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7-17(南斗死星).

 この世界の夜は早い。この時間に外を歩いている者はほとんどいない。だから、見つかる心配も少ないが、逆に見つかれば怪しいことこの上ない。街灯のような魔道具はあるが魔石を無駄遣いできないから数も少ない。その魔道具である街灯の鈍い光が生み出す俺の影は輪郭がぼやけている。


 俺は探索者クラン『南斗死星』の拠点である建物の前にいる。


 建物の前に見張り以外に人影はない。この建物は『グリフォンの鬣』などの拠点とは違い探索者ギルドから少し離れた裏通りにある。だが、建物自体は立派な3階建てだ。


 探索者狩りの正体は探索者クラン『南斗死星』だ。『迷宮物語』の知識で俺は知っている。


 だが、それがイベントかどうかなんて関係ない。俺達はあの時死んでいたかもしれない。なんとかケルベロスを倒して生き残ったが、こいつらは俺のアディや仲間達を殺そうとしたのだ。しかも、それは成功してもおかしくなかった。


 絶対に許さない…。 


 俺達を襲ってきた8人のうちリーダーらしき男が『南斗死星』の4人の幹部の一人でウィルパーという名だとわかっている。昼間この建物を見張っていた俺は、ウィルパーの皮鎧の傷が間違いなく俺がつけたものだとわかった。


「『挑発』!」


 俺は『挑発』で建物の前に立っていた見張り2人を引き寄せると『回転斬り』を使った。2人は暗闇から仕掛けられた攻撃に何が起こったのか理解する間もなく俺の前に倒れている。俺は2人の持ち物を探り建物の鍵を発見した。


 鍵を使って建物の中に入る。建物を入ったところにある広間のような場所には誰もいなかった。もう夜は遅い。各自の部屋に引き上げているのだろう。幹部の部屋は3階だと情報を得ている。1階は広間や会議室、2階には有力なメンバーの個室、3階には幹部の個室がある。

 迷宮狩りの犯人が『南斗死星』であることはクリスティナ王女を通じてジギルバルト団長に情報を提供している。いずれ捜索が行われるだろう。いや、既に始まっているのかもしれない。


 『迷宮物語』ではクラスメイトを殺された主人公がギルバルト団長と一緒にこの建物に乗り込んだはずだ。主人公はいろいろと紆余曲折を経て『南斗死星』のことを突き止めるのだが俺は最初から知っている。俺は『迷宮物語』での主人公の役目を一部代行しているに過ぎない。


 俺は足音は忍ばせて3階まで上がった。どれがウィルパーの部屋なのか?


「皆殺しにすればいいだろう」


 俺が思案していると背後から声がした。


「お、お前は…」


 俺が振り返るとそこにはヴィルトゥオーゾがいた。


 いつの間に…。


 ヴィルトゥオーゾの隣には美しい銀髪をした女性が立っている。ヴィルトゥオーゾはもちろんその女性が只者ではないと俺は一目で覚った。その女性もヴィルトゥオーゾと同じで『迷宮物語』の最高装備を身に纏っている。あの杖は神話級の熾天使の杖だ。回復系のプレイヤーにとって最高の杖だ。回復魔法スキルの効果を大幅に上昇させる能力がある。


 この女性は回復役なのだろうか? ずいぶんレベルが高そうだ。ヴィルトゥオーゾ以外に転移したプレイヤーがいるのか? 見覚えはないが…。


 ドーン!!!


 ヴィルトゥオーゾが闇龍の鎌を床に叩きつけた。床が大きく凹んでいる。


「な、なんだ!」

「どうした!?」

「何事だ!!」


 建物中からを声がして部屋からクランの探索者達が出てきた。


「侵入者だ!」

「装備を整えろ!」


 ヴィルトゥオーゾを見たものが口々に叫んでいる。ヴィルトゥオーゾと銀髪の女性は、そんな声を気にもしないで、悠々と1階の広間まで降りた。なぜか俺も二人の後に続いた。


 二人はこの建物にいる全員が集まるのを待っているようだ。


 ヴィルトゥオーゾは俺を見ると「お前は…。そうか、主人公か。そういえば、これはイベントだったな。だが、主人公が一人で乗り込んで来るんだったか…。まあ、いい」


 ヴィルトゥオーゾは何か呟いている。


 気がついたら俺達は大勢の『南斗死星』のメンバーに囲まれていた。俺はその中にウィルパーがいることに気付いていた。


 ヴィルトゥオーゾと銀髪の女性はこいつらとやり合うつもりらしい。ヴィルトゥオーゾはレベル79の魔王だ。こいつらが何人いようと相手じゃないだろう。


「なあ、あの剣士らしい男は俺に任せてくれないか?」


 俺は視線でウィルパーを示してヴィルトゥオーゾに言った。


「あの剣士は?」

「俺の大切な仲間を殺そうとした奴だ」


 ヴィルトゥオーゾはチラっと俺見ると「いいだろう」と言って前を向いた。


 俺は下を向いてちょっとした準備を整える。


「『挑発』!」


 俺は挑発を使ったが、ウィルパーはタイミングよく『回避』で避けた。俺はすぐに「うおおぉぉぉーーー!!」と気合を入れて一直線にウィルパーとの間合いを詰めた。


「『雷弾』!」


 走りながらが『雷弾』を使うが、ウィルパーは『ダッシュ』でこちらへ向かってきた。『ダッシュ』のスーパーアーマー効果で『雷弾』の硬直効果は防がれた。やはり、こいつはPVPに慣れてる。だが、『雷弾』でダメージは受けた。


 魔剣ソウルイーターとウィルパーの剣がぶつかる寸前、俺は『ガード』を使って盾でウィルパーの剣を受けた。ウィルパーは『剛剣』を使っていた。硬直させられるところだった。


 俺はふーっと溜息を吐くと、改めて魔剣ソウルイーターでウィルパーに斬り掛かった。


 ガキン! 


 魔剣ソウルイーターとウィルパーの剣がぶつかり火花を散らす。ウィルパーは次に何かのスキルを使おうとしていたようだが既に硬直している。ウィルパーは『挑発』と『雷弾』を防いだ。あとは『跳躍斬り』か『剛剣』の硬直効果を警戒すればいいと思っていたはずだ。だが、俺はウィルパーに斬り掛かる前に『雷剣』を使っていた。ついでに『集中』もだ。


 1対1のPVPにおいては短期決戦が基本だ!

 

「『二段斬り』、『ダッシュ』、『スラッシュ』」


 もっとも得意なコンボで攻撃する。途中に余計な通常攻撃とかは挟まない。PVPに慣れた相手だとちょっとした隙でコンボを中断してくるからだ。実際、ウィルパーは『二段斬り』の打ち終わりを狙っていた。俺が『ダッシュ』で隙をキャンセルして『スラッシュ』に繋げたのでコンボは成立した。だが、俺も多少のダメージは受けた。これらのスキルは決して無敵ではないからだ。やはりこいつは対人戦に慣れている。


 俺のコンボ攻撃を受けたウィルパーは「がはっ!」と口から血を吐いた。


 周りではヴィルトゥオーゾ達が暴れている。強力なスキルが使われている大きな音が響いている。怒声のようなものも聞こえる。だが、気にしている場合じゃない。


「こ、小僧…」


 これまでの攻防で確信したが、ウィルパーは最上級剣士だ。ジギルバルト団長と同じだ。レベルは俺のほうが高いと思うがそこまで違わない。レベルの高い奴っていうのはいるところにはいるもんだ…。それに、この世界での人殺しには俺より慣れている。


 ウィルパーは吐血しながらも俺を警戒するように見ている。ウィルパー、それは悪手だぞ。時間が経てばスキルのCTが空く…。


「『雷弾』!」


 俺はCTの空けた雷弾を放つ!


「『ダッシュ』!」


 ウィルパーは雷弾をまたもや『ダッシュ』で避けた。敵ながら上手い。直撃を避けると同時に『ダッシュ』のスーパーアーマー効果で硬直を防いでいる。やっぱり、こいつは対人戦のプロだ。


「『挑発』!」

「『回転斬り』!」


 ウィルパーは、『挑発』の引き寄せて移動不能にする効果を、今度は『回転斬り』のスーパーアーマー効果で防ぐ。やり難い…。


 俺は魔剣ソウルイーターで斬り掛かる。まだギリギリ『雷剣』の効果が続いている。硬直効果のCTは空けている。


 魔剣ソウルイーターはウィルパーを捉えたかに見えたが…。ウィルパーは『回避』で魔剣ソウルイーターを避けた。


 魔剣ソウルイーターはウィルパーを捉えたが『回避』の無敵効果でノーダメージだ。なかなか上手い。硬直効果を発動させるためにわざと受けた上で『回避』で無効化した。最初の攻防で学習したようだ。ウィルパーはニヤリと笑うと「そろそろ手札も尽きたんじゃないか」と言った。


 1対1のPVPは、どちらが先に相手に硬直などの状態異常スキルを当てるかの勝負だ。ウィルパーは俺の『雷弾』、『挑発』、『雷剣』を防いだ。対してウィルパーはこれまで状態異常のあるスキルを使っていない。剣士系なら『剛剣』とか『跳躍斬り』とかが残っているはずだ。


「ふん、最初の攻防で一気に勝負を決めるべきだったな、小僧。俺に1対1で勝とうなんて10年早い」


 ウィルパーは俺に時間を与えず、すぐに剣で斬り掛かってきた。俺はとっさに『ガード』で受けた。さらにジャンプして攻撃してきたので『回避』して避ける。


「残念だったな」


 ウィルパーは吐血するほどのダメージを受けているにもかかわらず不敵な笑みを浮かべている。


 『剛剣』からの『跳躍斬り』かと思ったがフェイントだった…。ただの剣での攻撃だったのだ。俺は『ガード』と『回避』を使ってしまった。まだ、『ダッシュ』と『回転斬り』のスーパーアーマー効果が残ってはいるが、あれらは無敵ではない。この調子だと…。


 ウィルパーは勝利を確信している様子だ。だけど、悪いな、ウィルパー、卑怯なんて言うなよ。俺は、お前にまだ見せていない最高の魔法スキルを持っているんだ。


 俺が「『天雷』!」と叫ぶと無数の稲妻がウィルパーを襲った。『天雷』は範囲魔法でありヴィルトゥオーゾ達まで巻き込んだかもしれないが、気にしている場合ではない。


「ぐわぁーー!!!」


 ウィルパー、お前のほうこそ、もう状態異常を防ぐ手段は使い切ってるだろう? 確かにお前のほうが人殺しには慣れている。だが、俺は硬直を誘発するスキルを結構たくさん持ってるんだ…。まあ、チートだ。


「『跳躍斬り』!」


 ウィルパーは『跳躍斬り』を移動に使った。とっさにしてはいい判断だ。だが『天雷』の効果範囲は広い。ウィルパーはすぐに稲妻に当たり硬直した。『ダッシュ』や『回避』があれば逃げられたかもしれない。だが、それらのCTが空けるにはまだ少しだけ時間が必要だった。


「『二段斬り』、『ダッシュ』、『スラッシュ』」!」

「ぐわぁっ!!!」


 俺は、再び得意のコンボで攻撃した。剣を放り出して腹を抱えて倒れたウィルパーに俺は冷静に止めを刺した…。


 ウィルパー、この世界でそれだけのPVPの技術を身に着けてるってことは、ずいぶん人を殺してきたんだろう? だったら、自分が殺されたからって恨むなんてことはないよな?


「あの世で自分が殺した人達に詫びろ! ウィルパー!」


 俺はウィルパーの死体を睨みつけて叫んだ!


「おい、主人公、ずいぶん時間がかかったな」


 気がつくと辺りは静かになっている。俺とヴィルトゥオーゾ、そして銀髪の女性以外に動いている者はいない。俺の『天雷』以外にも大規模な範囲魔法が使われたようで建物の床は穴だらけで壁にも大きな穴が空いている。


「貴方、回復の必要はあるの?」


 銀髪の女性が俺に尋ねた。


「いえ、大丈夫です」

「そう、なら良かったわ」


 夜遅くとはいえ、これだけ暴れたら騎士団が駆けつけて来るかもしれない。そもそもここは騎士団に見張られていた可能性もある。


「それじゃあ、これで…」


 俺はそそくさとこの場を立ち去ろうとした。


「そうだ、お前、こいつらの背後にいる奴を知らないか?」


 ヴィルトゥオーゾは覚えていないのか…。


「こいつらの背後にいるのはオルデン聖国だ」


 俺はヴィルトゥオーゾに教えてやった。


「なるほど、思い出した。確か、他国の有望な探索者を殺して迷宮探索を邪魔しているんだったな」

「有望な探索者を…」


 ヴィルトゥオーゾの隣の銀髪女性が何かを呟いた。

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― 新着の感想 ―
現時点では最強かな? ヴィルトゥオーゾさん。 メアリーさんをちゃんと育成している様でなにより。 この二人がどう動くのか気になりますね。
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