儀式の夜
月明かりだけが照らす古代神殿。
石の柱にはひびが入り、壁一面に刻まれたルーンが淡く光を放っていた。
村娘である私――リアナは、ただ水を汲みに来ただけだった。
けれど、気がつけば足は勝手に奥の祭壇へと導かれていた。
「……これは、何?」
祭壇の上には六つの宝珠。
赤、青、緑、金、黒、白。
それぞれが脈動するように光り、まるで心臓の鼓動を響かせている。
――そして始まった。
低い声が重なる。
雷鳴のような声、優しい囁き、怒りに満ちた咆哮、深海のざわめき。
それは、神々の声だった。
『汝に与えよう、我らの力を』
雷が私の腕を走り、海の匂いが胸を満たし、視界に見知らぬ未来の断片が流れ込む。
身体が焼けるように熱く、同時に氷のように冷たい。
「やめて……! わたしはただの村娘なのに……!」
叫んでも、儀式は止まらない。
宝珠が砕け、光の矢が私の身体へと突き刺さっていく。
雷神トールの力。
女神フレイヤの加護。
知恵の王オーディンの眼。
海皇ポセイドンの支配。
女王ヘラの権威。
そして、女神イシスの秘術。
六つの力が交錯し、私の中で渦を巻く。
最後に響いたのは、冷たい宣告のような声。
『選ばれし器よ。汝の運命は、もはや汝だけのものではない』
視界が白に染まり、私は崩れ落ちた。
夜空に轟く雷鳴とともに――新たな「神の継承者」が生まれたのだった。
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