8-6(魔獣狩り3~セルゲイ).
僕達は、なんとかアルデ樹海を出て平原まで撤退してきた。魔獣たちも僕達を追ってアルデ樹海から次々に出てくる。まだ危機は去っていない。
そんな僕達の方にクリスティナ王女の陣営から何人かが近づいてきて僕達を援護し始めた。僕達と同じ年くらいの少年少女だ。正直ありがたい。
「あ、あれは学園の…」
マエストロの様子から、それが主人公を含むカイル探索者養成学園の生徒だとわかった。しばらくすると、マエストロと学園の生徒の一人が並んで盾役を務め始めた。『迷宮物語』を思い出す。どうやらあれが主人公らしい。確かレオニードだったか…。
「『大範囲回復』!」
僕のすぐそばまで近づいてきた少女が僕にも使えない『大範囲回復』使った。盾役をしているマエストロと主人公の足元に光る回復エリアが現れた。この少女は神官なのか?
「あ、貴方は?」
「私の名はアデレードですわ」
アデレード…。
そうか…この少女が一年生の時に死んでいるはずだった4大貴族アルメッサー辺境伯の娘なのか…。僕達はアデレードが転生者、それもコレオグラファーと関係があるのではと疑っている。そう、あのコレオグラファーと…。
「貴方が抱いている方は大丈夫なのかしら?」
そう言われて僕はグレアムを見る。顔に少し赤みが戻ってきている。
「だ、大丈夫みたいです」
「そう良かったわね。貴方にとってよほど大切な人みたいね」
グレアムを抱きしめている僕を見てアデレードが言った。グレアムが…大切な人…。
「シルヴィアさん、大丈夫?」
「こっちは大丈夫よ」
アデレードが少し離れた場所で氷属性魔法を使っている少女に声を掛けた。シルヴィアということはシルヴィア・ギルリームか…。それなら氷属性魔法が得意なことも頷ける。それにしてもシルヴィアの攻撃魔法スキルは威力が高い。さすが主要キャラクターの一人だが、それにしてもちょっと強過ぎじゃないだろうか? そのシルヴィアが僕の方をチラッと見た。どこかで会っただろうか?
「『炎槍』!」
なんだって!
アデレードが炎属性の攻撃魔法スキル『炎槍』を使った。さっきアデレードは僕もまだ覚えていない『大範囲回復』を使った。だから、僕はアデレードが神官なのかと思ったのだ。神官は『範囲回復』を覚えられるだけでなく強化して『大範囲回復』にすることもできる。だが、アデレードは攻撃魔法スキルを使った…。
しかも、アデレードの使った『炎槍』はかなり威力が高かった。まさか、最上級職の賢者になっているのか? いや、いくらなんでもそれは…。ダゴン迷宮を持つ僕達でさえ、最上級職には最近なったばかりだ。
「『跳躍斬り』、『回転斬り』、『3連撃』!」
巨大魔獣の側面から主人公の仲間らしい剣士が『跳躍斬り』で一気に距離を詰めると威力の高いスキルを次々に使って攻撃している。この剣士の少年もなかなかの強さだ。たぶん上級だ。マエストロと主人公のレオニードの二人はしっかりとタゲを維持している。いい連携だ。『迷宮物語』での光景が頭をよぎる。
「『チャージショット』!」
学園の生徒には弓を使っている少女もいる。
「『刺突』、『3連突き』、『大薙ぎ払い』!」
プリマドンナが喜々として槍を振っている。タゲが安定してきたので、プリマドンナもその本領を発揮している。
「ぐおおぉぉーー!!!」
巨大魔獣がこれまでより長く咆哮する。巨大魔獣は苦しんでいる。だが、巨大魔獣も粘る。迷宮ボスと違って特殊攻撃のようなものはないが、その巨体と体力は脅威だ。
「『挑発』!」
「『ガード』、『シールドバッシュ』!」
暴れる巨大魔獣に対してマエストロと主人公の二人が必死にタゲを取って抑え込もうとしている。巨大魔獣のHPはずいぶん多い。『迷宮物語』でもプレイヤーが群がって倒していたんだから当然だ。マエストロと主人公の頑張りに応えるようにアデレードやシルヴィア、それに主人公の仲間達、それにプリマドンナが背後や側面から攻撃している。
僕もグレアムを腕に抱いたまま戦闘に参加する。僕はCTが空ける度に『大回復』と『範囲回復』を使っている。それを見たアデレードは回復は主に僕に任せて攻撃魔法スキルを使っている。
いつの間にかラングレー達従者団も巨大魔獣との戦いに加わっている。
それからも、時間は掛かった。だが、さしもの巨大魔獣も僕達と主人公達の連携の前に確実にHPを削られ、その最後が近づいてきた。もともとこいつは巨大で力が強くHPも多いが、逆にいえばそれだけの魔物だ。
「ぐおおおぉぉぉーーーーーん!!!」
予想通り、それからしばらくして巨大魔獣は一際長く咆哮すると地面に伏した。巨大魔獣が倒れた振動が地面から体に伝わってきた。その死体は小山のようだ。迷宮ボスと違って死んでも魔石にはならない。
「まだ、魔獣達の数は多い。油断するな」
主人公の声が辺りに響く。
主人公の言う通りだ。魔獣の数はまだ多い。それにどんどんのアルデ樹海から出て来る。巨大魔獣ほどじゃなくても一体一体が王国騎士達より遥かに強いのだ。
「レオ、ジギルバルト団長達と合流しましょう!」
アデレードの言葉に主人公のレオニードが「わかった」と頷いた。
まだ魔獣の数は多い。アデレードの言う通りで固まって相手をしたほうがいいだろう。
「マエストロ、プリマドンナ、あっちだ!」
僕達もアデレード達の後を追ってクリスティナ王女の陣営の方に駆け出した。ラングレー達従者団やアルバート殿下陣営の騎士達も僕達に続く。というか、アルバート殿下は既にクリスティナ王女と合流して何か話をしている。
「男爵、無事だったか」
やっとクリスティナ王女の本陣まで辿り着いた僕にアルバート殿下が言った。無事だったかと言いながらアルバート殿下の顔には僕の無事を喜ぶ様子はない。むしろ落胆の表情が見える。当然だ。この魔獣狩りで存在感を示すどころか最初に陣が崩壊したのだから…。
「その方は?」
クリスティナ王女が僕が抱いているグレアムを見て言った。
「僕の大切な仲間です」
クリスティナ王女は「そうですか」と頷くとグレアムに『超回復』をかけてくれた。
「ありがとうございます」
僕はクリスティナ王女にお礼を言った。もともと僕の回復魔法スキルでだいぶ顔に赤みが戻っていたグレアムはすっかり普通の顔色になった。もう、大丈夫だろう。
本当によかった…。
「クリスティナ様、ここも危険です。これ以上の魔獣狩りは諦めて撤退しましょう。被害が大きすぎます」
「ですが、ジギルバルト、この数の魔獣が街に向かったら…」
この人が王国騎士団長のジギルバルトか…。クリスティナ王女に撤退を進言するために本陣まで戻ってきたらしい。
クリスティナ王女は迷っている様子だ。その時「ううー」とうめき声が聞こえてグレアムが目を覚ました。
「セルゲイ様…」
「グレアム、無事で良かった」
グレアムは僕に抱かれている状態を認識すると、慌てて「もう、大丈夫です」と言って自力で立ち上がった。
「魔獣達が迫ってきます!!」
騎士の誰かが叫んだ。
「ジギルバルト、やっぱりこの数の魔物を街に入れるわけにはいきません」
「わかりました」
ジギルバルト団長はクリスティナ王女の決断に頷き戦闘に戻った。クリスティナ王女の言葉には人を従わせる不思議な力がある。僕達もクリスティナ王女の言葉に自然と従い、すっかり回復したグレアムも含めてまた戦闘に戻った。主人公達もだ…。
「ラングレー!」
「はい!」
従者団も僕達に続く。
「『挑発』!」
「『挑発』!」
マエストロと主人公が『挑発』を使って魔獣たちを集めるように移動している。そして魔獣たちが集まったところを…。
「『氷槍』、『氷矢雨』!」
「『炎槍』!」
「『チャージショット』!」
「『黒炎槍』!」
魔獣が固まっているところへ主人公の仲間達とグレアムが遠距離魔法スキルを使って攻撃する。それでも魔獣の数は多い。それにほとんどの騎士のレベルは魔獣より低い。
それでも魔獣たちの間の飛び込んで剣や槍を振るっている者もいる。主人公と仲間の剣士、プリマドンナ、そして王国騎士団長のジギルバルト、そんな面々だ。
グレアムの魔法スキルを見たシルヴィアが驚いたようにこっちを見た。まあ、他に使える者がいない攻撃魔法スキルだから当然だろう。
「『大回復』、『範囲回復』!」
僕は回復に特化する。僕は最上級職になるに当たっては回復の専門職である聖者を選択した。そのおかげで『範囲回復』を使えるようになったが、まだ強化まではできていない。最終的には聖者なら『超範囲回復』やクリスティナ王女が持っている『超回復』も使えるようになるはずだ。
「まずいな…」
誰かの呟く声が聞こえた。実際、一部の者の奮闘にも関わらず押されている。
「『超回復』!」
怪我の酷い者にクリスティナ王女が最上級回復魔法を使う。
「これ以上は…」
クリスティナ王女は撤退するかどうか迷っている…。
その時だった!




