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7-16(15階層突破の成果と疑問).

「さすがにこの辺りになると誰もいないね」


 今日は転移魔法陣で15階層のボス部屋を抜けたところにある部屋まで転移して16階層を探索中だ。ここまで来ると他の探索者の姿は見かけない。16階層を探索できるとなると『迷宮物語』でもレベル30以上、この世界なら少なくともレベル35以上の者くらいだ。


「それにしても、なんか気持ち悪いね」


 サラが辺りを見回して言った。


 16階層の通路はかなり広い。広いというより地上のような空間が続いているといったほうが近い。足元は湿った泥のような状態だ。歩くとズボズボ音がする。


 俺達はあれからはケルベロスに挑んでいない。一回クリアしたからといって帰還の腕輪なしに相手にするようなもんじゃない。まあ、よほど俺達のレベルが上がれば別かもしれないが、というわけで、俺達は転移魔法陣を使い16階層に降りてレベル上げに励んでいるのだ。あれから、俺達は探索者狩りには遭遇していない。もちろん注意は怠っていない。


 あれについては手を打っておくつもりだ。あれは『迷宮物語』のイベントだから犯人もその背景も俺は知っている。


 ケルベロスを討伐した俺達の今のステータスはこんな感じだ。まあ、俺は変わっていないのだが…。




【レオニード・メナシス 16才】


 <レベル>    46

 <職業>     最上級重剣士3

 <スキル>    スラッシュ、二段斬り、ダッシュ、回避、回転斬り、集中(B+2)、雷剣、死線、ガード、挑発

 <魔法スキル>  雷弾、天雷

 <称号>     雷神の守護者

 <武器>     魔剣ソウルイーター(伝説級、特殊効果:HP吸収、補助効果:攻撃速度+5%、攻撃速度+3%)

          ガーゴイルの盾(レア級、補助効果:状態異常時間+10%)

 <装備アイテム> 力の指輪(一般級)、知恵の指輪(一般級)




【アデレード・アルメッサー 16才】


 <レベル>   33

 <職業>    クレリック7

 <スキル>   瞑想、後方回避

 <魔法スキル> 炎弾(A+1)、炎槍(A+1)、回復、解毒、浄化、大範囲回復

 <武器>    キマイラの杖(レア級、補助効果:魔法攻撃力+5%、魔法攻撃力+3%、魔法攻撃力+1%)

 <アイテム>  知恵の指輪(レア級)、精神の指輪(一般級)、魔力の指輪(一般級)




【アルス 16才】


 <レベル>   33

 <職業>    上級剣士7

 <スキル>   スラッシュ、回避、回転斬り(A+1)、跳躍斬り(A+1、C+1)、集中、3連撃

 <魔法スキル> 風刃(A+1)

 <称号>    光の守護者

 <武器>    サイクロプスの剣(レア級、補助効果:攻撃速度+3%)

 <アイテム>  力の指輪(一般級)、光精霊のマント(レア級)




 【サラ・フィッシャー 16才】


 <レベル>   31

 <職業>    上級弓士6

 <スキル>   強射、チャージショット(A+1、B+1、C+1)、後方回避、呪いの矢(C+1)

<武器>    ケルベロスの弓(レア級、補助効果:クリティカル率+10%、クリティカル威力+5%)

 <アイテム>  必殺の腕輪(一般級)




 アディはレベルを33まで上げ『浄化』を覚えた。


 アルスはレベルを33まで上げてアディに追いついた。光の守護者の効果だ。なんとなくジギルバルト団長に似たスキル構成になっている気がする。それと『跳躍斬り』が2回強化された。威力とCT短縮だ。ほんとは『集中』を強化したいところだが仕方がない。


 サラのレベルは31だ。なんといってもケルベロスの弓が凄い。補助効果にクリティカル率+10%とクリティカル威力+5%が付いている。もともとクリティカルが出やすく一撃必殺を特徴とする弓系の職にぴったりだ。それにスキル構成に無駄がない。主力スキルの『チャージショット』が3回強化されている。『チャージショット』は最大5回まで強化できる主要スキルだが、上級弓士の段階では3回が最高だ。強化Aはクリティカル率とクリティカル威力の両方を上げる。強化Bはチャージ時間短縮、強化CはCT短縮だ。チャージしている間は無防備になるので強化Bも重要だ。さらに呪いの矢は相手のクリティカル耐性を一時的に下げる。そして強化Cで発射される矢の数が増える。現状一度に2本の呪いの矢を打てる。俺が弓士でもこの構成を選んだんじゃないだろうか。


「レオ、ちょっと不思議に思うことがあるんだけど…」


 突然アルスが俺に話し掛けてきた。


「どうしたんだ、アルス?」

「みんなのおかげで15階層のケルベロスを倒してここまで来れた。だけど、15階層のケルベロスはとても強かった」

「そうだな」

「そうね。私もそう思うわ」とアディが言った。

「アルス、いまさらどうしたの?」とサラが不思議そうに尋ねた。


 アディのほうは何か思い当たるのかアルスの顔を見ている。


「うん。王国騎士団なら大隊長以上の者、4大貴族の騎士団長クラス、それに大手クランの幹部達、ほんの限られた者達しかここには来れない」


 俺達はアルスの次の言葉を待った。


「その人達って僕のような平民と違って重要人物だよね。当然、帰還の腕輪を使っているよね。しかも、初回だけでなくその後も使っていると思うんだ。だってケルベロスはあんなに危険なんだよ。一回クリアしたからって、そんな重要人物達が帰還の腕輪なしに挑戦するとは思えない。実際僕達もまだ2回目には挑んでいない。帰還の腕輪は思った以上に大量に必要なんだよ」


 なるほど…。そうか、アルスの言いたいことがわかってきた。


「特に、これまでのボスに比べても15階層のケルベロスは危険だった。そして15階層のケルベロスの攻略方法は公表されていない。王家や4大貴族が秘密にしてるって話だよね。なぜかレオが知ってたけど…」

「いや、それは、ちょっとシルヴィーと挑戦してみたことがあって…もちろん帰還の腕輪を着けてだ…」

「それはいいんだ、レオ。そうじゃなくて王家や4大貴族には他にも何か秘密があるんじゃないかと思うんだ。特に帰還の腕輪に関して…」

「アルス、例えば、一度クリアしているジギルバルト団長みたいな人達が、未経験者を一人ずつ連れてクリアさせるとかはどうだろう?」

「それは、僕も考えた。でも10階層くらいまでならともかく15階層ではどうかな? それに、帰還の腕輪がいるのは同じだよ。むしろ、そのやり方だと、よりたくさん必要になるんじゃないかな?」

「そういえば、そうか…」


 アルスの言う通りな気がしてきた。どんなやり方でも思った以上に大量の帰還の腕輪が必要だ。


 迷宮のボスは15階層辺りから難易度が急速に上がる。10階層までなら、俺が最初にゴレイア迷宮でやったようにソロで挑むような無茶をしなければ、かつ十分にレベルを上げてから挑めば比較的短期間でクリアできてもおかしくない。


 もちろん攻略方法をよく理解した上でだ。


 そして、この世界でも10階層のボスまでは攻略方法やボスの攻撃パターン、ギミックなどは公表されている。しかし15階層からは違う。『迷宮物語』でも15階層のボスからはなかなか歯ごたえがあった。簡単にはクリアできず何回も挑戦してやっとクリアするのが普通だった。ネットで攻略方法をいくらでも調べられるゲームでもそうだったのだ。この世界での困難さは身を持って経験した。 


「かなりの数の帰還の腕輪がないとおかしいと思うんだ。前から疑問に思ってたんだ。自分でケルベロスをクリアしてみて改めてそう思ったんだ」

「アルス、鋭いわね。お父様やお兄様なら何か知っているしれないわ。それでも、噂は聞いたことがあるわ」

「噂?」


 俺は思わずアディに訊き返した。


「王家は帰還の腕輪をかなりの数持っている。もしくは手に入れる方法を知っている。そんな噂よ」


 そんな噂が…。


「やっぱり、そうか」


 アルスはアディの言葉に頷いている。それにしてもアルスは冷静だし頭もいい。さすが主人公だ。そんなことを考えていたなんて…。 


「ん!? みんな、魔物だ!」


 ごぼごぼと地面の下から音がする。


 グバァァァーーン!!!


 何かが破裂するような音がしたと思ったら、地面を突き破るようにして巨大なミミズのような魔物が飛び出してきた。


 ジャイアントワームだ!


「相変わらず気持ち悪いわね。『炎槍』!」


 アディが魔法スキルを放った。こいつは炎属性が弱点だ。 


「『挑発』!」


 俺はすぐに『挑発』でタゲを取った。


 俺に目標を定めたジャイアントワームはアディの『炎槍』によって焼けた皮膚から嫌な臭いをさせながら俺に飛び掛かってきた。


「『ガード』!」


 ガボッ!


 ジャイアントワームと俺の盾が激突して変な音を立てる。


「『チャージショット』!」

「『跳躍斬り』、『回転斬り』」


 後方からサラとアルスが攻撃する。ジャイアントワームが体をくねらせて暴れている。アルスの『回転斬り』は中断しないがダメージは受けている。


「『回復』!」


 アディがすかさずアルスを回復した。アディの回復役も堂に入っている。


「『3連撃』!」


 アディに回復してもらったアルスはそのまま『3連撃』を使う。


「『炎弾』!」

「『強射』!」


 アディの『炎弾』とサラの『強射』が命中したところでジャイアントワームは魔石になった。俺達の連携もずいぶんよくなった。俺はタゲを維持するだけでこと足りた。


 俺がジャイアントワームの魔石を拾っていると、近づいて来る足音がした。遠くから近づいて来る人影が見える。まさか、また探索者狩りなのか? 4人パーティーだ。16階層は広い空間のような場所なのでかなり遠くまで見える。


「お前ら何者だ?」


 現れた4人パーティーのリーダーらしき男がいきなり尋ねてきた。盾と槍を持っている筋肉質な男だ。どうやら、探索者狩りではなかったらしい。


 俺は、何か言い返しそうなアディの前にスッと出ると「ただの探索者です。貴方達もでしょう?」と言った。

 俺の後ろからアルスが小声で「『グリフォンの鬣』だよ」と教えてくれた。言われてみればリーダーの皮鎧に羽の生えた獅子のマークが見える。グリフォンは王家が管理するベングラウ迷宮の最深部である15階層のボスだ。『グリフォンの鬣』といえばいつだったか俺達を襲ってきた奴らだ。あの時襲ってきた奴らは俺達が皆殺しにした。それに、一応警告はしておいたんだが…。


「ずいぶん若いな。もしかして学園の生徒なのか?」

「……」


 俺は何も答えずに相手を見返した。


「まあ、いい。それにしても学生がこんなとこまで…。一応サブマスターに報告しとくか…」


 結局、4人はジロジロと失礼な目つきで俺達を観察しつつも、それ以上何も言わずに離れていった。今回は学園の生徒を狙っていたわけではなかったようだ。


 俺達のほうもなんだか集中力が削がれたようになったので、それから間もなく迷宮から帰還した。

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