秘密の力
夜明け前。
私は村を抜け出し、森の奥へと足を進めた。
誰にも見られない場所……子どもの頃、ひとりで遊んだ崖の下。
深呼吸をして、右手をかざす。
「……出てこい。」
次の瞬間、青白い稲妻が走り、木の幹を焦がした。
耳をつんざく轟音に思わず後ずさる。
「こ、これが……私の中の雷……」
震える手を押さえ、今度は集中する。
足元に小さな水たまりがあった。
じっと見つめると、水面が揺れ、やがて竜巻のように立ち上がる。
「うそ……水まで……?」
心臓が早鐘を打つ。
胸の奥から熱が広がり、別の力が求めるようにあふれ出す。
「や、やめ――」
だが止まらなかった。
大地が揺れ、足元の岩が砕けて跳ね上がる。
崖全体が低く唸りを上げ、鳥たちが一斉に飛び立った。
私は膝をつき、荒い息を吐く。
「こ、こんなの……危なすぎる……!」
けれど、同時に分かってしまった。
これは本物だ。
雷、水、大地……昨日の儀式で与えられた力は、確かに私の中にある。
「……でも、誰にも知られちゃいけない。」
木々の影の中で誓う。
この力は秘密。
そして――必ず、制御してみせる。
朝日が森を照らす頃、私は静かに村へ戻っていった。
背中に、まだ消えない稲妻の余韻を残しながら。
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