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7-18(大聖女降臨).

 オルデン聖国の聖都オルデアにある大神殿の前に一目で高価とわかる衣装に身を包んだ若い男女の姿があった。特に女性の衣装はただ高価というだけでなく、女性の神秘的な容姿と合わせてまるで周囲に神聖な空気を発しているようだ。それもむべなるかな、女性の纏っているのは『迷宮物語』において制作職のプレイヤーがそれを作るのを目標としていた防具の一つ女神のローブだ。そして女性が手にしている杖は神話級の熾天使の杖だ。


「ここがシズメア教の大神殿か…」


 黒い服装に身を包んだヴィルトゥオーゾが呟いた。ヴィルトゥオーゾの呟きに対してメアリーは品よく頷いた。ヴィルトゥオーゾは自分の黒ずくめの恰好を見て、まるでコレオグラファーのようだなと思った。いちおう金持ちの貴族に見えるように選んだつもりなのだが…。


 大神殿の前は多くの人で溢れていた。観光客らしい人達と神に祈りを捧げに来た敬虔な信者とが入り混じっているようだ。どちらかというと観光客のほうが多数派だろうか?


「今日は観光ですか?」


 ヴィルトゥオーゾに話し掛けてきたのは修道士らしき男だ。


「ええ、有名なオルデン聖国の大神殿を一目見たいと思いまして」とヴィルトゥオーゾが修道士に答える。「それに、できればお祈りもしたいと思っているの」とメアリーが言葉を継ぐ。

「もちろん、多少の寄進もさせていただくつもりです」


 ヴィルトゥオーゾが心得ているとばかりに付け加えた。この修道士はヴィルトゥオーゾ達がどこかの金持ちの貴族でいいカモになるかもしれないと思って声を掛けてきたに違いない。もともとそうなることを目的に服装を選んだのだ。


「そうですか。一目見た時から名のある貴族の方とお見受けしておりました。どうぞこちらへ」


 ヴィルトゥオーゾとメアリーの二人は修道士に神殿の奥へ案内された。途中で修道士は「私はパトリックと申します」と名乗った。3人は雑談を交わしながら立派な通路を奥に向かった。話の途中でヴィルトゥオーゾは、さりげなく寄進したいのはファミール王国の大金貨で100枚ほどだとパトリックに仄めかした。そつのない会社員であり営業職の経験も長いヴィルトゥオーゾにはなんでもないことだ。


 ヴィルトゥオーゾの仄めかしに「大金貨、ひ、百枚…」と驚いたパトリックは当初考えていたより豪華な部屋に二人を案内した。


「し、しばらく部屋でお待ちください。大司祭の誰か、いえ教皇様を呼んできます」


 ヴィルトゥオーゾとメアリーを部屋に案内したパトリックはそそくさと部屋と出て行った。


 ヴィルトゥオーゾとメアリーはすぐに部屋を出てパトリックの後を追う。途中にいた警備の神殿騎士達は声を出す暇もなくヴィルトゥオーゾの闇龍の鎌の露と消えた。二人が歩いた後には次々と死体が増えていく。


 二人の先を行くパトリックは一つの部屋の前で立ち止まるとドアをノックをして、その部屋に入っていった。パトリックはよほど慌てているのか彼の背後で繰り広げられている惨劇に全く気がついていない。


 部屋の前には二人の護衛騎士が立っている。





★★★





 教皇マグブライト13世は教皇派の大司祭二人と神殿騎士団の諜報部門の責任者であるジノの4人でちょうどファミール王国で探索者狩りをさせていたクラン『南都死星』が壊滅した件について話をしていた。


「ファミール王国から激しい抗議文が送られてきました」


 大司祭の一人が言った。


「証拠は?」と教皇が尋ねる。


「シズメア教徒である証拠が押収されたとか」

「過激派の一派の仕業とでも返答しておけ。我が国は関わっていないと」


 もともと教義が過激であるシズメア教には過激な信徒も多い。全くシズメア教を信じていないマグブライトから見れば理解できない輩だ。マグブライトが興味があるのはシズメアより自身の権力だ。多くの人が自分に跪くのを見るのはとても気持ちがいい。


「我らも、過激派の取り締まりには配慮すると付け加えておけば十分だろう」

「それにしても、最近は少しやり過ぎたかもしれませんな。こんなに早くバレてしまうとは…」

「しかも探索者狩りに携わっていた騎士には優秀な者を選抜していましたので、彼らを失ったのも痛手です」と神殿騎士団のジノが言った。


 その時、部屋をノックする音が聞こえた。


「誰だ?」

「パトリックです」

「パトリック、今は重要な会議中だ」

「申し訳ありません。ですが大金貨100枚を寄進したいという貴族の方がお見えです」

「大金貨100枚だと」


 金はマグブライトが権力の次に好きなものだ。


「入れ」


 部屋に入って来たパトリックはマグブライト達に早口で大金貨100枚を寄進したいといっている若い男女の貴族の話する。


 話の途中で教皇が突然「お前達は誰だ」と言った。 パトリックが振り向くとそこにはさっきの男女、ヴィルトゥオーゾとメアリーがいた。


「部屋でお待ちくださいと言ったはずですが」

「いや、あまりお手数をお掛けしても申し訳ないと思いましてね」

「ヴィルトゥオーゾ殿、ここは部外者の方は…」


 ヴィルトゥオーゾはパトリックの言葉を無視して、パトリックを押しのけるように前に出ると「お前が教皇マグブライト13世だな」と言った。


 マグブライトはあまりにも無礼な言い回しに一瞬言葉を失った。こんな言葉をマグブライトに投げつける者など久しくいなかったからだ。


「貴様、何者だ無礼な!」


 気を取り直したマグブライトが大声を上げた。素早くマグブライトの前に出たのは神殿騎士のジノだ。


「返答によっては…」


 ジノの言葉は途中で遮られた。首を失ったのだから当然だ。ヴィルトゥオーゾはいつの間にか手に鎌のような武器を持っていた。あまりの切れ味に首を刈り取ったにもかかわらず大して血もついていない。


「ひえぇーー!!!」


 床に転がったジノの首を見て、部屋にいた大司祭の一人が悲鳴を上げた。たちまち「何事だと」との言葉とともに多くの神殿騎士や修道士などが集まってきた。


 その中には反教皇派の大司祭の一人ザカリアもいた。騒ぎに気がついたザカリアは慌ててこの場に顔出したのだ。ザカリアの私室もこのエリアにあるので比較的早くこの場に現れることができた。この後、反教皇派で信心深い、言い方を変えればシズメア教原理派である大司祭のザカリアは、それからの人生を変える驚くべき光景を目撃することになる。


 ザカリアの目の前で、黒ずくめの男が女性に頷くと女性が杖を掲げた。すると揺れるような光とも炎とも判断できないものに包まれたエリアが出現した。


「ぐうおぉぉーーー!!」

「がはぁーーー!!!」

「グググゥーー!!」


 そのエリアに捕らわれた教皇マグブライト13世、教皇派の大司祭の二人、そしてジノの部下の神殿騎士達が大声を出して苦しんでいる。だが、その声もまもなく聞こえなくなった。


 命の炎が消えたからだ。その女性、メアリーが使ったのは聖女唯一の攻撃魔法スキルである『聖域』だ。


 声も出せずに固まっているザカリアにメアリーは抑揚のない声で「この聖域の中では心悪しき者は生きられません」と言った。


「心悪しき者は生きられない…」


 その言葉はザカリアの胸にストンと落ちた。あいつは全くシズメア様を信じていなかった。権力と金が好きなだけな俗物だ。それでもザカリアなどよりよほど知恵が回り、その結果、教皇に選出され教団のいや、この国のトップとなった。


 そういえば…。


 その女性はまるで女神様のようだとザカリアは思った。いや女神ではなく…。


 そうか…。


「あなた様はシズメア様がお遣わせになった大聖女様なのですね」


 シズメア教では女神シズメアに使える4人の大聖女の話がある。この女性はその大聖女、もしくは大聖女の生まれ変わりに違いない。最近の教団の腐敗を憂いたシズメア様がお遣わせになったに違いない。


 メアリーは職としては最上級職の聖女だ。この世界では伝説職の大聖女は解放されていない。だが、身に着けているローブや手にした杖などは大聖女もかくやというものばかりだ。


「あなたは?」


 メアリーはこの場の状況に全くふさわしくない落ち着いたというより何か心ここにあらずと言った口調で訊いた。ヴィルトゥオーゾの見るところ、あの時からメアリーの心は閉ざされている。いや、狂っているのかもしれない。それでも、ヴィルトゥオーゾはそんなメアリーの望みをできるだけ叶えてやろうと思っている。だから、メアリーを25階層のボス部屋でパワーレベリングをし、『南都死星』の拠点を潰し、さらには、こうして『南都死星』の背後にいたオルデン聖国の教皇のところまで連れて来た。


「大聖女様、私は、大司祭のザカリアと申します」

「ザカリア…」

「はい。大聖女様はシズメア様から命を受けて教団の腐敗の原因である教皇一派に天罰を下すために顕現されたのですね?」

「まあ、そんなものです」


 メアリーはおっとりとザカリアの言葉を肯定した。ヴィルトゥオーゾはそんなメアリーを黙って見つめていた。メアリーの顔には最初にものおじせずにヴィルトゥオーゾに話し掛けてきた時の人懐っこい表情はなく、瞳にはあの生き生きとした光はない。


 メアリーをこんな風にしたのは教皇達だ。


 メアリーの肯定の言葉を聞いた大司祭ザカリアは「教皇マグブライト13世とその一味には天罰が下った。皆も知っての通り教皇は一欠片の信仰心もなく教団を、いや国を自らの食い物にしていたのだ。それを憂いたシズメア様が大聖女様を遣わして下さったのだ!」と叫んだ。


 いつの間にか多くの修道士、修道女、神殿騎士達が集まっていた。


 メアリーが杖を掲げた。


 すると清浄な光に満ちたサークルが出現した。その光に触れた人々は何か体の奥から力が漲るのを感じた。神殿騎士の中には古傷が癒えた者もいた。


 メアリーが使ったのは最上級回復スキル『超範囲回復』だ。この世界で見たことのある者はいないだろう。


「これは…。大聖女様は本物だ!」

「本物のシズメア様からのお遣いだ!」


 その場にいる人達から大聖女を称える言葉が上がった。


 この日、オルデン聖国は大きな転換点を迎えた。

 ここまで読んで頂きありがとうございます。これで第7章は終わりです。明日から第8章に入ります。第8章は8話くらいの予定です。


 もし本作に少しでも興味を持って頂けたらブックマークと『★★★★★』での評価をお願いします。また、忌憚のないご意見や感想をお待ちしています。読者の反応が一番の励みです。


 拙作「ありふれたクラス転移~幼馴染と一緒にクラス転移に巻き込まれた僕は、王国、魔族、帝国など様々な陣営の思惑に翻弄される…謎解き要素多めの僕と仲間たちの成長物語」と「乙女ゲームの断罪の場に転生した俺は悪役令嬢に一目惚れしたので、シナリオをぶち壊してみました!【連載版】」も読んで頂けると嬉しいです。

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