伝承
夜。
家の灯りは消え、ただ暖炉の火だけが揺れていた。
父と母は向かい合い、私をその間に座らせる。
沈黙が重くのしかかり、やがて父が口を開いた。
「リアナ……お前に隠していたことがある。」
母が続けた。
「昔からこの村に伝わる伝承よ。
――六大神の力は、いつかひとりの娘に宿る、と。」
心臓が跳ねた。
それは、まるで昨日の儀式をそのまま語っているかのようだった。
「その娘は“器”として崇められるか、
あるいは“兵器”として奪われるか……」
父の声は低く、重い。
「王国も、帝国も……もしお前の力を知れば、必ず利用しようとするだろう。」
母は私の手を握り、真剣な瞳で告げた。
「だから、リアナ。力は隠しなさい。そして、少しずつ自分で学ぶの。
制御できなければ、いつかきっと……あなたを奪われるわ。」
胸の奥が痛む。
私はただの村娘だったのに。
けれど、今は六つの神の力を抱えている。
「……わたし、本当に守れるかな……?」
父は短く答えた。
「大丈夫だ。俺たちがいる。」
暖炉の火がぱちぱちと弾ける音だけが響く夜。
その小さな家の中で――私の運命が静かに形を取り始めていた。
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