疑念の影
その夜。
私はいつものように森の奥へ向かった。
遠く離れた渓谷なら、誰にも見つからないはず――そう思っていた。
けれど。
木陰に潜んでいた少年がひとり。
幼なじみのカイルだった。
「……やっぱり、ここに来てたか。」
彼は声を潜め、自分でも気づかれないように距離をとっていた。
私が両手をかざすと、水が宙に浮き、雷が弾ける。
そして大地が震える。
カイルの目が見開かれた。
(まさか……噂の“儀式の娘”……?)
――昔、村で聞かされた伝承。
六つの神の力を宿す少女が現れる、というもの。
それはただのおとぎ話だと思っていた。
だが今、目の前にいるのは――
「リアナ……なのか?」
彼の喉から震える声が漏れた。
その瞬間、私は振り向いた。
誰かの視線を感じて、全身が粟立つ。
「……!? だ、誰かいるの!?」
慌てて雷光を散らす。
カイルは咄嗟に木陰へ隠れ、息を殺した。
心臓が激しく鳴る。
目にした光景は信じられないものだった。
(もしこれが本当に……伝承の“器”だとしたら……)
村娘の幼なじみか。
それとも神に選ばれた存在か。
答えを出せず、カイルはその場を離れた。
けれど彼の胸の奥には、もう消せない疑念が根を張っていた。
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