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9-4(20階層ヒュドラ2).

 黒くなった床は元に戻っている。毒エリアは消えた。だが、これからが本番だ。


「みんな、こっちだ!」


 もう一度みんなに声を掛ける。 みんな頷いている。記憶している場所はまだ少し離れたところだ。ヒュドラの攻撃を盾で防御しながら少しずつ移動する。


「紫の頭に注意だ!」

「レオ!! 先に青がくるよ!」


 サラが鋭く叫んだ! サラの言葉に俺は慌てて青い頭を見た。首がうねっている。くそー! 運が悪い。このタイミングで…。


「集まれ!」


 みんなが俺の盾の後ろの集合しようと急いで移動する。


「もう来るよ!!」


 サラが再び叫ぶ!


 俺は盾を構えて氷のブレスに備えた。


 ゴゴゴゴゴォォォォー!!


 青い頭が口から氷のブレスを吐いた。アルスは既に俺の盾の後ろにいる。アディとサラは…。


「『大範囲回復』!」


 アディとサラは、アディの出現させた回復エリアを通って俺の後ろまで滑り込んだ。それでも氷のブレスで『大範囲回復』で回復する以上のダメージを受けている。


「『大回復』!」


 アディはすぐにサラに回復魔法スキルを使うと自分は中級ポーションを飲んだ。アディがポーションを飲むのは既に2回目だ。ボス戦でポーション類を使えるのは3回までだ。CTだってある。二人とも息が荒い。


「サラ、よく気がついたな。サラのおかげで生き延びたよ」

「へへ…」


 サラが注意喚起してくれなかったら危なかった。俺は70%で来る攻撃のほうに注意を取られていた。


「今度こそ紫だ!」


 俺をそう言った瞬間、紫の頭の周り紫の雲のようなものが覆っているのが見えた。雲が時々バチバチと光っている。これは安全地帯に逃げるしか防ぐ手段のない理不尽な攻撃だ。


 安全地帯は…。


 しまった。さっき氷のブレスを避けるために移動したので目ぼしを着けていた場所が分からなくなってしまった。安全地帯はこの攻撃が来る前の毒攻撃で毒の床になった場所の内、薄く光っていた場所だ。3カ所ある。さっきまで覚えていたのに…。


「レオ、こっちよ!」


 アディが駆けだした。俺、アルス、サラはアディに続く。


「ガアアアアアァァァーーーーー!!!」


 ヒュドラが叫ぶ。


 バリバリバリバリバリバリバリバリ!!!!!!


 頭上から無数の稲妻が降ってきた。『天雷』にそっくりな攻撃だが『天雷』より規模が大きく強力だ。稲妻そのものだけでなく稲妻が当たった床も眩しく光る。


 眩しい…周りが見難い…。


 そうでなくても、これだけの数の稲妻を避けることは絶対に不可能だ。


「助かった…。アディよく覚えていたな」


 俺達はアディのおかげでこの攻撃がくる前にギリギリで安全地帯まで移動することができた。ここには稲妻は降ってこないし硬直効果も無効化される。


「床にね、特徴的な模様があったのよ」

「でも床って変な模様だらけだよね。とても覚えづらいよ」とアルス。


 アルスの言う通りで床は不規則な模様で覆われている。


「安全地帯になった場所の一つにね。アルメッサー辺境伯家の家紋にちょっと似た模様があったの。それを覚えていたのよ」


 なるほど…。


 とにかく俺達はアディのファインプレーで最も危険な攻撃の1回目を乗り切った。ヒュドラはこの攻撃をHPが70%、40%、10%の時に使ってくる。特にHP10%の時は狂乱状態と重なっているので厄介だ。


 俺達は、その後も集中を切らさないように戦った。みんな、少しずつ慣れてきている。それにしても注意しなければならないことが多すぎる。一瞬たりとも気が抜けない。


「『挑発』!」


 俺のすべきことはとにかくタゲを維持することだ。俺は『集中』と『雷剣』も使いながら時々攻撃してタゲが剥がれないように細心の注意を払っている。みんなの攻撃力も上がっているので『挑発』頼りというわけにもいかない。


「『跳躍斬り』!」


 ドス!


「やったね、アルス!」


 そうこうしている間に、アルスがヒュドラの首の一つを斬り落とした。赤い頭だ!


 これで炎のブレスはもうこない。白い頭を斬り落としても一定の時間内に倒さないとヒュドラは再生を始めてしまう。なので、相手の攻撃手段を減らしてHPを削るのを急ぎたい。ヒュドラ戦は慎重すぎてもダメなのだ。『迷宮物語』でも上手く行っていたのに制限時間に間に合わず失敗することがあった。この辺のバランスはゲームとして見ればとても良くできている。 


 ヒュドラの頭は、まだ7つも残っている。もう少し急がなくては…。


「アルス、次はあれだ!」


 俺は、一番近い通常の頭を剣で指した。本当は氷のブレスを吐く青い頭を落としたいところだが、仕方がない。時間制限もある。ちなみに紫の頭は『天雷』に似た攻撃をすべて使い終わるまでダメージを受け付けない。そして黒い頭は『天雷』に似た攻撃がすべて終わるまで残しておく必要がある。安全地帯がわからなくなってしまうからだ。この仕様を知っていなければ絶対にクリアできない。


 俺の指示した頭に全員が攻撃を集中する。


「『チャージショット』!」

「『炎槍』!」

「『風刃』!」


 俺はCT毎に『挑発』を使う。『集中』と『雷剣』もだ。


「『二段斬り』!」


 ドスン!


 俺の『二段斬り』でまた一つ頭が斬り落とされた。あと6つだ…。


「次はあの頭だ!」


 同じような要領で俺達は頭を落としていく。


「『チャージショット』!」


 サラの矢が光った。クリティカルだ! サラの矢が当たった首の辺りからヒュドラの頭が千切れるように切り離されて宙を舞った。


「あと、5つだ!」


 その間にも大回転する全体攻撃や氷のブレスが襲ってくる。アディの回復魔法スキルもあって今のところ無難に乗り切っている。 


「ぐおおおぉぉぉーーー!!」


 アルスの『跳躍斬り』が決まってまた頭が一つ床に落下した。 


「あと、4つだ!」


 頭はあと4つまで減った。紫の頭、黒い頭、青い頭、そして普通のが一つだ。


 だが、時間が容赦なく経過する…。


 制限時間に間に合うだろうか…。


「黒だ!」


 毒攻撃の時間だ!


 俺の言葉に全員黒い頭に集中する。その後、次々と吐き出された毒の塊を4人とも無難に避けた。床が毒で黒く変色している。3か所だけ薄く光っている。


「あそこに移動だ!」


 俺は薄く光っている場所の中で一番近い場所を示す。といっても3か所ともかなりボス部屋の端の方にある。『迷宮物語』でもいつもこんな感じだった。


 意地の悪い仕様だ…。これをプログラムした奴の性格がわかる。


 しばらくすると床が元の状態に戻った。もちろん、俺は安全地帯の位置を記憶している。


 そろそろだ…。


「来るぞ!!!」


 俺は叫ぶ! 40%の『天雷』に似た攻撃が始まった。俺達は既に安全地帯にいる。


「今回は、この攻撃の直前にブレス攻撃が来ることもなかったね」


 俺達は安全地帯で『天雷』に似た攻撃が過ぎ去るの待つ。


「ああ、1回目は運が悪かった。あの時はサラのおかげで助かったよ」


 俺は改めてサラに感謝した。実際、この『天雷』に似た特殊攻撃がブレス攻撃と重ってしまうと『迷宮物語』でもやり直しになることが多かった。

 サラは視野が広い。あの時、よく青い頭を見ていたものだ。俺はと言えば直前の毒攻撃で確定した安全地帯を覚えることに注意を奪われて他のことは見えていなかった。


「これが来たってことはもう40%を切っている。いよいよ狂乱状態が近い。気を引き締めて行こう」


 俺は自分に言い聞かせるように言った。


「『呪いの矢』、『チャージショット』、『剛射』!」


 俺に頷きながら、サラは安全地帯から攻撃している。『剛射』はサラが新しく覚えた硬直効果のある攻撃だ。アルスが覚えた『剛剣』にも硬直効果がある。


「そっか、ここから攻撃すればいいのよね」


 アディがそう言ったのを合図に俺達は安全地帯から次々に遠距離攻撃を使った。


「『雷弾』!」

「『炎弾』、『炎槍』!」

「『風刃』!」

「『強射』」


 そうだった…。『迷宮物語』でもここは遠距離攻撃のチャンスだった。忘れていた。それにしてもサラは、さっきの70%の時といい冷静だ。サラには失礼だが俺はサラを見直した。


 40%の『天雷』似た攻撃が終わった後も俺達は冷静に立ち回り、もう一つ頭を落とした。残りは紫、黒、青の3つだ。


「そろそろ20%を切る。みんな俺の後ろに」


 3人は攻撃しながら徐々に俺の盾の後ろに移動する。 


 ヒュドラの体全体が薄く発光している。


 狂乱状態だ!!

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