8-5(魔獣狩り2~レオニード).
アルディス山脈の麓に広がるアルデ樹海の中からアルバート殿下の持ち場のほうに現れたのは巨大な魔獣だ。巨大な魔獣は群がる騎士達を吹き飛ばしながら歩いている。特に変わった攻撃とかはしていないが、巨大魔獣が尻尾や頭を振るたびに多くの騎士が悲鳴を上げて跳ね飛ばされている。
少し前にアルバート殿下陣営の騎士達がアルデ樹海の中から撤退してきた。アルバート殿下の陣営の騎士はかなり数を減らしているように見えた。
俺達はといえば最初からアルデ樹海の浅いところまでしか入らず、大量の魔獣が現れたのを確認するとすぐに撤退していた。
「レオニードの言う通りになったわね」とクリスティナ王女。ジギルバルト団長がクリスティナ王女に頷くと「早めにアルデ樹海を出て正解だった」と言った。
クリスティナ王女とジギルバルト団長は俺とシルヴィーの意見を聞き入れて。アルデ樹海に深入りせず、早めに樹海を出ると広い平原で遠距離攻撃を中心に魔獣達と戦っている。
「『氷弾』、『氷槍』、『氷矢雨』!」
「『炎弾』、『炎槍』!」
「『強射』、『チャージショット』!」
シルヴィーとアディが魔法スキルを大量の魔獣達の間に打ち込んでいる。サラも遠距離から攻撃している。その3人を守るのが俺とアルスの役目だ。それに俺とアルスも魔法スキルを持っている。
「『風刃』!」
アルスが3つの風の刃をかなり離れた場所から魔獣達に放つ。
「『雷弾』!」
俺もアルスに続く。『天雷』は既に使ってしまった。MPの関係で2発目はすぐには無理だ。
俺とジギルバルト団長は最初にアルデ樹海から大量の魔物が出てきた段階でそれぞれ『天雷』と『超炎爆陣』を使ってかなりの数の魔獣にダメージを与えた。そこを、クリスティナ王女陣営全員で集中的に攻撃してかなりの数の魔獣を短時間で減らしたのだ。
最初から考えていた作戦だ。
その後は、広い平原を利用して一旦魔獣から距離を取って遠距離攻撃主体で戦っているというわけだ。
「『大範囲回復』!」
アディが『大範囲回復』を使った。アディがこれを持っていることは大きい。いくら平原まで逃げても大量の魔獣から完全に距離を取ることはできない。どうしても俺達は頻繁にダメージを受ける。特に騎士達の大半は魔獣達より圧倒的にレベルが低い。そこで、アディが『範囲大回復』で多くの騎士達を一度に回復している。『大範囲回復』はその範囲内に入りさえすれば一度に何人でも回復できる。しかも、酷い傷にはクリスティナ王女の『超回復』がある。
俺は、アルバート殿下の陣営を方を見る。
周りの者達に比べて頭一つ抜けて強者だと思われる3人が先頭に立って巨大な魔獣と対峙している。
そのうちの一人は…。
「あれは、ピエールか…」
「マエストロね」とシルヴィー。
あの強さは…。やっぱりピエールがマエストロだったんだな…。じゃあ、あとの二人がインプレサリオとプリマドンナか…。見たところ、俺よりはレベルが低いがアディ達よりは上だ。たぶん、3人とも最上級職になっている。ダゴン迷宮のおかげだろう。インプレサリオは回復役のようだがその手に仲間らしい少年を抱いている。
「レオ、あの魔獣って?」
アディが俺の腕を掴んで聞いてきた。声からもアディの緊張が感じ取れる。
「あれは…ネームド? だよな…」
「ネームド?」
アディが不思議そうに訊く。
「魔獣狩りの時に定期的に現れる大物ね」
そう答えたのはシルヴィーだ。
『迷宮物語』での魔物狩りは1000人以上のプレイヤーが次々と出現する魔獣を討伐するイベントだ。その貢献度に応じて報酬が貰える。『迷宮物語』全盛期には1000人どころではないプレーヤーが魔獣狩りに参加していたが複数のサーバーに分かれていた。さらに、同じサーバーでも複数のチャンネルが存在していたので一つの場所での参加人数は多くて1000人くらいまでだったと思う。
「シルヴィー、この場所で行われる初回の魔獣狩りってレベル40くらいのプレイヤーのためのものだったよな?」
「そうね。そのくらいのレベルのプレイヤーなら問題なく倒せる魔獣が出現するってことだね」
ちなみに魔獣とは獣系の魔物のことだ。
「だけど、それよりは、若干弱いような気がするな」
「主人公のレベルに合わせて難易度が決まるのかも…」
なるほど、だとすると今のアルスのレベルが37でまだ最上級職にはなっていないからか…。
アディは、黙って俺とシルヴィーの会話を聞いている。シルヴィーは仲間の一員のような関係になってから、みんなの前でもいつもこんな感じで話している。当然、アディ達も何かを察しているはずだが余計なことは言わない。それが俺にはありがたい…。
「だけど、あのネームドって」
俺は視線の先にいる他の魔獣の数十倍はあろうかという巨大な魔獣を眺めながら「凄い数のプレイヤーが集まって倒してたよな」と続けた。
「そうね。止めを刺すと貢献度が凄くもらえるからね。出現したらすぐにプレイヤー達が群がってたね」
群がっていたプレイヤーは当然適正なレベルのプレイヤーだ。そいつらが集まって攻撃しても他の魔獣と違って討伐にはそれなりに時間が掛かっていた。中には死んでイベントスタート地点に戻されてしまうプレイヤーも結構いた。まあ、ゲームなら何度死んでも戻って討伐に参加することができる。
だが、この世界ではそんなことはできない…。インプレサリオ達は3人だ。王国騎士達は役に立つレベルじゃない…。
「従者団はかなり強いね。でも魔獣と1対1は無理そうだね」
「従者団?」
「インプレサリオ達がダゴン迷宮で育てた一団だよ。ストレイド王太子の親衛隊みたいなもんだと思う」
なるほど。確かに、王国騎士団よりはレベルが高そうな一団もいるが…。巨大魔獣以外にもたくさんの魔獣がいる。
「あれって危ないんじゃないのか?」
「危ないね。ていうか倒すのは到底無理だね」
「インプレサリオ達がいても?」
「3人じゃ、ぜんぜん無理でしょう」
「だよな…」
これ無理ゲーじゃないのか…?
「レオ! 行くわよ!」
その時、僕とシルヴィーの会話を聞いていたアディが巨大魔獣に向かって駆け出した。
「今のままじゃ無理なんでしょう? 助けるわよ」
アディ…。
俺、シルヴィー、アルス、サラの4人が慌ててアディを追いかける。ジギルバルト団長が何か叫んでいる。
「団長は、クリスティナ様をお願いします!」
見ている間にも巨大魔獣が大きく首を振り上げて暴れるたびにたくさんの騎士達が吹き飛ばされている。
あれは…大型のバジリスクだ。
多人数で討伐することを想定されている魔獣らしくゴレイア迷宮10階層のボスであるジャイアントバジリスクよりさらに大きい。バジリスクは『迷宮物語』では比較的よく出現する魔物だ。出現する場所によって同じバジリスクでもレベルなどが異なる。
「『大範囲回復』!」
アディは騎士達に回復魔法をかけながらバジリスクに近づく。僧侶や神官らしい騎士も頻繁に回復魔法を使っている。
バーン!!
あ! 盾役のピエールが…マエストロらしい…が巨大魔獣に弾き飛ばされた。
「『ダッシュ』、『ガード』、『挑発』!」
俺はアディを追い越して『ダッシュ』で魔物に近づくと『ガード』を使ってから、『挑発』でマエストロに代わってタゲを取った
「『雷弾』、『二段斬り』、『回転斬り』!」
『雷弾』使っても巨大魔獣は硬直しない。大人数で討伐することが前提の巨大魔獣には状態異常は効きずらい。俺は攻撃を受けるのも構わず威力の高い『二段斬り』と『回転斬り』を使った。これで、ネームドは俺を目標に定めたようだ。
「『跳躍斬り』、『3連撃』、『回転斬り』!」
アルスだ。俺がタゲを取ったことでアルスが後方から威力の高いスキルを次々に使う。
「『大範囲回復』!」
アディが俺の足元に回復エリアを出現させてくれた。これで魔獣が回復することはない仕様だ。
「『氷弾』、『氷槍』、『氷矢雨』!」
シルヴィーも魔法スキルを連発する。シルヴィーは俺達の中で一番レベルが低いが氷属性魔法の威力を大幅に上げる伝説級の氷龍の杖を持っている。氷属性魔法が得意な大魔導士ならレベルの79のカンストしたプレイヤーでも欲しがったほどの杖だ。
「『呪いの矢』、『チャージショット』!」
ようやく追いついてきたサラもシルヴィーに続いた。
「うわあーー!!」
タゲを取っていた俺は巨大魔獣が頭を振り上げる攻撃で弾き飛ばされた。当然だ。こいつは何十人ものプレイヤーが集まって倒すことを前提とした魔獣なのだ。ただ、迷宮ボスと違って特殊攻撃などはないはずだ。
「『大回復』!」
「アディありがとう」
アディの『回復』は最近『大回復』へと強化された。俺は仲間達や騎士達が囲んでいる巨大魔獣のところへ戻る。
「『挑発』!」
すぐに『挑発』を使ってタゲを奪い返す。
ガキッ!
俺は 『ガード』で大きな顎での叩きつけ攻撃を防御する。
「『雷弾』、『二段斬り』!」
またも 『雷弾』の硬直効果が発生しないので、『二段斬り』を放ちながら俺もダメージを受ける。
「ううぅぅ…。『回転斬り』!」
それでも俺は歯を食いしばって『回転斬り』を放つ。回転斬りはスーパーアーマーの効果で一度発動すると中断しないがダメージは受ける。巨大魔獣は俺の攻撃を受けて、のたうち回るように暴れている。巨大魔獣が暴れるたびに俺もダメージを受ける。
く、苦しい…。
「『挑発』!」
その時、俺の隣で誰かが『挑発』を使った。
「お、お前は…」
俺の隣に盾を持って現れたのはピエール、いや、おそらくマエストロだ。
「『シールドバッシュ』!」
マエストロは俺と並んで盾役を務め始めた。
ふふっ…。
複数の盾職が並んで盾役を務める。『迷宮物語』でも巨大な魔物に対してはよくこの方法で対応していた…。




