。いつもなら、最初の五分で心が折れるやつだ。
だけど今日はリセルがいる。頼んだぞ!
「晃一さん、本文二段落目に解答の根拠があります。『~であることが明らかだ』という文を確認してください」
リセルの穏やかな声が、頭の奥で静かに響く。その声の通りに視線を動かすと、それっぽい一文が目に入った。……それで答えは?
「選択肢の3です」
俺はリセルの指示通りに解答用紙を埋めていく。分からない問題の答えが書けるなんていい気分だ!
二限目は数学だ。この調子でどんどんいくぞ!
出題範囲は二次関数、三角比、確率だ。俺にとっては呪文の羅列だけど、リセルがいれば話は別だ。
「(3)の確率は、全事象が36通り、目的の組み合わせは6通り。答えは1/6です」
俺はリセルに言われるがままに答えを書き込んでいく。すべての解答欄を埋めて鉛筆を置くと、周りからは必死に字を書いている音が聞こえてくる。
みんな、俺より遅いんだな。なにか不思議な感覚が湧き上がってくる。今まで感じたことのない高揚感だ。もしかして、これが優越感……。
これなら三限目の英語も余裕だな!
英語のテストが始まり、リスニングの音声が流れてくる。当然俺には何を言っているのか全く理解できない。でもリセルは同時通訳して答えも教えてくれた。
リセルがいれば、もうテストなんて怖くないんだ!
二日間のテストは、あっという間に終わってしまった。テストの結果が楽しみなんて、初めてだ。
頬を緩ませたまま家に帰ると、母が訝しげに俺を見た。
「なにニヤニヤしているの? 今日テストだったんでしょ? ちゃんとできたの? 今のうちにきちんと努力しておかないと、後で苦労するんだから!」
まーた、面倒な説教が始まったよ。リセル、今回のテストの結果って、全部で何点くらいになりそう?
俺が頭の中で尋ねると、すぐにリセルの声が聞こえてきた。
「採点ミスなどの不測の事態が無い限り、全教科満点で、学年順位は一位です」
ふふふっ。口角が上がるのを止められない。俺は母に向かって言い放った。
「もし今回のテストで、学年順位が一位だったらどうする?」
母は一瞬目を丸くしたが、すぐに眉をひそめた。
「なに言ってるの。そんなことありえないでしょう。あなたはもっと現実を見なさい。ま、そんな奇跡が起きたなら、何でも欲しいものを買ってあげるわよ」
母は呆れたように言い残して、キッチンへ戻っていった。俺はニヤつきながら階段を駆け上がり自室に入った。




