ばれそうな嘘
夕暮れ時、私は泥と草のにおいをまとったまま村へ戻った。
腕や足には擦り傷、服には大きな破れ。
「ただいま……」
玄関を開けた瞬間、母の声が飛んできた。
「リアナ! その格好は何!?」
父もすぐにやってきて、目を見開いた。
「まさか……森で何かあったのか!?」
心臓が跳ねた。
(ど、どうしよう……熊と戦ったなんて言えるわけない!)
慌てて笑顔を作り、口を開いた。
「えっと……あの……すっ転んじゃった!」
「転んだだけでそんなに破れる!?」
母が眉をひそめる。
「う、うん! あのね、石につまづいて……で、その石がこう、ゴロゴロって転がってきて……」
自分でも苦しい言い訳をしながら、身振り手振りで説明する。
父は腕を組み、真剣な顔でうなずいた。
「……つまり、石と戦って負けたのか。」
「ちがうよ!」
思わず叫んでしまい、母が吹き出した。
「ふふ……まぁ、元気そうだからいいけど。」
母は包帯を持ってきて、私の腕に巻いてくれた。
私は視線をそらしながら、小さくつぶやいた。
「(ごめん……本当は熊だったんだ……)」
――けれど、この小さな嘘が、後に大きな出来事へとつながっていくことを、私はまだ知らなかった。
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