8-8(エピローグ~セルゲイ).
ちょっと投稿が遅くなりました。
「どうやら、今回の魔獣狩りにはギグス王国とミタリ帝国が関係していたようです」とアランが言った。
僕達は領都リュスの僕の屋敷でアランから報告を受けている。アランは商会『B・リュス』の副会頭であると同時にヴィガディール男爵家の家宰という地位にある。アランの隣には従者団の隊長であるラングレーもいる。
「ギグス王国とミタリ帝国がっスか?」
「はい。ピエール様、実行犯がギグス王国で背後にいたのがミタリ帝国です」
「『魔物寄せの香』が焚かれていたんですものね」とプリマドンナが言った。
『魔物寄せの香』は使うと魔物や魔獣を集めることができるといわれている。リアブルク連合国にあるプロブニスなどと同じ古代文明の遺物の一つだ。
「いえ、マリア様、焚かれてはいません。その前にクリスティナ王女の陣営に参加していたカイル探索者養成学園の生徒によって防がれております」
アランから説明を詳しく聞いてみると、どうやらその生徒とは主人公とシルヴィア・ギルリームのようだ。シルヴィアは主人公が仲間にできるNPCの一人だから主人公に協力してもおかしくない。
「『魔物寄せの香』をミタリ帝国が所有していることは知られています。そして、実際に使おうとしていたのはギグス王国の工作員で捕縛されております」
捕縛…。だが、魔獣は大量に出現し魔獣狩りは行われた。そもそも…。
「ねえ、そんな設定『迷宮物語』でも聞いたことがないわね」
プリマドンナが僕の耳元で言った。僕は黙って頷いた。マエストロも考え込んでいる。
「裏設定みたいなもんっスか…」
マエストロの呟きが耳に入った。裏設定、確かにそうなのだろう。ということは、あれでも予定されていた魔獣の数より少なかったということか…。だから生きて帰ってこれたのかもしれない。だが、事前に防がれたということは、やっぱり主人公の近くに転生者がいる可能性が高い。裏設定まで知っているとしたら、やっぱりコレオグラファーなのか? もしかしたら主人公自身が…。
まあ、今はこれ以上考えても仕方がない。そこで僕は話題を変えた。
「それから、ラングレー、アルバート殿下の撤退についてはよくやってくれた」
「いえ、セルゲイ様達の奮戦のおかけです」
「うん。それよりイリヤの怪我の様子はどうだ?」
イリヤはラングレーと同じくプリマドンやマエストロと会う前の僕のパーティーの一員で、一緒にバセスカ迷宮の10階層のボスをクリアした仲だ。
「ご心配頂きありがとうございます。セルゲイ様のおかげで上級ポーションを使うことができましたので、全快にはもう少し時間が掛かりそうですが、問題ありません」
「そうか…。良かった」
上級ポーションは、この世界ではめったに使われることのない超高級アイテムだ。普通は貴族、それもかなり高位の貴族にしか使われない。それをイリヤに使ったのでラングレー達も感動していた。でも、僕にとっては当然のことだった。
それに、グレアムが大怪我をした時には寿命が縮むほどのショックを受けた。自分でも不思議だった…。僕は既に回復してこの場にいるグレアムを見る。本当に良かった。
「それで、市井の様子はどうだ、アラン?」
僕はあまり良い返答が得られないだろうなと思いながらアランに質問した。
「はい。やはりストレイド王太子の評価が高まっています」
「だろうな」
コート伯爵領の領都やここリュスでは魔獣狩りの噂で持ち切りだ。アマデオ侯爵の騎士団やコート伯爵家の従者団など地元勢も魔獣狩りには参加していたのだから噂が広まるのは当然だ。もともとそれがゴドウィン王の狙いでもあるのだ。近いうちに王都カイルでも同じようなことが噂されるだろう。
「ストレイド王太子の親衛隊はあの魔獣達に全く怯まず撃退したんだから当然よね。しかも私達やクリスティナ王女の陣営まで助けたんだから」
「マリア様。私にも親衛隊の強さは尋常ではないものに見えました。親衛隊の何人かはジギルバルト団長並みの強者ではないかとさえ思いました。それに親衛隊だけでなくストレイド王太子自身が…」とラングレーが口を挟んだ。
「結局、一番評価を上げたのがストレイド王太子、次が『魔物寄せの香』を発見してギグス王国の工作員を捕縛したクリスティナ王女の陣営ってことっスね」
マエストロが言い難いことをはっきりと口にした。しばらくの間、場を沈黙が支配した。その後、アランとラングレーはいくつかの報告をした後、僕の指示で部屋を出て行った。
「ストレイド王太子とその親衛隊、何者っスかね?」
アランとラングレーが部屋を出るとマエストロがこの場の全員が思っていることを真っ先に口に出した。
「私達の計画は大きく後退したみたいね」
僕達の従者団を上回る強さの集団が存在する。数も多い。あんな集団を組織できるとは転生者が関係しているとしか考えられない。
「コレオグラファーかしら?」
「あり得るが…」
あのコレオグラファーなら、ダゴン迷宮に負けないらい早くレベルアップできる方法を知っていてもおかしくない。『迷宮物語』でも多くのサブキャラを育てて利用していた。
「ただ、なんとなくなんだけど、コレオグラファーはやっぱり主人公やアデレードの近くにいるような気がするんだ」
「インプレサリオの勘が当たっているとすれば、他にそんな方法を知っていそうなのは…」
「マスターっスね」
マスターとは僕のことではない。常勝軍団『TROF』の唯一のライバルといっていいクラン『流浪の傭兵団』のクランマスターのことだ。謎の多い人物だ。
「だけど、方法を知っているだけでは…」
「プリマドンナの言う通りっス。方法だけでじゃなくて人材を集める手段が必要っス」
「だから、それがストレイド王太子、正確には王太子の権力ってことなんだろう」
「なるほどっスね」
とにかく僕達『TROF』以外にも転生者がいるのは間違いない。ストレイド王太子やその親衛隊だけじゃなく、アデレード生きている件もある。僕は『大範囲回復』を使い、炎属性の攻撃魔法スキルまで使っていた少女の姿を思い浮かべた。かなりの強さだった…。主人公はもちろんアデレード以外の主人公の仲間達だって…。
「コレオグラファーはともかく『流浪の傭兵団』もこの世界に転生しているとすれば厄介ね」
「俺達と同じで、幹部だけがこの世界に呼ばれたとしても、マスターがいるっスからね」
『流浪の傭兵団』のクランマスターは、ただマスターとだけ呼ばれていて、他のクランからも恐れられていた。陣営戦そのものではそれほど活躍していた印象はない。ただ、その前の諜報活動や情報戦では何度かコレオグラファーを出し抜いたことさえあった。実際にマスターが僕達と同じ時期に『迷宮物語』を始めていれば『TROF』も安泰ではなかったと言われていたのだ。
「ねえ、もしかして…アデレードがマスターって可能性はないかしら?」
そうか…。マスターは女性だという噂だった。僕達は全員転生しても前世と性別は変わっていない。僕を訪ねてきたエトワールやヴィルトゥオーゾだってそうだった。
「俺、学園で何度かアデレードとは話したことがあるっス。正直、アデレードがマスターとは思えないっスね。さっきインプレサリオが言ったように『流浪の傭兵団』の奴らがこの世界に転生しているとしたら、やっぱりストレイド王太子の周辺のほうが怪しい。俺はそう思うっス」
どっちにしても、ストレイド王太子とその親衛隊の強さにはコレオグラファーかマスター、どちらかが関わっているはずだ。
「なんにしても、僕達は負けるわけにはいかない。ただ、時間が必要だ。魔獣狩りで今の力関係がはっきりとした。ストレイド王太子が何者なのかは置いておいても、僕達はその何者かに遅れている」
「残念ながらそうみたいね」
「だけど、時間があれば逆転できる」
「そうっスね。こっちにはダゴン迷宮があるしグレアムもいるんっスから」
そう、これから先のほうがダゴン迷宮の効果がより生きる。いくら早くレベルアップする裏技のような方法を多く知っていてもレベルが高くなるほど上がりずらくなる。ダゴン迷宮があればいずれ追いつく。それに、いくら優秀な人材を集めてもグレアムほどレベルは上がらない。
「奴らは王太子という恵まれた立場を利用してリードしているだけだ。僕達は必ず追いつける!」
プリマドンナとマエストロの表情に明るさ戻った。僕の言葉にうんうんと大きく頷いている。おそらく、この世界ではまだ伝説職やレベルキャップは解放されていない。それなら、時間があれば必ず追いつけるはずだ!
ここまで読んで頂きありがとうございます。これで第8章は終わりです。明日から最終章に入ります。最終章はこれまでの章より少し長めです。もう少し続けたい気もするのですが、だらだら長引かせるのもどうかと思うので、当初の構想通り締めくくりたいと思います。最後までより面白くなるように頑張ります。
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拙作「ありふれたクラス転移~幼馴染と一緒にクラス転移に巻き込まれた僕は、王国、魔族、帝国など様々な陣営の思惑に翻弄される…謎解き要素多めの僕と仲間たちの成長物語」と「乙女ゲームの断罪の場に転生した俺は悪役令嬢に一目惚れしたので、シナリオをぶち壊してみました!【連載版】」も読んで頂けると嬉しいです。




